2003年9月14‐15日 合同ゼミ
老齢年金ついて
〜年金における世代間の不公平〜
龍谷大学 社会学部 地域福祉学科 田中明彦ゼミ
尾谷共哉 河島功治 古島洋 谷直隆 田中雅彦 中野高幸 中野優介 藤川俊幸
青井麻貴子 太田厚子 白井綾子 田村里美 永井景子 桧山晃子 藤村さやか
前澤貴美代 宮内彩 山内美代子 陽谷佳織
目次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
T 公的年金は何のためにあるのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
U 年金改革の動向・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
V 公的年金制度の問題点と課題・・・・・・・・・・・・・・・・8
1. 制度改革の背景としてあげられている人口の高齢化は本当に危機か
2. 厚生年金・国民年金の積立金運用の現状と問題点
3. 国民年金の空洞化と保険料未納問題・未加入問題
W これからの年金制度のあり方・・・・・・・・・・・・・・・17
資料
はじめに
近年、日本では急激な少子高齢化の進行、経済状況の悪化などから公的年金の危機が叫ばれている。これらの環境変化の大きさとスピードは、より一層、人口の見通しや経済状況の不透明感を増大させ、現行の公的年金制度への不信・不安も増進されてきている。特に若者の中には「自分たちは将来年金をもらえないかもしれない」という不信感から未納・未加入者が多く存在し、今後も増加傾向にあるという指摘もある。
同じ“若者”として私たちも同じような不安を抱え、不信感を持っている。今回の報告では、若者の未納・未加入問題を論点の中心におき、公的年金のあるべき姿について考えていきたいと思う。
T 公的年金は何のためにあるのか
1.公的年金の目的
公的年金は憲法25条(生存権)に基づき、老齢・障害・死亡という状態に対し年金を支給することで、健康で文化的な生活を保障することを目的としている。
国民年金
公的年金 厚生年金
共済年金・・・国家公務員等共済組合、地方公務員等共済組合、私立学校教職員共済組合
@国民年金
〖国民年金法 第1条〗
「日本国憲法第25条第2項が規定する理念に基づき、老齢・障害または死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与すること」
⊡ 憲法25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」
同2項 「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」
A厚生年金
〖厚生年金保険法 第1条〗
「この法律は、労働者の老齢、障害又は死亡について保険給付を行い、労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とし、あわせて厚生年金基金がその加入員に対して行う給付に関して必要な事項を定めるものとする。」
B共済年金
〖国家公務員等共済組合法 第1条〗
「この法律は、国家公務員等の病気、負傷、出産、休業、災害、退職、障害若しくは死亡又はその被扶養者の病気、負傷、出産、死亡若しくは災害に関して適切な給付を行うため、相互救済を目的とする共済組合の制度を設け、その行うこれらの給付及び福祉事業に関して必要な事項を定め、もつて国家公務員等及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するとともに、国家公務員等の職務の能率的運営に資することを目的とする。」
改正前 国民年金 任意加入 船員 共済年金 厚生年金
改正後 (1985年)
サラリーマンの奥さん
全国民共通の基礎年金の導入
2.公的年金の特徴
(1) 国民皆年金・・・自営業や無業者を含め、国民すべてが国民年金制度に加入し、基礎年金
給付を受けるという仕組み。
(2) 世代間扶養・・・基礎年金については、現役世代の保険料負担で高齢者世代を支えるとい
う考え方(賦課方式)。厚生年金・共済年金は修正積み立方式。
(3) 社会保険方式・・・保険料の拠出がなければ、年金給付が受けられない。また納めた期間
が長ければ長いほど支給される年金も多くなる。
3.公的年金の必要性
(1) 国民皆年金
原則として強制加入により、「すべての人に年金による保障を与える」ことを目的に作られた制度である。未納者が増えると、社会的セーフティネット(安全網)としての年金制度が崩れる。
(2) 世代間扶養
家族の高齢者扶養機能の低下
貯蓄、資産形成等、個人の自助努力の限界
私的年金とは異なり、物価スライドにより年金を一生涯にわたり保障(実質的価値の維持)
(3) 社会保険方式
受給者の普遍主義を貫く
全額税負担とした場合、財源が不安定
生活困難のリスクに対する事前の備えを共同で行い、制度への貢献に応じて給付が行われる
4.公的年金の役割・機能
公的年金受給状況
65歳以上の者のいる受給世帯: 1,511万4千世帯=96.6% (平成12年)
公的年金のみで生活している高齢者世帯: 61.4% (平成11年)
高齢者世帯における総所得に占める公的年金の割合: 61.8% (平成11年)
【平成12年度 国民生活基礎調査】
平均受給額(平成12年度末)
老齢基礎年金: 50,984円
老齢厚生年金: 176,953円
老齢年金受給者割合
老齢基礎年金: 29.2%
老齢厚生年金: 26.4%
【社会保険庁 社会保険統計情報】
公的年金は老後の所得保障の主柱とし、高齢者の老後生活を実質的に支えていくもの
→しかし十分ではない現実!!
