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2017年9月2日

白川文字学の今後の展望


講師:大形 徹

 7月に上海の華東師範大学を訪れ、Journal of Chinese Writing Systems の編輯会議に参加した。この大学には老舗の学術雑誌『中国文字研究』がある。それを英訳してイギリスで出版するという。国の予算もある。日本4、韓国4、ベトナム2、イギリス、イタリアから1名ずつと中国の学者、あわせて40数名が集まった。出版はSAGE(シンガポール)である。

 かつて毛沢東は「象形文字から音標文字」への切り替えを提唱した。簡体字を作り、漢字を簡素化し、その後、音標文字にする。 その一環としてアルファベットのピンインを作成した。你是中国人吗? は、Nǐ shì Zhōngguó rén ma ?と書く。中国語の発音記号だが、文の最初や固有名詞は大文字から始め、疑問文の文末には「?」がつく。漢字をなくしてもピンインで英語のような文になる。実際、中国ではパソコン入力はピンインなので毛沢東の考えは半ば実現している。

 ところが現在、中国は象形文字から始まる表意文字「漢字」の面白さをアルファベットの国、イギリスに英語で発信しようとしている。白川静氏の『字統』なども英語に訳せば、興味をもって迎えられるのではないかと思う。




講師:佐藤 信弥

 白川文字学の特徴は、漢字の三要素である字形・字義・字音のうち、特に字形の分析を重視することにあるとされています。実のところ、中国の文字学者も甲骨文字など古文字の研究は字形を主とすべきであると言っています。

 ただ、同じ字形重視でも、白川静はその文字が何をかたどっているのかを読み取ることを目標とするのに対し、中国の学者は、甲骨文字→金文→戦国文字→小篆の各段階で字形がどのように変化して現在の形になったのかを整合的に説明することを目標としており、その内実は大きく異なります。

 中国での研究が、従来用例の不足していた戦国文字の急増によって大きく進展している一方で、白川式の方法論はこの新しい材料の増加にうまく対応できていないように思います。こうした両者の研究手法の得失を考えることで、白川文字学の今後の展望を探っていきたいと思います。




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