第8話 《ゴルフ事件》

 私が高校2年生になった時の話である。その日は、学校の友達の田中君と、洋

平とで、ゴルフの打ちっ放しに行くことになった。私の家から、自転車で、およ

そ20分のところだが、行くだけでも、持久力のない私には、けっこうな運動に

なった。 着いてから、早速、クラブを借りて、2階へ上った。2階には、誰も

いなく、私達だけであった。洋平が、「ボールを買おう」と言い出して、ゴルフ

ボールの自動販売機で、ボールを買った。とりあえず、最初は、みんなで一緒に

買って、順番に打つことにした。

 私の打ったボールは、ほとんどが、スライス気味で、右方向にばかり飛んでい

った。決して真っ直ぐは飛ばなかった。けっこうつまらないなと思い始めた頃、

ふと、洋平を見ると、なにやら、ゴルフボールの自動販売機に手を突っ込んでい

る。なんと、自動販売機の取り出し口から、ボールを取っていたのだ。呆れた私

だが、ついつい、一緒にやってしまった。

 そうして、そのボールで再び打つことにした。

 「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」

 ついに、ボールは真っ直ぐ、太陽めがけて飛んでいったのだ。「やったぁーー

っっ!!!!!」

 が、しかし、私が盗んだボールは、私に呪いをかけていたのだっ

た・・・・・。

 「真っ直ぐ飛んだぞぉぉぉ!!!???」

 が、しかし、何かがおかしかった。

 確かに、真っ直ぐ飛んだのは、ボールだが、その後を追って、何かが飛んだ。

「フォン!フォン!!フォン!!!フォン!!!!」

と、気持ちよさそうに、くるくる回りながら飛んでいるのは、まぎれもなく、私

のドライバーだった。当然、周りの友達も気がついて、ひどく笑われるのだろう

と思ったが、他の2人は、ボールを取るのに夢中で、全く気が付いていなかっ

た。ある意味、寒かった。気づいていてほしかった。

 仕方なく、係りの人に言って、ドライバーを取りに行くことにした。「ただい

ま、クラブを取りに行きますので、打つのを止めてください。」放送で、そう流

されて、ますます恥ずかしくなった。

 ものすごい勢いで走って、クラブを取りにいった。その時の早さといったらも

の凄いものがあった。50メートル走で5秒台といっても言い過ぎではないであ

ろう。人生で一番早かった。まさに、風と同化していた。しかし、その目的が非

常に、情けなかった。

 ボールを盗んだことは、ばれなかったが、やはり、『悪い事は出来ないな』と

思い知らされたのであった。

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