金属単結晶表面の格子振動ダイナミクスの解析
〜高分解能中エネルギーイオン散乱と分子動力学計算との比較〜
イオンビームをある結晶軸に沿った方向から入射すると、入射方向前方にイオンが入り込めない領域(影の領域)が形成されます。 これをイオンのシャドーコーンと呼びます。しかしながら、結晶を構成する格子原子は熱振動しているために、その大きさに応じてある割合で シャドーコーン内部にイオンが侵入し2層目以降の原子に衝突する確率が増加してきます。もし、原子層ごとに散乱成分を分離して取り出せるとすれば、 2層目や3層目の原子へのイオンの衝突確率によって、表面近傍の格子振動のいろいろな情報を直接的に得ることができます。 その代表的なものが、表面での格子振動の異方性と振動相関です。
本研究では、表面格子振動振幅の異方性と振動相関係数を原子層毎に決定し、 EAMポテンシャルを用いた分子動力学計算による理論的なアプローチからも格子振動ダイナミクス明らかにしています。 エネルギー分解能(ΔE/E) 0.09% を誇る世界トップレベルのトロイダル型静電分析器は、以上に示した格子ダイナミクスの解析を第一の目的とし、 原子層ごとの散乱成分を分離できる分解能を有する設計がなされました。


金属表面酸化過程の高分解能深さプロファイリング
イオンビームを用いた分析で優れたところは、元素の深さ分布(質量分析可能)を絶対定量できる点です。 したがって酸化過程を調べる際に、同位体元素である16O2と 18O2を用いることにより、 酸素の挙動に着目した酸化カイネティクスの情報を得ることができます。特に、高分解能MEISを用いることで、 表面近傍の酸素などの深さプロファイルを原子層ごとに分析できます。 金属の酸化過程に関する研究は、応用的な面からも古くからなされています。 その中で、いくつかの金属に対してそれぞれ酸化モデルが提案されています。 例えば、アルミニウムやニッケルなど緻密な不動態酸化膜を形成するものは、外部からの酸素が金属界面まで達することができず、 酸化の進行スピードは時間とともに著しく減少します。一方、鉄などは酸化により錆と言われる酸化膜が形成され腐食がどんどん進みます。 それらの金属の酸化モデルは当然異なるわけで、そのメカニズムの解明自体、研究対象として興味がもたれます。 本研究では、同位体元素をトレーサーとして使用することにより、 酸化の進行中における酸素や金属の動きに着目した金属の酸化カイネティクスの解明を目指しています。


SiC表面の酸化および酸窒化過程の原子層レベル分析
優れた半導体デバイスを作製する上で、欠陥やラフネスの少ない高品質なMOS界面を実現することが不可欠です。 現在ほとんどの半導体デバイスの材料であるシリコンに関しては、熱酸化により原子層レベルで極めて平坦で欠陥のほとんどない (=デバイス性能に影響のない)MOS界面の作製法が確立しています。また、シリコンの酸化メカニズムに関しても理論的にも詳細に調べられています。 一方、シリコンカーバイドはシリコンに代わる次世代の高出力・高周波デバイスとして期待されています。 しかしながら、Siに代わるデバイスとしてのポテンシャルは極めて高いにも関わらず、 期待されている性能を十分に発揮したデバイスの作製ができていないのが現状です。その原因としては、 酸化膜中や界面での残留カーボンの影響が指摘されています。最近になって、チャンネル移動度を飛躍的に向上させることができる方法として、 NOガスやN2Oガスによる酸窒化が有効であることが報告されました。 本研究室ではSORISの特徴を生かして、窒素・酸素および炭素などの深さ分布の絶対定量や化学結合状態分析から 酸窒化プロセスの解明に取り組んでいます。


金属/SiC表面,界面構造と界面電子物性
近年の目覚しい界面制御技術の進歩と理論計算によるアプローチから、金属半導体接合において形成されるショットキー障壁高さは、 界面の原子配列に大きく依存することが明らかになりつつあります。その代表が、Bell研のR.Tungらによって示されたType-A, Bの NiSi2/Si(111)におけるSBHの違いです(約140meVの違いがある)。その後、Fujitaniらによる第一原理計算から、 界面に誘起される分極の強さがType-A, Bで異なることが報告され、界面の原子間の結合がSBHに影響を与えることが理論的に示されました。 シリコンカーバイドの{0001}面は、いわゆる極性面となっていることから、もし界面を制御して金属を成長することができれば、 意図的に界面に異なる分極層を形成することができます。


High-k酸化膜上への電極形成過程の原子層レベル分析
MOSデバイスの微細化に伴い、ゲート酸化膜厚の薄膜化が進み物理的な限界に近づきつつあります。 数年前からシリコン熱酸化膜に置き換わる高誘電率絶縁膜への研究が開始され、ほとんどの半導体メーカーがその実現のために邁進しています。 しかしながら、現状は多くの克服しなければならない問題があり、期待している性能を得るにはさらに時間がかかります。 その主な課題は、High-k絶縁膜と半導体の界面の構造や欠陥によるもの、High-k絶縁膜自体の熱的安定性などが挙げられます。 本研究では、半導体メーカーや研究機関との共同研究という形で、表面界面の構造の評価や熱的安定性、金属薄膜の仕事関数、 価電子帯オフセットなど電子物性の評価をし、高品質High-k絶縁膜の実現に向けて進んでいます。


共鳴核反応、共鳴弾性散乱を利用した元素深さプロファイリング
奈良女子大学の高エネルギーイオンビーム加速器を使用し、共鳴散乱による元素の深さ分析をしています。 共鳴核反応を利用すると、イオン散乱では定量の難しい試料内部にある軽元素の絶対定量や深さ分布を得ることができます。 また、共鳴弾性散乱を用いても、酸素や炭素などを非常に高感度で分析できます。

単結晶金属表面の窒化課程

イオンと固体表面の相互作用
イオンビームと固体表面の相互作用として、イオンの荷電変換過程やエネルギー損失とストラグリング、非対称性などに関して基礎的な研究も盛んにやっています。


高励起原子(Rydberg原子)を用いた表面界面分光の新展開
高出力レーザーにより作製された高励起ルビジウム原子を用いた、表面・界面分光法の開発を行っています。 レーザーにより正確にあるRydberg準位(主量子数が100-150くらい)に励起された原子は超微小電場により容易にStarkイオン化されます。 この一連の過程から、逆に表面・界面における超微小電場(磁場も可能)の検出を試みようというアイデアです。 現在は西村講師を中心として装置の立ち上げを行っています。