【参考文献】
相澤 與一 編『社会保障構造計画』大月書店(2002年)
加藤 智章ほか『社会保障法』有斐閣(2001年)
岡崎 昭『社会保障とその仕組み』晃洋書房(1999年)
厚生労働省年金局年金財政H.P.
http://www.mhlw.go.jp/topics/nenkin/zaisei/index.html
社会保険庁H.P. http://www.sia.go.jp/
U 年金改正の動向
〜厚生労働省「年金改革の骨格に関する方向性と論点について(平成14年12月)」より〜
<平成16年の年金改革の基本的視点>
(1) 若い世代を中心とした現役世代の年金への不安感、不信感を解消すること
(2) 少子化の進行等の社会経済情報の変動に対し、柔軟に対応でき、かつ、恒久的に安定した制度とすること
(3) 現役世代の保険料負担が課題にならないように配慮することに重点を置きつつ、給付水準と現役世代の保険料負担をバランスのとれたものにする
(4) 現役世代が将来の自らの給付を実感できる分かりやすい制度とすること
(5) 少子化、女性の社会進出、就業形態の多様化等の社会経済の変化に的確に対応できるものとすること
<平成16年の改正の方向>
社会保険方式に基づく現行の制度体系を基本として改革をすすめていく
安定した財源を確保して国庫負担割合の2分の1への引き上げ、国民年金保険料の多段階免除導入の検討、徹底した保険料収納対策に取り組む
制度改革により、長期的に安定した制度とする措置を講じた上で、さらに、社会保険方式による所得比例構造の一本の年金制度の導入等を含め、長期的な制度体系のあり方について議論
<給付と負担の見直しの基本的な考え方>
新しい方式→最終的な保険料水準を法定し、その負担の範囲内で給付を行うことを基本に、少子化等の社会経済情勢の変動に応じて、給付水準が自動的に調整される仕組みを制度に組み込む(保険料固定方式)
<改正案の影響>
試算の代表例
国庫負担割合の2分の1の場合・・・
○厚生年金の保険料率(総報酬ベース)
現行13.58%→・段階的に引き上げて20%に固定(2022年度から)
モデル年金 月額/23.8万円 (厚生労働省年金改革の骨格に関する
平均手取り年収(月額換算) 40.1万円 方向性と論点について(平成14年12月)より)
男性 78歳に死亡と仮定して試算
現行 40.1万円×13.58%×1/2(労使折半)×12ヶ月=32.67万円
大卒で就職23歳から60歳の37年間払い続けるとして・・・
32.67万円×37年=約1208万円
572万円
20%に固定 40.1万円×20%×1/2×12ヶ月=48.12万円 保険料が
48.12万円×37年=約1780万円 増える!
給付水準(厚生年金)
現行手取り賃金比59%維持→・賃金上昇率や物価上昇率から支え手の減少分を調整してスライド
・現役の手取り賃金比
59%(現行)→52%(2032年度以降)
給付額(65歳から78歳の23年間給付されるとして)
◎国庫負担1/2の場合
現行(上記のモデル年金) 月額/23.8万円
月額/約3万円
給付が減る!
手取り賃金比59%から52%になると
23.8万円×52%/59%=20.97万円
給付期間65歳から78歳まで −3万円×12ヶ月×23年=−828万円(総額)
61歳から78歳まで −3万円×12ヶ月×27年=−972万円(総額)
→現在の支給開始年齢
国庫負担1/3の場合→45%(2,043年以降) 月額/約6万円
23.8万円×45%/59%=18.15万円 減る!
