発表用原稿
小児救急医療
大阪市立大学 法学部 社会保障法ゼミ
「救急」とは、休日・夜間の診療のことをいうのですが、現在、小児救急システムが危機的状況に陥っています。患者が増加しているにもかかわらず、対応する医師が不足しているのです。大阪市内にある中央急病診療所では、平日夜間には1日平均31人、休日には125人の患者が来院しています。これを1人か2人の医師で対応しているのです。
まず、患者の増加の原因について見てみると、核家族化と少子化に伴う保護者の育児不安があります。育児の経験不足・知識不足からちょっとしたことでも病院に連れて行くことが多くなりました。ある病院の救急外来における疾患の重症度の内訳は、集中治療が0.3%、入院を要するものが4%、その日のうちに帰宅可能な軽症患者は95%でした。また、共働きの家庭が増えて来院が夜になることも多いようです。
患者の増加に対し、小児科医の数は昭和45年の3万2041人から30年間ほとんど増えていません。内科医がこの30年間で6万人から10万人へ約2倍になったのに比べ、大違いです。小児科医が増えない原因について詳しく述べていきたいと思います。
まず、小児科の不採算性と過重労働が原因の1つとして考えられます。子供に対する診療は、親を通して症状の確認をしなくてはいけないこと、暴れる子供をおさえなくてはいけないことなどから、成人医療のおよそ3倍の人手と時間を必要とします。それにもかかわらず、子供は投薬量や通院及び入院日数が大人と比べて少なくなり、病院では不採算部門となっています。不採算であるが故に病院で小児科がカットされる事態に陥っています。平成2年から平成11年の間に、小児科を標榜する病院が591、診療所が959減少しました。そのため、1つの小児科に患者が殺到し、小児科医の激務に拍車をかけることになっています。患者がひっきりなしにやって来るので、当直医は仮眠を取る暇はほとんどありません。この当直制についてですが、当直日数は平均して1人につき一月に5〜8回あり、当直のある日は、当直明けの勤務を含めて30時間以上連続して勤務することになります。当直明けに休みが取れるのは、17.9%にすぎません。勤務が体力的につらいと感じる医師は76%、体調を崩した経験を持つ医師はおよそ半分近くにのぼります。こうした過重労働がさらなる人手不足を呼ぶという悪循環に陥っています。
次に女性医師の退職も小児科医不足の原因の1つと考えられます。
女性医師は年々増加していますが、その多くが出産・育児をきっかけに退職してしまいます。彼女たちにとって、仕事と家庭を両立することは非常に困難です。周囲の理解がえられなければ、肉体的・精神的負担が増大します。仕事で家を空けるためには家事の段取りをしなければならず、先ほど述べたような過酷な労働条件の下では、肉体的ストレスはいっそう大きなものとなります。また、当直の日は、朝出勤して翌日の夕方まで、丸2日連続勤務となるため、子供のことが気にかかり、精神的ストレスも高まります。
このため、女性医師は、出産後、仕事に復帰する場合でも、仕事と育児を両立させるため勤務が比較的規則的な保健所などに就職することが多いようです。また、仕事に復帰したいと思っても、出産・育児で医療に現場を離れてしまうと、知識や技術水準に遅れをとってしまい、再就職が困難になるという問題もあります。このように、女性医師が増加しても、その労働力が定着しないため、やはり医師不足の問題は解決しないのです。
小児科医の不足という問題を解決するためにはどうすればよいのでしょうか。
医師全体における女性医師の割合は14.3%ですが、小児科医においては34%が女性医師です。外科の3.3%、内科の13.3%に比べると、小児科においては女性医師の割合が高いといえます。小児科医の不足が解決されないのは、小児科医の多くを占める女性医師の労働力が、うまく活用されていない点にあると考えられるので、小児科医不足の解決策として、女性医師の定着を図るということを提案したいと思います。
まず、子育てなどによって現場を離れることを余儀なくされた女性医師が、再び現場に戻れるような環境を作ること。そして、これから子供を産む人など、現役女性医師の退職を防ぐこと。この2点を徹底することにより、小児科医のマンパワー不足を解決できるのではないかと思います。また、現場の女性医師が増えることによって、小児科医全体の負担が軽減できれば、男性医師にとっても有益です。
その具体的手段を、四つ挙げます。
まず1つ目に、保育環境の整備が考えられます。病院内に24時間、0歳児から受け入れ可能な保育施設の設置が望まれます。2つ目は、復職の際の再教育です。現場復帰のための研修制度を整えたり、再就職をサポートしたりする人材バンクなどの機関の設置が必要だと思われます。3つ目は、勤務形態の多様化です。パートタイム制やフレックス制など、育児をする女性のライフスタイルに応じた勤務形態を取り入れていくと良いと思います。4つ目の十分な産休・育休の確保ですが、前述の3つが充実すれば、人手も増え、産休・育休も取りやすくなり、よりよい労働条件が実現すると思います。
このようにして、マンパワー不足が解決されれば、小児救急医療体制が安定し、安心して子育てができる社会環境を築けることと思います。
以上