ウエブベースの英語学習の実践と成果

野澤 和典(総合人間学部非常勤講師)

0. はじめに
 2000年度に総合人間学部の英語授業4クラス(英語Iの1クラス及び英語IIの3クラス)を担当し、既存の施設(総合情報メデイアセンターのWindowsNT教室)を利用してウエブベースの英語学習クラスを実践したので、その成果、問題点、今後への改善策などを報告することとする。

1. 英語Iクラスでの実践と成果
 英語Iは1クラスで1時限目に提供され、あらかじめクラス分けされた工学部工業化学専攻の1回生が対象で、当初は32名が登録されていた。最終的には6名が途中で出席を取り止めたので、26名(81.25%)となり、平均出席率は86%であった。
 シラバス(http://www.ritsumei.ac.jp/ec/~nozawa/kuengI00.htm)から分かるように、このクラスでは、前期は文社系のサイト、そして後期は理工系のサイトのデータベースへアクセスし、そのサイトについての情報を読んで自分の感想を入れてまとめ、e-mail課題(前期7、後期8で計15)として提出するスタイルをとった。不完全なものにはコメントを与え、数度の書き直しを指示し、再提出させた。課題の平均提出率は71.78%であり、少し予想より低かったのが残念である。
 前期では小グループ(3?4人)に分け、Netscape Composerがなかったので、MS-Wordを使い、グループごとのホームページ作成とそれらを使用して7?10分の英語プレゼンテーションを行った。ホームページの基本的な構成は、トップ・ページ、自己紹介ページ、宿題レポート・ページから成り立っており、グループごとにグラフィックを取り入れたりして工夫が凝らし、個性を出している。また、ホームページとプレゼンテーションの評価は、グループ同士で、技術面とオーラル面の両方についての評価表に従いしてもらい、最終的な評価に反映させた。
 後期は、完全に個人ベースの学習スタイルとなり、課題をこなしたと共に、Ms-PowerPointのワークショップを実施し、個人ごとにテーマを一つに絞り、3?5分のオーラル・プレゼンテーションをしてもらった。非常に大雑把な内容のもの(71KB)からかなり凝った盛り沢山の内容(1,346KB)まであり、Excelシートを利用して個々の評価をしてもらい、最終的な評価に反映させた。
 全体としての授業参加の感想は、指定期日までにメールで感想を送ってくれたのがわずか6名(23.08%)であったので、全体像は見えない。しかし、次のOさんのコメントが代表してくれているようである。

初めはパソコンのことなど何もわからなかったので、一体どうなってしまうのだろうと、かなり不安でしたが、毎週のレポート、前期のHP、後期のPOWERPOINT、と何とか仕上げることができ良かったと思います。正直言って英語の授業でこんなにパソコンばっかり使って何の役に立つのかと思っていたのですが、この授業がなければHPを作ったり、POWERPOINTを使ったりということはなかったし、その上英作もちょっとはマシになった気がするので、すごく得した気がします。特にPOWERPOINTは将来必ず使う時が来ると思うので、その時あわてふためかないで済みそうです。
 これからレポートを作らなくなるのかと思うと少し淋しい気さえします。これからも時々英語で文章を書く練習をして、せっかく慣れてきた感覚を忘れないようにしようと思います。本当に一年間ありがとうございました。

2. 英語IIクラスでの実践と成果
 英語IIは3クラス(e323, e337, e346)で2?4時限目に提供され、シラバスを読んで登録した2回生以上の履修希望者が対象で、当初はそれぞれ50名、49名、47名が登録されていた。最終的にはe323クラスで10名、e337クラスで8名、e346クラスで14名が途中で出席を取り止め、それぞれ40名(80%)、41名(83.67%)、33名(70.21%)に最終成績を出した。平均出席率は、それぞれ84.02%、88%、91.65%であった。
 シラバス(http://www.ritsumei.ac.jp/ec/~nozawa/kuengII00.htm)から分かるように、このクラスでは、前後期を通してテキスト - Dave Sperling's Internetactivity Workbook (Prentice Hall Regents, 1999)とそのホームページ・サイト(http://cw.prenhall.com/sperling/) を利用した。(それぞれ以下のグラフィックを参照。)



 基本的には、そのサイトから世界中に散在し、情報交換/異文化交流ができる友達/キーパル(keypal)を見つけ、各章にある質問を送り、回答を自分の感想を入れてまとめ、e-mail課題(前期12、後期10で計22)として提出するスタイルをとった。不完全なものにはコメントを与え、数度の書き直しを指示し、再提出させた。また、キーパルから提出期日までに回答がない場合は、テキストの中の指定課題(章により1?3)を提出してもらった。課題の平均提出率は、e323クラスで82.39%、e337クラスで82.59%、 e346クラスで88.9%であり、おおよそ満足できる達成率であると言えよう。
 後期には、英語Iと同様、Ms-PowerPointのワークショップを実施し、個人ごとにキーパル交流のまとめ、あるいはテキストの内容からテーマを選んでもらい、3?5分のオーラル・プレゼンテーションをしてもらった。非常に大雑把な内容のもの(36KB)から音や画像をふんだんに使い、かなり凝った盛り沢山の内容(6,329KB)まであり、Excelシートを利用して個々の評価をしてもらい、最終的な評価に反映させた。
  全体としての授業参加の感想については、指定期日までにメールで感想を送ってくれたのが、e323クラスで28名(70%)、e337クラスで31名(75.61%)、e346クラスで26名(78.79%)であった。全部を集計し、分析するには時間的な余裕がないので、ここではAさんのような代表的なものを紹介しておくことにとどめる。