納付期間65歳から78歳まで −6万円×12ヶ月×23年=−1656万円(総額)
61歳から78歳まで −6万円×12ヶ月×27年=−1944万円(総額)
→現在の支給開始年齢
V 公的年金制度の問題点と課題
V-1 制度改革の背景にある人口の高齢化は本当に危機か
○国が主張する高齢化社会の原因とその誤り
(1)
生産年齢人口(15歳から65歳)と老年人口(65歳以上)の比率について、今後生産年齢人口にかかる扶養負担が大幅に増加する。
→ 生産年齢人口が減り、老年人口を増えるから負担が大きくなる、と国は主張している。
誤りの理由@ 老齢人口 + 年少人口(扶養対象人口)÷ 生産年齢人口 = 従属人口指数
従属人口指数・・・働く人が働いていない人を扶養する%
国が主張する従属人口指数では正確な数値は出ない。
理由A 生産年齢人口は全員働いていて、老齢人口は全員働いていないと想定して計算している。
生産年齢人口の中には働いていない人(主婦や学生など)の人口が約20%もいる。そして、老齢人口の中には働いている人が約20%いる。
☆扶養負担を最も適正に表す数値
総人口 ÷ 就業者数 = 一人の就業者が自分を含めて何人を支えているか
1955年 |
2.27 |
1985年 |
2.07 |
1960年 |
2.14 |
1990年 |
2.00 |
1965年 |
2.06 |
1995年 |
1.95 |
1970年 |
1.99 |
2000年 |
2.01 |
1975年 |
2.10 |
2010年 |
1.96 (推定) |
1980年 |
2.09 |
2030年 |
2.05 (推定) |
出所)総務省統計局 各年の国勢調査により算出
推定については人口問題研究所より算出
このように就業者一人当たりの扶養者数に大きな増加は見られない。
(2)
高齢者が増加すると介護サービスや社会保障費や年金、医療費などの負担が増加する。
図1は人口構成の高齢化と同一世代の推移を表している。斜線部分の斜線部分を見ると老齢人口は増加し、年少人口は減少していることがわかる。
これだけをみると負担が大きくなるような錯覚に陥るが、老齢人口と年少人口の両者を足すと斜線部分(扶養対象)と白い部分との割合はそれほど大きな差にはなってない。
『高齢化社会はこうすれば支えられる』より
(3)
少子高齢化によって労働力が不足する。高齢化とともに、生産に関わる年齢が減るので、より少ない生産人口で高齢者を養っていかなければならなくなる。
・2002年の15〜65歳の女性の経済活動参加率は49.7%で、1970年の3
9.3に比べて10.4ポイント上昇し、女性の社会進出が進んでいる。これにより
第1号及び第2号被保険者が増加する。今後もこの傾向は続くと考えられる。
(統計で見た女性の人生、統計局)
・高齢者の就業支援
定年延長、再雇用、定年制廃止によって労働力が減少するとは言えず、高齢者の支え
手(被保険者)も減少しないため年金制度を支える人口は保たれると考えられる。
社会情勢を見る限り、労働力が減ると一概には言えない。
(4)
21世紀は超高齢社会になり、そのスピードも先進諸外国と比べて尋常でないほど速い。経済的、社会的な負担が増加すると考えられ、次々と対策が求められる。
日本は高齢化を強調しすぎている。日本は諸外国で高齢化にかかった過程を25年という短い期間に対策をしなければならないので、大変であると主張している。
確かに高齢化のスピードは他国に類を見ないほど速い。スウェーデン85年、フランス130年、イギリス45年というスピードに対して日本は25年というスピードである。
しかし、高齢化対策に各国は同じ年月を費やしたわけではない。例えばスウェーデンでは約15年で福祉国家を成立させたのである。85年の年月を要して、対策をしてきたのではない。
【参考文献】
・川口弘 『高齢化社会は本当に危機か』 あけび書房 (1990年)
・川上則道 『高齢化社会はこうすれば支えられる』 あけび書房 (1995年)
・各種データ
厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/
総務省統計局 http://www.stat.go.jp/
