第4話  【道】

 そこには同じ道があった。

 幼稚園の時の話である。ある日曜日にお母さんとおばあちゃんとで、お城に行

くことになった。お城の見物はこれが初めてで、すごくわくわくしていた。お城

に行くまでには、石畳の上り坂の道があり、そこを一気に駆け上らんと急ぐ。お

城に着いて、いろいろな物を見た。甲冑や、絵、巻物みたいな物まであった。見

るものすべてが新鮮で、私は飽きることがなかった。が、その中でも一番私のボ

ルテージが上がったのは、屋上に行ったときである。屋上から見る景色は、何と

も言えぬもので、食い入るように見た。さらに、望遠鏡で町を見下ろした時に

は、自分が、まるで、一国の主にでもなったかのように、晴々しい気分になった

のである。

 が、しかし、そんな楽しい気分もやがては、台無しになることをわたしには知

るよしもなかったのである。

 お城を十分に満喫した私は、意気揚々に帰ることが出来た。帰る途中も楽しく

て楽しくて、スキップしながら石畳の道を下った。お母さんが、しきりに、

「そんな事したら、危ないわよ」と、言っていたが、私の耳には届くはずがなか

った。そんなお母さんを尻目に私は、坂を勢いよく下って行った。ちょうど坂の

曲がり角を下って行こうとした時だった。私は、お母さんの忠告を聞くべきだっ

たのだ。勢い余った私の体は、宙に浮いた。見事に転けたのだ。すねから、血が

流れ出て、私は泣いた。ゆっくりと、道の端っこに行き、座り込んで泣いた。足

のすねからは、真っ赤な血に砂が混ざり、私をさらに悲しくさせる。私は、石畳

の道を恨んだ。ぼろぼろと涙が出ている中で、私は、お母さんが助けてくれるも

のであるとばかり思っていた。が、お母さん達は、私を横目に、過ぎ去っていっ

たのだ。その光景を見て私は、怪我の痛みとは違う、何か心に直接感じる痛みを

覚えた。助けを訴えるように、さらに大きな声で泣いたが、全く見向きもせず、

帰っていった。ただ、おばあちゃんだけが、心配そうに見てくれていた。が、私

のところまでは来てはくれなかった。

 少しすると、どこかの家族の人が、私の方に近寄ってきてくれた。女の人が

そっと私のすねの傷に、ばんそう膏を張ってくれた。ピンク色のかわいらしいば

んそう膏だった。うれしかった。悲しみの涙は、感謝の涙に変わった。

 この光景を見ていたお母さん達が、ついに、私の方にやってきた。ばんそう膏

をくれた人にお礼を言って、座り込んでいる私を立たせた。そうして、そのま

ま、何も言わないまま、家に帰った。

 何年か経って、再び同じ道を歩いてお城に行く時には、昔のことをよく思い出

す。

 そこには、同じ、何だか懐かしい感じのする道がある。

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