第2話  【スルメイカの呪い】

 ある日曜日のことです。その日はお母さんと、お父さんそれとお兄ちゃんが買い物に行くことになりました。

さらに、おばあちゃんが出かけていたので、私一人が留守番をすることになったのです。幼稚園の年長になって 初めての一人でのお留守番でした。私は初めての渡航を目前に控えた水兵のようにはりきっていました。お母さ んたちは、私のはりきりように少し心配そうでしたが、やっとの事で、買い物に出かけました。

 私はお母さん達がちゃんと出かけたかどうか確認し、再び喜びに一人、打ちふるえていました。

 そうして、部屋中家中を駆け回りました。なんて楽しいのでしょうか。何ともいえぬ開放感が私の体を駆けめ ぐり、私のアドレナリンを刺激しました。

 そうこうしているうちに、だんだんと遊ぶことが無くなり退屈になってきたのです。私は、ふとお店に行くこ とにしました。

 普段、お店にはよくいるのですが、誰もいないシーンとしたお店はまた違った魅力がありました。そのお店の 中で私が、一つ一つお酒や、ジュースを眺めて歩いていた時です。ある一つのものが私の目に飛び込んできまし た。それは、おつまみや缶詰をおいてある棚でした。

 が、しかし、まだこの時、私はこの後起こる恐ろしい出来事に気づいてはいなかったのでした・・・・。
 

  私は棚を上からなめるように見下ろしていきました。

ちょうど真ん中辺りの部分に来たときに、私は、はっと息を呑みました。
    
そこに置かれていたのは、まぎれもなく・・・・・スルメイカではありませんか。

 普段、こういう類の物は着色料がどうだとかで、食べさせてはくれずいつも食べたい食べたいと願っていました。

 もちろん、こんな絶好の機会をみすみす逃す私ではありません。私は辺りを見回しました。誰もいないはずなの ですが、なぜが気になってしまうのです。そうして誰もいないことを確認しスルメイカを奪うと、さっさと2階へ上がりました。


 人間は駄目だと言われるとそれをしたくなるという習性がありますが、その時の私は、まさにそれでした。

 そうして、袋を開けると一気に平らげました。何ともいえぬ満足感にひたりました。

 が、食べ終えた私は、とんでもない事実に気がつきました。
                ・・・・・
 そうなんです。私が食べたのは、スルメイカなんです。匂うんです。スルメの匂いが。くさいんです。

 しかも、お母さんに殺されてしまうぅぅ!!!!』

 私は、スルメイカの袋の前で、呆然と立ちつくすことしかできませんでした・・・・・・・・。

 
 はっと我に返った私は事の重大さを再認識しました。そうして、あれやこれやとあたふたしてしましました。

『どうしよう、どうしよう。どうやったらこの匂いがとれるんだ?

 神様助けてぇぇ!!!』

さすがの冷静沈着な私も、このときばかりは焦りました。お母さん達がいつ帰ってくるのか分からないし、どうやっ てこの危機を乗り越えればいいのかも分からず、とりあえずスルメイカの袋をゴミ箱の奥底に押し込みました。

 その時です。私の脳裏にあの忌々しい過去が蘇ってきたのです。私がついやってしまったカミソリ事件です。

『そうか歯ブラシだ!!歯磨きをすればスルメイカの匂いがとれるじゃないか!!』

 そう思った時には、もうすでに歯ブラシで歯を磨き始めていました。ものすごい勢いで歯を磨きだした私は何度も

何度も、息を嗅いではチェックし、嗅ぐ度に安心していきました。

 もうこれでいいだろうというぐらい磨き終わった時です。

「ガラガラガラーーー!!!!」と、シャッターの開く音が聞こえました。お母さん達が帰ってきたのです。

 しかし、私にはなぜかばれないという自信がありました。袋は見えないように、ゴミ箱の奥底に入れましたし歯も完 璧といっていいほど何回も磨いたのですから。

 そうして何食わぬ顔で、お母さんに

「お帰りぃー!!!」と言いました。と、お母さんが一言。

        ・・・
   「あんた、スルメ食べたやろ!!」

   「・・・・・・・・・・・・・・」

本当に何も喋れませんでした・・・・。

                           おしまい
 

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