まえがき



 オ−ストラリアを訪れる日本人の数は、観光客を中心に近年うなぎ登りである。特に、新婚旅行先として従来のハワイを抜いて一番人気となったし、若者たちの人的交流を主目的としたワ−キング・ホリデイ・プログラム(Working Holidays Program)もあり、多くの若者達が参加している。また、日本語学習熱の高まりもあり、ボランテイア日本語教師として参加する人達も増えている。日本人留学生や旅行客へのトラブルが増加している米国よりも安全でのんびりした国であり、日本に大変友好的な国なのである。

 しかし、これだけ訪れる日本人がいても、英語圏の中ではマスメデイアが多量の情報を流す米国や英国に比べて、まだまだオ−ストラリアについての情報が不足していることは否めない。日本人のオ−ストラリア観は、「広大な土地を持ち、コアラやカンガル−のような有袋動物や沢山の羊たちがいる島国大陸」とか「石炭や鉄鉱石などの自然資源が多く、砂糖、小麦、米などの農産物が豊富な第一次産業中心の国」とか「ラグビ−、ゴルフ、水泳、ヨットなどのスポ−ツが盛んで強い国」といった程度である場合が多いのではなかろうか。

 オ−ストラリアは、脱欧州政策を取ってきており、共和国への移行に絡んで脱連合王国の動きもある。近隣諸国であるアセアン諸国に加え、貿易輸出相手国第1位であり輸入相手国第2位である「経済大国」日本への関心度は非常に高く、社会問題も含めて毎日のようにマスメデイアを通してニュ−スを伝えている。環太平洋の一員としてアジアに融合しようと努力しているのである。一方、日本では欧米のニュ−スに比べてオ−ストラリア発のニュ−スは極端に少ないと言えるのではないだろうか。どうも情報量にギャプがあるようである。

 このような状況下でオ−ストラリアの日本及び日本人に寄せる関心は非常に高く、日本語を学ぶ学生や生徒の数はかなり多い。筆者と家族が滞在したクイ−ンズランド州(Queensland)は特に観光と農工業で日本との交流が盛んで、日本語は小学校レベルから外国語選択科目として教えられている。日本語を流暢に話すオ−ストラリア人に時々出会うが、そういった教育環境の出身であることを考えると納得できる。

 この本には、筆者とその家族の初めてではあるが、10ケ月間にわたるオーストラリアでの滞在、特にクイ−ンズランド州ゴ−ルドコ−スト(Gold Coast)での滞在を通して体験した様々な異文化理解・衝突などをまとめたものが書かれてある。あくまでも著者とその家族の私的な異文化体験の集大成であり、限られた地域で限られた期間での異文化体験であるから、環太平洋の一員として、アジアとの関係を重視し、多民族・多文化国家を目指す政策を推し進めているオ−ストラリA全体を必ずしも一般化して捉えることができるものではないことを記しておく。しかし、オ−ストラリアの人々と文化を理解する上で、少しでも役に立ちたいとの願いでまとめた。なお、本文中における不正確な情報、誤字、脱字などについては、すべて著者の責任に負うものである。


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