国立社会保障・人口問題研究所 http://www.ipss.go.jp/
V-2 厚生年金、国民年金の積立金運用の現状と問題点
〜積立金の現状〜
公的年金(厚生年金、国民年金)の積立額 147兆円
※厚生年金基金の「代行部分」約36兆円と、共済年金が保有する約50兆円なども合わせると、公的年金に関係した積立金は総計で約230兆円にのぼる
積立金の50.2兆円(2002年度末)を運用
→厚生労働省所管の特殊法人である年金資金運用基金が運用
※(2008年までに全額運用可能に)
2002年度損失額 3兆0608億円
累積額 6兆0717億円
〜積立金の役割〜
積立金は、今後の年金給付にあてられ、
原則として将来の現役世代の負担を軽減するために活用される
※基礎年金は、賦課(ふか)方式で運営
→納められた保険料は、年金給付のための資金として用いられる
ただし、積立金が生じるような財政運営がなされている(修正積立式運用の側面をもつ)
〜赤字運用の実態〜
年金資金運用基金は民間の金融機関(信託銀行・投資顧問会社)に
「国内債権」「国内株式」「外国株式」を委託
→債権以外では、大赤字であり、リスクが高い株式では、莫大な損益を出している
→利回りを年4・5%と想定しているため、リスクが高いが利益率も高い株式を組み入れざるを得ないという面も
普通に預託しておけば、その額からも、3、4兆規模の利子が見込める
※積立金が使われている事業
図@
@受託運用している機関に、
「運用機関別受託額と運用手数料」176億円
A年金資金運用基金の運営に50億円、
B年金福祉事業団から引き継いだ
住宅ローン金利軽減策に年間380億円
C住宅ローンを取り扱う銀行に107億円、
D年金福祉事業団時の大規模リゾート施設
「グリーンピア」は売却が進むも、
1950億かけて、全国に13ヶ作ったため、
その整備費の借金返済は今後20年間で
合わせて797億円
〜基金・運用の問題点〜
・莫大な運用損益を出しているにもかかわらず、厚労省や基金の関係者が責任を問われたことはない
→これまでに生じた巨額の赤字は、公的年金に対する国民の不信感を助長している。
・運用の透明性や説明責任が不十分で、外部のチェックが働きにくい
→運用事業をチェックする民間人による監視機関の設立など運用体制の見直しが必要
→額が大きいだけに国民のコンセサスが必要では
〜積立金の行方は〜
・増え続ける積立金
※厚生年金は仮に保険料を全く徴収しなくても、
積立金を取り崩せば5年間は高齢者に年金を支給できる
→制度不備からの無年金障害者や、払えない未納者に積立金を使えないのか
・坂口厚生労働大臣は現在147兆円ある年金積立金を徐々に取り崩し、給付に充てる「有限均衡方式」を提唱している
→取り崩すどころか、運用で積立金は減り続け、年金不信が高まるばかりである
(参考文献)
「保険と年金の動向2001」 厚生統計協会 参考ホームページ
週刊朝日 8・29号 yomiuri-on-rine @Money 変わる年金
毎日新聞 8・20 http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/図 @
V-3 国民年金の空洞化と保険料未納問題・未加入問題
〜未納率〜
・国民年金第1号被保険者
2002年度国民年金未納率37.2%( ↑ 8.1%増)
※2001年度 29.1%
@制度に加入すること自体を拒んでいる未加入者約100万人
A所得が少ないなどの理由で、法律で認められた保険料免除を 受けている約500万人を含まず
・2001〜2002年度 未納額1兆8800億円
(法律上徴収可能な期限である2年間)
※未納率(未納率→加入者が保険料を納めるべき月数のうち、納めなかった月数の割合)
※第1号被保険者=自営業者、農業従事者、学生、第1号被保険者の被扶養配偶者、厚生年金保険の適用外の事業所に勤める者、また失業者、無業者、フリーター等
〜景気低迷と未納問題〜
未納者の保険料未納の最も主要な理由
「保険料が高く、経済的に支払うのが困難」 62.4%(図A参照)
・背景 平成不況、日本経済の停滞 社会、就業のスタイルの変化
→失業率5%超、賃金は減少傾向 →フリーター、派遣社員の増加
※フリーターは2001年417万人
