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2013/10/24

No.24「この世界の素晴らしき多様性を歌う」
●2002年卒業:松田 美緒さん

恩師鈴木先生から学んだ「聞き書き」

 初めまして、旅する歌手の松田美緒です。私は、産業社会学部を卒業後リスボンに留学し、世界中のポルトガル語圏、スペイン語圏の国々の歌を中心に歌ってきました。学生時代から、日本を飛び出して、世界のいろいろな地域を巡り、現地の人々に混じって、心ひかれる歌の心髄をつかみたいと思って旅してきましたが、それは、歌いたいという衝動だけではなく、やはり、歌を歌ってきた人間というものに興味を持ったからです。それを深めてくれたのは、社会学という学問で、在学中に学んだことは、歌手になってからも、ひとつの礎となっています。そのなかでも、かけがえのない宝物は、鈴木良先生に教わった「聞き書き」でした。

 鈴木先生の最初の授業で、この「聞き書き」の課題が出ました。京都の伝統産業である西陣織の根付く西陣へ行き、そこに住む人に話を聞きレポートしなさいというものでした。聞いたことをそのまま、自分の脚色を入れずに書いていく、そんな作業でした。私は西陣に古くからある喫茶店へ通い、そこのご夫婦に暮らしや地域の話を聞きました。聞いて、書く、それだけの作業のなかで、この社会・文化とは人間によってつくられてきたのだ、という当然のことに気付きました。その時から、「聞き書き」の虜となったのです。

この世界は素晴らしい多様性で出来ている

 UBCに一年間交換留学をした時も、「聞き書き」をしました。先住民の人々に話を聞き、私が勉強したかった、カナダの国策である「多文化主義」からはじき出された人たちのことと、きれいごとですまされない現実を知ったのです。その時期に、先住民の人たちから歌を教わりました。西の人には、森や川の自然の精霊によびかける歌、東の人には、広大な草原に生きたかつての人々の物語の歌を習いました。歌をうたい、声の波動を合わせることで、出自を超えて、もっと心が通い合うことに感動したことが、私が歌手になろうと思ったきっかけです。

 聞き書きしながら、歌いながら、先住民の人たちの文化は東と西では全然ちがうことがわかりました。なんだか、それが日本の東西南北の違いと同じようで、まったく人間どこへ行ってもおんなじだなあ、と思ったのです。この世界が素晴らしい多様性でできていて、人間はみな深いところでつながっているのだ、と。その地域へ行って、同じ空気を吸い、同じものを食べ、言葉をかわしあい、歌い合えば、もっと見えてきました。そして、出会う人の人生の中に、歌のなかに、まさに人類史が凝縮されていると思いました。それは鈴木先生から教わった「聞き書き」で感じたことそのものです。

 その後、ポルトガルのファドという音楽が、大航海時代を経て生まれた歴史と、大衆化していった過程を卒業論文にしました。

そして「日本のうた」プロジェクトへ

 リスボンへ留学してからは、ヨーロッパの国々を歌い歩いたり、旧ポルトガル植民地の国々の人々と音楽に魅せられて、大西洋を渡り、ブラジルでCDを録音しました。それ以来、素晴らしい音楽家の友人に恵まれ、毎年、南米の国々を旅し、公演をしてきました。南米は、人々の生活に豊かな音楽が根付く、音楽先進国だと思います。ペルーに着いてから、私の気持ちは、太平洋を渡って、また日本へ還ってきました。ここ2年ほど、多様な日本をテーマに、「日本のうた」プロジェクトをやっています。

 人間に興味を持つこと、徹底的にその人たちについて知ろうとすること、そんな人たちの暮らしが積み重なってこの社会、歴史が作られていること、そして歌が生まれてきたということ・・・。それを「聞き書き」で教わりました。これからも、たくさん聞いて、歌いながら伝えていきたいと思います。聞き歌い、ですね。

●松田 美緒(まつだ みお)

卒業年月日 2002年3月 卒業
出 身 地 秋田県、佐賀県、京都府
現 住 所 京都府
勤 務 先 音楽
ゼ ミ 名 井上純一ゼミ(国際関係学部)
所属サークル
団 体
出前ちんどん