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2013年4月20日 講師:松井 純 ・ 崎山 政毅

平凡社編集長と著者が語る

 昨夏、旅先で19世紀のロンター・ブックに出合いました。いわゆる「パームリーフ・マニュスクリプト(貝葉写本)」です。バリ・ヒンドゥーの聖典をはじめ、宗教的叙事詩、道徳、民話から薬草の効用まで、縦3×横30センチほどに截った細長いヤシ葉の両面に古語で記したものを、一枚一枚紐で通して束ねた生活事典です。紙以前の支持体に文字を載せたロンターは、頁取り外し可能なその形態とともに、わたしに不思議な感銘を与えました。紙の本さえも過去の遺物になりつつあると喧しい電子出版の時代、ウィキペディアが世界大百科事典を駆逐してしまったこの時代に、書籍をめぐってさまざまなことを考えさせてくれるからです。編集とは、枠決めと切り取りによって明確な姿をつくる作業です。内容は毎回大きく異なりますが、同じ作業を20年ちかく繰り返してきました。編集者の経験とは畢竟、このフレームの型をどれだけ多くもっているかに尽きると思いますが、最近ではここが職業的な陥穽にもなりうることを痛感することしばしばです。その自覚からか、旅の記念としてはいささか高価なロンターを、わたしは迷わずもとめました。グーテンベルクを超える大転換期(?)にあって、机上に置かれた編集のお守りをながめながら、日々の現場で感じていることの一端をお話しできればと思います。
(松井純)

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