従来のロボットは、手先の位置決め精度を高めるために高重量、高剛性となっています。 このようなロボットが物体と接触すると、物体やロボットが破壊される可能性が高いです。 そのため、ロボットの用途は大幅に制限されてきました。 人と同じような作業ができる次世代のロボットは、物体と容易に接触できる必要があります。
そこで、本研究では各関節のアクチュエータが必要とするトルクを削減する重力と把持力の同時可変補償機構を提案しました。 必要なトルクが削減できれば、各関節のアクチュエータは小型で十分になり、 アクチュエータに用いる減速機の減速比を減らすことができます。 これにより、ロボットの軽量・柔軟化が可能になります。
本機構は、ロボットの手先が物体を把持する際に必要になる把持力と重力補償トルクを、 ロボットの土台部分にある1つのアクチュエータで発生できます。 人間も、重い物体を把持しながら持ち上げるときには浅指屈筋という筋肉が働き、 握力と手首、肘トルクを同時に発生させています。 つまり、本研究で提案した機構はバイオメカニクスの観点からも興味深く、妥当なものです。 本機構により、静止時には90%程度のトルクを削減できることを確認しています。
成果論文 |
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「6自由度ロボットアーム手先把持物の可変重力・把持力補償機構」 三田部 勇気、植村 充典、土井畑 禅、川村 貞夫 SICE第18回システムインテグレーション部門講演会(SI2017) |
「Simultaneous gravity and gripping force compensation mechanism for lightweight hand-arm robot with low-reduction reducer」 Mitsunori Uemura, Yuki Mitabe and Sadao Kawamura Robotica, 14 January 2019. |
さらなるロボットの軽量・柔軟化のため、先端材料とワイヤー駆動を用いたロボットを製作しています。 ワイヤー駆動とは、電磁モータ等のアクチュエータが発生する力をワイヤーによって各関節に伝達するロボットの駆動方法です。 これにより、重力の影響を受けやすく大きく動く末端部にアクチュエータを配置する必要がなくなり、ロボットの軽量化と柔軟化が可能となります。 人間も、筋肉の大部分は手先や足先の末端部ではなく胴体に近い部分に集中しています。 このようなワイヤー駆動ロボットの新しい設計方法や、機構を提案しています。
従来のワイヤー駆動ロボットでは、ロボットが動作する際の負荷によりワイヤーが切断される問題がりました。 それに対し、近年化学繊維ロープの機械的性能が飛躍的に向上しており、同じ直径の金属ワイヤーを上回る強度が実現されています。 このような先端材料を用いることで、従来では困難であった軽量かつ柔軟なロボットの実現を目指しています。 更に、近年ではカーボンファイバーを用いた軽量かつ高強度な構造部品が利用可能になりつつあります。 これらの組み合わせにより、これまでは実現できなかった接触作業が可能なロボットの実現を目指しています。
試作した実機では、下の動画のようにロボットの手先が机に衝突しても問題なく動作を継続し、 接触作業を容易に実現できることを確認しています。
成果論文 |
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「先端化学繊維ロープを用いた軽量脚・腕ロボット」 植村 充典、八木 聡明、平井 宏明、宮崎 文夫、川村 貞夫 第35回日本ロボット学会学術講演会(RSJ2017) |
脚ロボットのバランス能力を向上する制御法を提案しています。 従来の脚ロボット制御では、ロボットの重心位置と速度、ゼロモーメントポイント(ZMP)を用いて ロボットのバランスを維持する法が提案されてきました。 しかし、この方法ではロボットの重心周りの回転は無視されています。 従って、ロボットが重心周りに回転すると最悪の場合ロボットが転倒してしまいます。
それに対し、我々の提案した足首周りの角運動量を用いる方法では重心周りの回転を考慮しています。 従って、重心周りにロボットが回転しても適切に対処できます。 また、本手法と安定領域を最大化するバランス制御を統合することで、下図のような足首トルクを主に用いたバランス制御と 胴体姿勢の調節も併用したバランス制御、踏み出し制御を最適に切り替える方法も提案しました。 これにより、脚ロボットのバランス能力が最大化できます。 人間も、小さな外乱に対しては足首のトルクを主に使って踏ん張り、それで対処できないような外乱が加わると胴体を傾けて踏ん張り、 さらにそれでも対処できない場合は脚を踏み出すことが古くから知られています。 よって、本制御法は生体運動制御の観点からも興味深いものとなっています。