 実際に様々なジャンルのホームページを見ることができ、面白かった。私の目標であった、短時間で内容を読んだり、事柄を調べたりすることができるようになったと思う。
難しかったことといえば、同じ目的をもったキーパルを見付け、定期的に交流ことだ。インターネットの性質上やむを得ないかもしれないが、英語とは無関係の失礼なメールを送る人や、単にDaveのページに登録しただけの人もいた。
テキストは分かりやすい内容だった。もう少し英語のレベルが高い方が、学び甲斐があるように思う。しかし、一年を通して、行くのが楽しみな授業だった。

3. ウエブベースの英語学習クラスの課題と今後の改善策
 ウエブベースの英語学習クラスを効率良く実践するには、ハードウエアやソフトウエアが最新のもので構成されたコンピュータ・ラボ(CALL Lab)であることが前提であり、理想であるが、今回はそうではなかった。ハードウエアの更新は、リース契約上では通常4年ぐらいであるが、一括購入した場合、それ以上の使用期間となる。今回利用した教室は、更新時期を迎えていたので致し方ない面もあったが、せめて教員側のものには印刷枚数制限(一日50枚)や蓄積データ制限(10MB)の撤廃、外付けMOドライブの設置などがあっても良かったのではないかと思う。4クラスも担当した結果、ハンドアウトとして、ちょっと印刷して渡そうとしても、印刷枚数を超えてしまったり、プリンター接続も悪くて印刷できなかったりして、授業中や授業後に即座に渡すことができなかった。もちろん、しばらく後で共有フォールダーを設定してもらい、そこでファイルを各自のフロッピーにコピーして持ち帰るようにしてもらったが、逆に学生側からファイル提出ができなくなったりして、本来の役目を果たせずのものとなってしまったのが残念であった。また、共有フォールダーへ行き着くのに幾つものウインドウを開かねばならなく、もう少し簡単にできるように改善して欲しいものである。ちなみに、本務校では、教材配付用ドライブと課題提出用ドライブがあり、教員も学生もファイルの提出や持ち帰りや当該学制と教員のみ削除権限があり、容易になっている。その量もかなりになったメールは、転送設定でほとんどを本務校や自宅で処理したので、大きな問題とはならなかったものの、メールの標題の書き方の基本が何度となく説明・指導しても身についていない学生もいて、整理は大変であった。全員に情報基礎処理能力訓練をしっかりして授業に参加して欲しいものである。さらに、何故かファイル類をftpで本務校のサーバーに移せない状況であったので、グループごとのホームページ作品やプレゼンテーション・ファイルなどを持ち帰るのに、処理スピードの遅いコンピュータで多数のフロッピーにコピーして持ち帰らざるを得なく大変であった。
 TA(Teaching Assistant)も各クラスにつけていただいたが、基本的に優秀な学生であるにしても、情報処理能力に優れていなければ、様々なトラブルへの即座の対応や解決策の提示ができない。本務校では、学部2回生以上のSA(Student Assistant)が中心で書類審査と面接で採用は決めるものの、初級シスアド試験程度の内容のテストを課し、担当するクラスのレベルや種類によって適材適所を心掛けている。今回のTAたちの中では残念ながら全5名中1名しかオールラウンドなスキルを持っていなく、逆に学んでもらった部分も多い。今後の採用基準の見直しと事前研修の充実を期待したい。

4. おわりに
 ウエブベースの英語学習を展開するには、快適なコンピュータ&ネットワーク環境と最新バージョンのソフトウエアが利用でき、情報機器管理者側の定期的な維持管理とトラブルへの迅速な対応、授業補助者としてのSAやTAの全クラス配置などが不可欠であるが、現状は程遠いのが普通であろう。与えられた設備と環境で、利用可能な資産を最大限活用することで対応するしかないが、常にフィードバックを汲み上げ、迅速に改善できるシステムが最低限提供されなければ、いかに熱血漢の教師といえども、次第に情熱が冷めていってしまうものである。その結果、学習者自身も学習意欲を落とし、情報機器利用の学習効率が低くなることにもなる。これは是非とも避けたいし、そうあってはいけない。ハードウエア、ソフトウエア、ヒューマンウエアの三者がバランスよくある環境でウエブベースの英語学習が実践できることを切に願う。


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《付記》  総合情報メディアセンター 語学教育部門

1.印刷枚数制限及びに蓄積データ量制限の解除について
 現時点で、印刷枚数制限の解除については、その都度総合情報メディアセンター運用管理室に申告することによって対応がなされている。また、蓄積データ量制限の解除についても、原則的に同センター運用管理室に申告することにより、解除者リストに登録してもらうことが可能である。

2.外付けMOドライブの設置について
 現有システムは基本的にレンタル物品で構成されており、レンタル対象物品に対象外のデバイスを付加すると、保守対象から外きれる恐れがあり、設置を見合わせているとのこと。しかし、平成14年度導入予定の次期CALLシステムでは、少なくとも教官卓には移動媒体用デバイスを当初より設置する予定であるので、この問題は解消されるであろう。

3.共有フオルダのデイレクトリについて
 共有フォルダは通常「Nドライブ」として他のドライブと同レベルで「マイコンピュータ」内に表示されるはずであろが、今回端末側の問題で正常に表示されないことがしばしばあった。

4.ftpについて
 メディアセンターの運用方針に大きく関わる部分でもあり、改善を計ることは現時点では難しいようである.ただ、ファイルの持ち帰り問題は、2.で述べた通り、次期システムにおいては回避できるものと思う。

5.TAの採用について
 実情ではTA候補者の数がかなり限られており、必要人数を確保するのに精一杯である。事前教育等の可能性に関して、今後検討する必要があるかもしれない。

6.教官からのフイードバッタへの対応と改善について
12年度末のシステム移設に伴い、移設先であるメディアセンター3楷に連絡用ブースを準備する予定である。そのためこれまでよりは迅速に対応が可能であるものと思われる。