学校で、音楽祭のような、各学年で、一つの曲をいろいろな楽器を使って発表す
るといった催し物がありました。当時、私はまだ、音痴の病原菌に犯されておら
ず、リコーダーもなかなかの腕前で、今回も、かなりやる気がありました。私達
の学年では、半数以上が、リコーダーを吹かなければいけなかったのですが、や
はり、目立ちたがり屋の私としては、単に、リコーダーをみんなと吹くだけでは
もの足りず、他の楽器に目を向けることにしたのです。
そんな私を虜にした楽器とは、音楽室の隅っこに並んでいるものでした。素敵
な音色を奏で、私のハートをがっしりとつかんだ楽器。そうなんです。その楽器
とは、木琴だったのです。私は、仲の良かった大野君(以後、大っち)と、一緒
に練習を始めることにしました。
音楽室には、木琴が3つしかなく、二人で一つずつ使い、残りの一個は、誰も使
わないでいました。
そんなある日のことでした。今までリコーダーを練習していた神口君(以後、
神やん)が、いきなり木琴の練習を始めたのです。『へー、神やんも木琴するん
か』と、私はただ、ただ、仲間が増えたことに喜びを感じていました。
そうして、徐々に本番の日が近づいてきました。
いつも、私と大っちは仲良く練習していました。神やんはというと一人で黙々
と練習を重ねていました。神やんは、クラスでも上位に入る頭のいい子で、何で
もそつなくこなす人でした。もちろん、途中から始めた木琴も、すばらしい早さ
で上達していきました。私達はというと、木琴を叩く棒をこすりあわせて、匂い
を嗅いでは「これ、めっちゃ、くさっ!!!」などとふざけてばかりいました。
それでも、木琴の腕前の方はかなり上達していました。
そうして、これなら本番も大丈夫だと確信した時でした。なんということでし
ょう。本番では、1組と2組であわせて4人の木琴演奏者しか出られないことが
判明したのです。つまり、私達の3人の内、2人だけしか本番では出られないの
です。残りの1人は、リコーダーを吹くことになったのです。私は、当然最初か
ら練習をしていた私と大っちが、木琴の担当者になるものだと思っていました。
が、現実はそうもいかなかったのです。皮肉にもじゃんけんで決めることになっ
たのでした。
この取り決めに私は、何とも言えぬ憤慨の気持ちで胸がいっぱいになりました
が、仕方なく、じゃんけんをすることにしました。最初、大っちが一人勝ちして
神やんと私との一騎打ちになりました。『絶対に負けるもんか、何で、最初から
練習してきた僕がこんな所で木琴を譲らなくてはいけないんだ』私は、何が何で
も勝ってやろうと神やんを睨み付けました。
「じゃんけんぽんっ!!!!」
神やんの手は、大きく大きく広げられていました。が、しかし、私の手は固
く、握りしめられていたのです。私は負けてしまったのでした。神やんの顔が、
にやりと笑っているように見えました。無惨にも負けた私は、リコーダーを吹く
ことになったのでした。
本番が始まっても、私は木琴の音が気になって仕方ありませんでした。
『絶対、俺の方がうまい』と、涙をこらえ悔しい思いをリコーダーに伝えて、音
楽祭は幕を閉じたのでした。