戦後日本において、マンガはさまざまなテーマや素材をもとに「戦争」や「平和」を描いてきました。管見の限り、
1948年以降、戦争・戦記マンガが発表されなかった年はなく、その累計は約1000作に及びます。
2015年に京都国際マンガミュージアムで「マンガと戦争展」を開催した際、私は監修を務めました。
原爆・特攻・沖縄・満州・戦中派の声・マンガの役割という6つの視点から計24作品を展示したところ、世間の反響は大きく、
のちに東京とアメリカに巡回されることになりました。
しかし当然ながら、「マンガ」と「マンガの展示」は表現としてもメディアとしても別物です。
マンガをはじめからおわりまで読むことで得られる知識や感想と、マンガの一部を切り取って装飾する展示から見えてくるものは、単なる形式の違いを超え、
メッセージの伝わり方から作品そのものの評価まで異なってきます。
今回の講座では、マンガミュージアムと平和ミュージアムに携わる二人の講師が、それぞれのミュージアムで扱うテーマ、素材、手法、
さらには来館者層の違いや共通点について意見を交わしながら、「マンガ」と「平和」を架橋する展示の課題と可能性を考察します。
戦争と平和について考える際に、世界各地の平和博物館が果たしてきた役割はきわめて大きなものがあります。
そこは異なった立場からの「戦争」「平和」観がぶつかり合う場であるとともに、対立を越えた共存について考える場でもあります。
こうした平和展示の場において取り上げるのが難しい素材の一つが、戦争を描いたマンガ作品です。
マンガはそれ自体、非常に大きな影響力をもつメディアであり、日本のあるマンガやアニメが翻訳されて他国でも広く受け入れられる例は数多くみられます。
ところが、戦争という事件をフィクションとして物語るマンガ作品を展示することで、歴史資料にははっきり書かれていない「事実」を読み取ることも出来、
読む人それぞれが事件について多様な解釈を生み出すきっかけにもなりえます。戦争を単純な善悪で描くことはもはや困難である今、
平和博物館はどんな歴史像を提示できるでしょうか。
紋切り型では無い「戦争」「平和」展示を考える際にぶつかるこの難題について、今回の講座では、マンガ→ミュージアム、ミュージアム→マンガという
双方向的な観点から議論を交わし、考えを深めたいと思っています。
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