そこには同じ道があった。
幼稚園の時の話である。ある日曜日にお母さんとおばあちゃんとで、お城に行
くことになった。お城の見物はこれが初めてで、すごくわくわくしていた。お城
に行くまでには、石畳の上り坂の道があり、そこを一気に駆け上らんと急ぐ。お
城に着いて、いろいろな物を見た。甲冑や、絵、巻物みたいな物まであった。見
るものすべてが新鮮で、私は飽きることがなかった。が、その中でも一番私のボ
ルテージが上がったのは、屋上に行ったときである。屋上から見る景色は、何と
も言えぬもので、食い入るように見た。さらに、望遠鏡で町を見下ろした時に
は、自分が、まるで、一国の主にでもなったかのように、晴々しい気分になった
のである。
が、しかし、そんな楽しい気分もやがては、台無しになることをわたしには知
るよしもなかったのである。
お城を十分に満喫した私は、意気揚々に帰ることが出来た。帰る途中も楽しく
て楽しくて、スキップしながら石畳の道を下った。お母さんが、しきりに、
「そんな事したら、危ないわよ」と、言っていたが、私の耳には届くはずがなか
った。そんなお母さんを尻目に私は、坂を勢いよく下って行った。ちょうど坂の
曲がり角を下って行こうとした時だった。私は、お母さんの忠告を聞くべきだっ
たのだ。勢い余った私の体は、宙に浮いた。見事に転けたのだ。すねから、血が
流れ出て、私は泣いた。ゆっくりと、道の端っこに行き、座り込んで泣いた。足
のすねからは、真っ赤な血に砂が混ざり、私をさらに悲しくさせる。私は、石畳
の道を恨んだ。ぼろぼろと涙が出ている中で、私は、お母さんが助けてくれるも
のであるとばかり思っていた。が、お母さん達は、私を横目に、過ぎ去っていっ
たのだ。その光景を見て私は、怪我の痛みとは違う、何か心に直接感じる痛みを
覚えた。助けを訴えるように、さらに大きな声で泣いたが、全く見向きもせず、
帰っていった。ただ、おばあちゃんだけが、心配そうに見てくれていた。が、私
のところまでは来てはくれなかった。
少しすると、どこかの家族の人が、私の方に近寄ってきてくれた。女の人が
、
そっと私のすねの傷に、ばんそう膏を張ってくれた。ピンク色のかわいらしいば
んそう膏だった。うれしかった。悲しみの涙は、感謝の涙に変わった。
この光景を見ていたお母さん達が、ついに、私の方にやってきた。ばんそう膏
をくれた人にお礼を言って、座り込んでいる私を立たせた。そうして、そのま
ま、何も言わないまま、家に帰った。
何年か経って、再び同じ道を歩いてお城に行く時には、昔のことをよく思い出
す。
そこには、同じ、何だか懐かしい感じのする道がある。
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