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第15回 豊かで安心、確かな未来へ

 

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第15回 NHK講師

  2013年度最後となるNHK講座第15講は、NHK専務理事の塚田祐之さんをお迎えした。塚田さんは「豊かで安心、たしかな未来へ」と題したお話で、今年度のNHK講座を総括された。

 

<講義概要>

  テレビ放送が日本で開始されてから、今年で60年になる。その長い歴史を振り返ることから、今年度最後のNHK講座は幕を開けた。


 まず塚田さんは、テレビ視聴者の現状に目を向けた。昨年、NHK放送文化研究所は、テレビ放送60周年を迎えるに際し、放送に関する世論調査を実施した。その結果、現代の視聴者は、異なる2つの視聴スタイルを巧みに使い分けていることが分かったという。一つは「カスタマイズ視聴」だ。これはデジタル録画機を駆使してテレビをタイムシフト視聴したり、テレビ番組をインターネット上で閲覧したりと、とにかく自己のライフスタイル本位のテレビ視聴形態を指す。カスタマイズ視聴とは異なるもう一方の視聴形態は、「つながり視聴」だ。これはSNS上や実生活におけるコミュニケーションの素材として、テレビを視聴する形態を指している。塚田さんは、相反するかのような2つの視聴スタイルを両立させ、自由自在にテレビを楽しむことを「自分流視聴」と呼んだ。


  ここで塚田さんは未来に目を転じ、放送の今後の展望について述べた。NHKは現在、放送技術の開発を3段階に分けて進めている。まず1段階目が「ハイブリットキャスト」だ。これは「放送と通信の融合」の流れを組む試みの一つで、2013年度中に、試行的に開始される予定である。続いて2段階目が「スーパーハイビジョン(8K)」だ。これはハイビジョンの8倍を誇る超高画質放送のことで、実用化に向けての試験放送が2016年から開始される予定だ。8Kテレビのさらに先、3段階目に位置付けられているのは、専用のメガネが要らない立体テレビだ。この技術の実用化は20年先になる見込みだという。


  最後に塚田さんは、NHKを取り巻く制度に注目した。NHKも、昨今の「放送と通信の融合」の潮流に沿った取り組みを計画している。しかし、それらを実現するには、放送法の問題を克服せねばならない。NHKは放送法によって「放送を行う機関」として位置付けられている。このため、通信に部類されるインターネット上の取り組みには制限がかかるのだ。現在、放送法に抵触しない通信上の試みは、基本的に「放送の補完」に限定されている。つまり、既に放送した番組でなければ、インターネット上に流せないということだ。  NHKがテレビ放送を開始してから今年で60年。これまで多くの人々の力となってきたように、NHKはこれからも公共放送として、多くの人々の助けになれるよう、これまで以上に努力をする――。塚田さんはそう語り、今回の講義を、そして2013年度のNHK講座を、力強く締めくくった。

 

<感想>

  見知らぬ人々との会話は、なかなか難しい。そのため私は、いつも様々な策を講じる。その策の一つであり、非常に効果的なのが、テレビ番組を話題にすることだ。だいたいこれで、彼らと打ち解けられる。いや、正確には「打ち解けられていた」というべきかもしれない。近頃はその定石が通じないことも少なくないのだ。かつては、ゴールデンタイムや、それよりもやや遅い時間に放送されたドラマやバラエティー番組の話題を切り出せば、大半の人から、何かしらの反応を得ることができたし、それを契機にして、会話を展開していくことができた。しかし今では、たとえゴールデンタイムの番組でも、知られていないことが多い。テレビはもはや、あまねく日本人が共有できる話題とは言えなくなったのではないかと私は考えていた。


 しかし、今回の講義で「つながり視聴」という言葉を聞いて、私のその認識が必ずしも正しくはないということを知った。塚田さんによると、ここ数年「つながり視聴」が伸びており、また、家族まとまっての視聴も、やや上昇傾向にあるという。

 

 たとえ時代が変わっても、他人とつながることなく生きていくことが困難であることに変わりはない。いくらインターネット等、他のメディアが普及しても、いくら「カスタマイズ視聴」が容易になっても、それらだけでは人は満足できないだろう。自分の嗜好に深くのめり込むだけでなく、他者と何かを共有することが必要だ。「つながり視聴」の増加は、その事実が広く認識された結果だろう。


 テレビを取り巻く環境は大きく変わった。テレビの周辺機器も急速に充実した。テレビそのものも、ブラウン管からデジタルへと切り替わった。誕生から今日に至る60年の歴史を紐解かずとも、ここ20年ほどの浅い歴史にざっと目を通すだけで、テレビの激変をはっきりと理解することができる。テレビは大きく形を変えながら、今日に至っているのだ。しかしその一方で、テレビの本質的な役割というものはあまり変わっていないような気もする。もちろん、個人での視聴というスタイルが新たに誕生し、躍進してきたことは間違いない。だが、あまねく人々にあまねく同じ情報を伝えることで、家族や仲間はもちろん、見知らぬ人同士をも結び付けてしまうその昔ながらの機能を生かした「つながり視聴」が復権してきたことを思うと、結局は、元の役割に落ち着きつつあるといえるのではないか。

 

 新しい人間関係を築く契機として、テレビ番組が機能しないこともある。しかし、いずれまた、テレビは人と人との「つながり」を橋渡しする存在として返り咲く日が来るだろう。見知らぬ人との会話に困ったとき、私はこれからもテレビを頼りにし続けると思う。

 

記者 立命館大学産業社会学部 植田真弘

 
 
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