月収約12.5万円(学生援護会調べ)月収における国民年金保険料の割合→約11%
〜払えない人に対する救済措置〜
・全額免除制度と半額免除
→ただし未納者の3割しか対象になっていない
学生納付特例制度
〜年金不信−未納者と未加入者〜
・「年金をあてにしていない」 12.2%(図A参照)
・空洞化の原因→国民が年金制度の将来に不安感、不信感を抱いている
(少子化を推測しきれず→年金改悪へ)
※未納者と未加入者の「年金をあてにしていない」理由
・もらえる年金額がわからないのであてにできない
・支払う保険料に比べて受け取る受給額が少ないから
・制度の存続など年金制度の将来が不安だから
・年金制度の将来が不安だから
・支払う保険金料に比べて受け取る受給額が少ないから
・20〜24歳の納付率は50%半ば
→約2人に1人が未納
→年齢が低くなるほど納付率が少なく、次の社会を担う世代の年金空洞化
・生命保険・個人年金加入状況
納付者73.6% 未納者53.9% 免除者48.3%
→個人年金、保険>国民年金
図@ 図A
〜滞納に対する処分〜
・国年96条
「社会保険庁長官は国税滞納処分の例によって処分することができる」
国年97条
「完納又は財産差し押さえの日の前日まで、年14,6%の割合の延滞金が徴収される」
→1988年、社会保険庁は強制徴収を行ったが、実現したのは5件のみ。
〜納付期限と受給問題 −国民年金102条3項をめぐって− 〜
・国年102条3項
「納期限から二年を経過すると、時効により納付することができなくなる」
→2年で時効にしてしまうと、無年金者、低年金者を生む要因にもなる
(25年保険料を納めることが老齢基礎年金受給の最低要件)
→障害基礎年金の受給資格期間にも影響し、無年金障害者を生む可能性も(☆参照)
※60歳になれば、国民年金に加入する資格を失うが、老齢基礎年金を受けられる加入期間を満たしていない場合は、60歳を過ぎても国民年金に任意加入することができる。
→5年で受給期間を満たせない人はどうするのかという問題も残る
ただし、1955年4月1日以前に生まれた人で、老齢基礎年金等の老齢給付の受給権をもたない65歳以上70歳未満の人は、特別に任意加入することができる
※保険料免除(全額免除、半額免除)は受給期間に一部計算される(カラ期間等)
☆無年金障害者の増大の懸念
・国年30条
「初診日の属する月の前々月にまでの被保険期間のうち、保険料滞納期間が三分の一未満でなければならない」
※初診日が2006年(平成18)三月末日までにある場合は初診日の属する月の前々月までの1年間につき保険料滞納がないことが、保険料納付要件の特例として認められている。
(国民年金法(昭和60法34)第20条1項)
→無年金障害者になるおそれがあるのを知って、以前の分を払おうと思っても、
2年しか遡って払えない。
→免除を受けていても、死亡又は、障害者になった場合、以上の条件を満たさなければ遺族基礎年金や障害基礎年金が支給されない。
〜社会保障としての年金制度はどこへ
・坂口大臣を中心とする特別対策本部を設置した厚生労働省は、今後5年で収納率80%を目指し、強制徴収や、資産差し押さえ、免除制度の見直しを図り進めていく。
→以前に立ち消えになった、保険料を納めない人には運転免許証やパスポートを発行しないことや未納者には個人年金保険料の税控除を認めないようにする案が再議論される可能性も。
・社会保障、国民皆年金としての年金制度の崩壊
・払っていない者から、徴収することに躍起になり、社会保障としての年金制度とはいいがたい状況になろうとしている。
→本来なら、その実情にあわせた徴収の仕方を考えていかなければならないはずが、むしろ逆行している。
・保険料を納めていないと「各種年金が出ない」とPRするのに必死で、本当に払えない人の救済対策はほとんど進んでいない。
→免除制度に該当しない約6割の人はどうすればいいのか。
所得保障としての年金は
→将来、低額年金者が増えても「払わなかったから悪い」でいいのか。
2004年の改正には、社会保障としての観点から年金制度の見直しを強く要望したい
○参考文献
佐藤進・河野正輝 窪田隼人編 「新現代社会保障法入門」 法律文化社 2000年
佐藤進・河野正輝 編「新現代社会福祉法入門」 法律文化社 2000年