更に、本制御法は従来の方法では困難であったつま先立ちのような場合でもバランスを維持できます。 これにより、凹凸の激しい路面で足裏が地面と十分に接触できないような場合でもロボットのバランスを維持することが可能となることや、 足首部分にアクチュエータが不要となることで脚ロボットの軽量化・低価格化が可能となります。
成果論文 |
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「足首周りの角運動量に基づく脚ロボットの立位可安定性」 植村 充典、平井 宏明、宮崎 文夫 第33回日本ロボット学会学術講演会(RSJ2015) |
「足首周りの角運動量を用いたバランス指標に基づく脚ロボットの歩行制御」 植村 充典、平井 宏明、宮崎 文夫 第34回日本ロボット学会学術講演会(RSJ2016) |
「足首周りの角運動量に基づく脚ロボットバランス制御の実験的検討」 八木 聡明、植村 充典、平井 宏明、宮崎 文夫 ロボティクス・メカトロニクス講演会2017(ROBOMECH2017) |
「Standing and Stepping Control with Switching Rules for Bipedal Robots based on Angular Momentum around Ankle」 Mitsunori Uemura, Hiroaki Hirai International Journal of Humanoid Robotics, to appear |
通常のロボットは、電磁モータ等のアクチュエータだけで各関節を駆動しています。 それに対し、生物は筋肉の発揮力だけでなく、筋肉や腱のバネ(弾性)を利用することで効率的に運動しています。 本研究では、下図のようにロボットの各関節にアクチュエータだけでなく弾性を調節できる機械要素を併用し、 その剛性を自動的に最適化する高エネルギー効率制御法を提案しています。 制御系の安定性は数学的に証明しており、ロボット制御の理論的基盤にも貢献しています。
可変剛性機械要素を小型・軽量で実現するため、下図のような新しい機構の提案も行っています。 本機構と剛性最適化制御法を用いた実験により、ロボットの周期運動を約6分の1の消費エネルギーで実現できることを確認しています。 さらに、剛性と運動パターンを同時に最適化する制御法も提案し、消費エネルギーを約20分の1程度に削減できることも実験的に確認しています。 今後は、本制御法をロボットのピックアンドプレース作業や歩行等の高エネルギー効率化に応用する予定です。
従来のロボットは、不意に物体と接触するとロボットか物体を破壊してしまうため、物体を極めて精密に認識する必要があります。 しかし、物体の情報が未知であったり物体同士が重なり合っていたり、物体が変形していたりすると物体の認識は極めて困難になります。 これにより、整備されていない環境でロボットが動作する場合、遂行できる作業が大幅に限定されたりロボットの動作が極めて遅くなってしまいます。
これに対し、これまでに研究してきた軽量・柔軟ロボットアームは物体と容易に接触できます。 この特徴を活かすと、物体を詳細に認識できていなくても物体に接触して動かすことが可能になります。 これにより、物体の動きに基づいた物体認識が可能になります。 未知物体の動きに基づいたリアルタイムな認識方法に関しては、自動運転にも用いられるSLAM(Simultaneous Localization And Mapping)と呼ばる技術が近年急速に進展しています。 本研究では、SLAMをロボットの物体認識に応用し、従来とは全く違った触って動かすことによるリアルタイムな物体認識方法の構築を進めています。
近年、金属や連続炭素繊維を印刷できる3Dプリンターや、トポロジー最適化が可能な3DCADが利用可能になっています。 これらの技術は、従来のものづくりを革新する可能性を秘めています。 実際、航空機のエンジンが金属3Dプリンターによって製造され、燃費の向上や部品点数の大幅な削減を実現し大きな注目を集めています。
これらの技術は、ロボティクスにおいても部品やセンサーの高度化や軽量化に大きく貢献すると考えられます。 当研究室においても、連続炭素繊維を印刷できる3Dプリンターを所有しています。 このプリンターは、アルミ程度の剛性と強度を持ち重量はアルミの約半分の部品を印刷できます。 また、複雑な形状の部品も印刷できます。 本研究では、第一歩として軽量かつ可逆駆動性の高い減速機を試作しています。 今後は、これらを用いた設計論の確立や、器用な作業ができるロボットハンドなどを製作する予定です。