2021年1月16日　講師：手塚 眞

映画黎明の地としての衣笠
「衣笠貞之助監督の功績」

　「日本の映画監督でどなたがお好きですか？」と問われたなら、私はまづ衣笠貞之助の名を挙げます。するとたいていの方は「それはどなたですか？」と怪訝そうな表情を見せます。衣笠監督の名を知る人は現在少なくなりました。溝口健二、小津安二郎、黒澤明らと比類できる名匠のひとりであるにも係らず、映画ファンの間でも所謂「娯楽映画の職人」という見られ方をしています。もちろん長谷川一夫や市川雷蔵を育て数々の娯楽時代劇を発表してきたのは事実です。しかし彼は日本における最初の芸術映画監督であり、最初のインディーズ（独立プロ）映画制作者であり、ヨーロッパで映画を学んだ最初の日本人監督です。自作を海外で劇場公開させ、国際映画祭でも受賞（『地獄門』1953年／カンヌ国際映画祭グランプリ、アカデミー賞名誉賞）しています。いわば衣笠監督が開拓してきた道を、私たち現在の映画監督は歩んでいると言えるのです。

　日本映画の混迷期である現代に、原点とも言える衣笠監督の功績をいま改めて顕彰したいと思います。

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