○参考ホームページ
共同通信 政治ニュース 7/25http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20030724-00000078-kyodo-pol
yomiuri-on-rine @Money 変わる年金
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/
図@、A
厚生労働省 社会保険庁
http://www.mhlw.go.jp/ http://www.sia.go.jp/
W これからの年金制度のあり方
ソフト面
◆教育
現状・平成5年より指定県方式として8県で年金教育を実施
・平成10年より全国実施とし、今年度で5年目を迎えている
・文部科学省と厚生労働省が連携し、年金教育の充実方策等を検討
提案・出来る限り、学校教育で一度は年金について学ぶ機会をつくる
・子どもの頃から、「納税=義務」(憲法30条)という感覚を徹底して育て
ていく(税金が公正に使われることが前提)
・20歳を迎える直前に何らかのアプローチを行う
・年金広報専門員等による中学、高校の教育及び生徒を対象とした年金セミナ
ーを開催
◆年金広報の充実
政府広報やテレビ・インターネットについて正しく理解してもらうとともに、保険料の納付は国民の義務であり、この義務を果たしたものだけが年金を受給する権利を行使することができるという認識を浸透させるための普及啓発活動の実施(人間らしい生活を維持しうる年金水準で信頼できる制度の確立が前提)
市町村の広報誌による広報
年金ホームページの開設(社会保険庁のは理解しにくい)
制度周知リーフレットの配布(対象世代別に内容を工夫)
成人式の機会を捉えた新成人への広報
◆学生納付特例制度等の周知
・大学等の協力を得て、ガイダンスや学園祭等の機会を捉えた広報の実施
◆納めやすい環境作り
保険料の納付窓口を全国の銀行、郵便局、信用金庫、農協、コンビニなどあらゆる金融機関に拡大
口座振替を行っていない者全員に口座振替の利用を勧奨
集合徴収については、市町村、商店街、自治会等の協力を得て、納付窓口を拡大
◆窓口の明確化
年金についての疑問や相談等が気軽に出来る窓口の設置
◆情報公開
スウェーデンを参考に、自分が今までにいくら納めているのか、等の情報を郵送などで知らせる
◆政治改革
個人消費を拡大するような経済成長を加速させる
厚生労働大臣に信頼できる人をおく
年金担当大臣を設立する
ハード面
◆支払い能力に応じた保険料にする
現在、国民年金の保険料は月額1万3300円である。しかし、第1号被保険者に含まれる収入の少ない学生やフリーターも、医師や弁護士など一般的に高額所得な職種の人も同じ額の保険料なのには矛盾がある。
「自営業者(第1号被保険者)の所得把握が困難である」という理由から定額保険料になっているが、国民年金の不足分を厚生年金に頼っているいま、このままではサラリーマン等の反発は避けられず、さらに年金離れを加速させることになりかねない。
収入に余裕がなく払えなかった人たちにも納付出来る可能性が出てくる。
提案:それぞれの所得に応じた段階的な保険料ないしは所得比例の保険料の導入
財政の見直し
国庫負担2分の1へ(緊急対策として国庫負担を3分の1から2分の1へ引き上げる)
無駄な融資と公共投資の見直し
積立金の健全な運用と給付への投入
老齢基礎年金の給付水準
老齢基礎年金は、40年加入した場合の満額給付で月額約6万6000円であるが、実際の平均支給額は5万円前後にしかならない。
月額5万円程度では最低限の生活を保障することは出来ない。しかし、年金など全く必要としない高齢者もいれば、年金のみで生活する人が約62%もいるように、資産格差は老齢になるほど激しくなる。
最低限の生活保障とされている生活保護の支給水準との間に差がある(単身世帯の場合)。
家族形態(核家族化)などの社会変化に対応した給付水準(制度)への見直し。
制度の長期的な安定を図る
繰り返される保険料率の引き上げや給付額の切り下げ、徐々に進む給付開始年齢の引き上げなどによって年金に対する不信感が高まっている。
政府が国民に対して、長期的に「給付条件の切り下げをしない」ことを約束する。
以上