立命館土曜講座 開催講座一覧


2017年3月4日

東北の復興住宅・まちづくりの現在
~復興の現場を通して見えてきた「住民主体の地域再生」と専門家の役割~ 

【講師:手島 浩之】

  東日本大震災直後、この社会はもう一度つくり直さなければならないほど壊れてしまったと誰もが感じました。震災直後には、このような混乱期には首長の専制的な決断こそが重要であると学識経験者をはじめ誰もが口にしていました。民主的な手続きはタテマエではあるが、実現する筈のない理想であり、手続きだけが煩雑になり実用的でない。迅速な復興のためには英雄的な英断こそが必要だと。社会が理想としタテマエとする原理原則を、その専門性で社会を支える役割を担った実務者や専門家、有識者が信じていないことに愕然としました。論理的に考えると、掲げた原理が上手く実現できないのであれば、原理が間違っているか、運用が間違っているか、どちらかの筈です。私は、この社会が原理原則と掲げていることに、一番オーソドックスなやり方で取り組みたいと考えました。非常時であるからこそ、どこから歩き出すかは、この社会の理念に対しての態度表明である筈です。
 日本建築家協会宮城地域会で石巻市の支援をすることになり、最初に、誰がどの地域に入るかを相談した際に、何の迷いもなく「北上町」に手を上げました。その理由は今になっても良く分かりませんが、思い返せばそれがすべての始まりでした。北上町の復興の歩みは、私たちの社会が理想として掲げていることへの素直で素朴な表明であることを願っています。

【講師:塩崎 賢明】

  東日本大震災から6年近くが経過しましたが、復興にはまだ多くの課題が残っています。住宅の復興についても、ハードの整備がようやく半分程度できた状況で、今後そこでの生活が始まり、様々な問題が発生する可能性があります。被災者にとっての復興は、建物が出来上がれば完了というわけではなく、むしろそこでの生活が、以前のように(あるいはそれ以上に)暮らしやすいものとなるかどうかが問われます。この点を見誤ると、建物は新しく立派に見えるが、住む人々は孤立化し、孤独な生活となったりします。阪神・淡路大震災の経験では、仮設住宅や災害公営住宅に住んでから亡くなった孤独死はこの20年間で1130人に達しています。住宅建設も完成戸数を追いかけるのではなく、生活やコミュニティを十分踏まえたものとしなければなりません。東日本大震災においても、そうした配慮をした計画や設計は数少ないなかで、石巻市北上地区での取り組みは、きわめて重要な成果を収めている貴重な例だと思います。


前のページに戻る

このページのトップへ