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2023/11/25

No.100 第100回記念特集号 vol.1
●2010年博士後期課程修了:藪 耕太郎さん

祝!第44回「サントリー学芸賞(社会・風俗部門)」受賞
校友 藪 耕太郎さんへの受賞記念インタビュー

 「サントリー学芸賞」は、公益財団法人サントリー文化財団が、毎年度、前年1月以降に出版された著作物を対象に選考し、広く社会と文化を考える独創的で優れた研究、評論活動をされた方を顕彰するものであり、本賞は「政治・経済」「芸術・文学」「社会・風俗」「思想・歴史」の4部門に分かれ、1979年の同賞創設以来、受賞者の数は371名にのぼります。

 2022年11月に発表された第44回「サントリー学芸賞」において、立命館校友で仙台大学体育学部准教授の藪 耕太郎さん(2010年本学大学院社会学研究科修了)の著書『柔術狂時代 20世紀初頭アメリカにおける柔術ブームとその周辺』(朝日新聞出版)が、同賞(社会・風俗部門)を受賞されました。

 今回はこの受賞を記念して、藪さんへのインタビューを実施しました。

 

―このたびのサントリー学芸賞受賞、誠におめでとうございます。このご著書は、藪先生が立命館大学の大学院で書かれた博士論文がもとになっているとのことですが、出版に至った経緯を教えてください。

 2020年にNHKの番組『ファミリーヒストリー』に出演したことがきっかけです。120年ほど前に南米パラグアイに渡り活躍した柔術家の福岡庄太郎が、講談師神田伯山さんのご先祖であるということで、当時の南米社会における柔術ブームの調査研究を行い、福岡に関する資料を持っていた私のところに取材がありました。たまたまこの番組を見ていた朝日新聞出版の方が、私の研究内容に興味を持ってくださり、一冊の本にまとめてみませんか、と声をかけてくださったのです。

 通常、人文社会学系の研究者は、博士論文を書き上げた後、それほど年数を経ないうちにその内容を一冊の本にまとめて出版することが多いのです。ところが、私は2010年に博士論文を書き上げ学位を取得したものの、ほどなく現勤務先大学への着任が決まり、その後の多忙さもあって本として纏める余裕が無かったのです。恩師(指導教員)である有賀郁敏先生(現産業社会学部特別任用教授)からは、よく「早く学術書としてまとめるべき」とせっつかれていました。よって、本を出してみませんかとのお誘いには驚きましたが、今ここでやるべきなのだと腹をくくりました。

 

―初めてのご著書が、朝日新聞出版から、なおかつ伝統ある「朝日選書」とは、なかなかすごいことですね。

 (本誌の読者である産社校友の)皆さんも高校生時代に「現代文」の受験勉強などで、「朝日選書」から出ている本を読んでおられたかもしれませんね。私もそうです。橋川文三など著名な先生方が書かれた著作群に私の作品も加わることについて、大変緊張感がありました。

 

―サントリー学芸賞の受賞の知らせはどのように受け取られたのですか?また、その時はどんな思いを持たれましたか?

 ある日突然に、サントリー文化財団の事務局の方から研究室に電話がかかってきました。実は何年か前に同財団から研究助成を受けた研究グループに参加したことがあって、すでにその研究活動は完了していたのですが、もしや、報告内容に何か不備がありその指摘を受けるのではないかと緊張しました(笑)。全く思いも寄らない「サントリー学芸賞」の受賞であったので驚きましたが嬉しかったですね。ちょうどその場にいた大学院生にも話をしたのですが、彼は「サントリー学芸賞」を全く知らなかったので拍子抜けしました(笑)。

 

―恩師である有賀先生にはどのように報告されたのですか?

 すぐにお電話しました。有賀先生もびっくりされたようですが、すぐにお祝いの言葉をかけてくださいました。「サントリー学芸賞」の贈呈式は、授賞者に何名ずつか招待枠が割り振られるのですが、私は迷わず有賀先生をご招待することにして、先生も出席を快諾してくださいました。長年お世話になった先生に少しばかりご恩返しができたような気がします。

―有賀先生との思い出をお聞かせください。

 有賀先生には大学院博士前期(修士)課程からお世話になりました。大学院に入学したての段階では、自分が何をテーマに研究したいのか、まったく目標が定まっていないような状況でしたので、今にして振り返れば、こんな私をよく受け入れて下さったものだと思いますが、先生は厳しくも鷹揚に見守ってくださっていた気がします。

 私はM1(博士前期課程1回生)のときに、父と一緒に2か月間南米を旅したのですが、そのためには一定期間授業を休む必要があり、先生には神妙な面持ちでご相談したのですが、「是非行ってこい」と力強く背中を押してくださいました。私はここで今に繋がる研究テーマを見つけることになりましたので、その意味でも先生には感謝してもしきれません。

 また、TA(ティーチングアシスタント)として、学部生の有賀ゼミにも参加させてもらいました。教育者としての有賀先生に、側面から立ち会えたことも実り豊かな経験になりましたね。

 

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に続く

●藪 耕太郎(やぶ こうたろう)

修了年月日 2010年3月
博士後期課程修了
出 身 地 兵庫県
現 住 所 宮城県
勤 務 先 仙台大学 准教授
指 導 教 員 有賀郁敏先生
所属サークル
団 体
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