2017年7月1日、2日に開催された「医療薬学フォーラム2017/第25回クリニカルファーマシーシンポジウム」で「心房細動患者におけるアピキサバン※1の母集団薬物動態解析」という演題でポスター発表した山根さんが優秀ポスター賞を受賞した。このフォーラムは、臨床現場の問題から派生した研究 が多く発表され、一般演題277題中、優秀ポスター賞審査に167題がエントリーし、山根さんを含む5題が優秀ポスター賞に選出された。この研究は、アピキサバンを規定の用法・用量に基づいて投与しても、想定外の出血症状を呈することが臨床現場で問題視されており、出血症状の頻度と薬のAUC※2が相関することを踏まえ、アピキサバンを代謝する酵素や排出するトランスポーターの遺伝子多型に着目し、血中濃度の推移の変動要因について解析したものだ。

※1血液を固まりにくくする薬

※2血中薬物濃度時間曲線下面積(体内循環で流れた薬物の全体量)

薬の効果や副作用の個人差を血中濃度の変化から明らかにしたい

薬学部ならではの薬物動態学※3の研究がしたいと医療薬剤学研究室への所属を決めた山根さん。4回生から、アピキサバンの血中濃度と抗凝固作用に関する研究を行っていた先輩の補助につき、解析などに携わってきた。この研究は、滋賀医科大学を受診し 、アピキサバンを処方されている心房細動の患者さんの血液サンプルを用いて解析を行う。研究を実施するためには倫理委員会の承認が必要であり、結果の検証には多数のデータを要するため、スムーズに進めることは難しく長期的に行われてきた。そして、先輩たちから山根さんがその研究を引き継ぎ、今回の解明に至った。

※3投与された薬物がどのように吸収され、組織に分布し、代謝され、排泄されるかを解析する

山根さんは、「研究について多くの人に知ってもらうことで、医薬品の適正使用推進につながる」と考え、今回のポスター発表を希望した。5月から準備を始め、時間をかけて文字やグラフの間隔や幅、大きさなどを調整し、質疑応答の想定される質問への回答など入念な準備を行った。ここまでやりきったのは、解析をしっかり行うことはもちろん、研究内容を適切に伝えることが重要だという山根さんの思いがあったからだ。受賞の喜びを感じると同時に、同じように優秀ポスター賞を受賞した現場で働く薬剤師の方々をみて、「日々の業務の中でも研究心を大切にしなければいけない」と感じたという。

データの先に見える患者さんへの思い

研究は、結果が出るのは当たり前でもなく簡単なものでもないが、「今回は、まだ世の中ではわかっていなかった事実を一番初めに知り、発表することができました。最先端を走っている、それが研究をやっていてよかったと感じられる瞬間です」と山根さんは笑顔をみせる。「患者さんから血液サンプルをいただいており、それを無駄にはできません」という強い責任感を持って研究に臨み、すでに、アピキサバンと同じ作用機序を持つリバーロキサバンにおいて同じ傾向がみられるのか、という次の研究に取り組んでいる。

PROFILE

山根拓也さん

鳥取県立鳥取西高等学校(鳥取県)卒業。桂 敏也教授の医療薬剤学研究室所属。趣味はミュージックビデオ鑑賞。卒業後は、薬の適正使用に関わる仕事や僻地の医療環境整備に関わる仕事を目指す。

最近の記事