「誰よりも一番練習している人が勝つ。それが面白いんです」と話すのは、厳しい練習を重ね「2018カヌースプリント海外派遣選手選考会」K-1、1000mで優勝を果たした棚田さん。優勝した瞬間、「喜びと同時に、仲間や支えてくれた人たちへの感謝の思いがこみ上げました」と振り返る。そして、高校3年生以来2度目の日本代表となる、「U-23日本代表」に選出された。

怪我の経験を原動力に

高校では、新しいことに挑戦しようとカヌー部に入部。自然が好きで、楽しそうだと思って始めたカヌーは、「やってみたら、とてもしんどいスポーツでした」と笑顔を見せる。最初は落ちてばかりで全く乗れなかったが、その悔しさからカヌーにのめりこんでいったという。高校3年生のときには、ジュニア日本代表に選出されるなど、めきめきと実力をつけていった。大学1回生の7月、インカレ前に手首を骨折し、4カ月間乗艇できなったときは、ひたすら走りこみ、体力を強化していったが、長期間乗艇できないつらさから、モチベーションは下がり、一時はカヌーをやめようかとも思ったほどだった。それでも捨て切れなかったのが、「カヌーに乗りたい、カヌーが好きだ」という思い。今では、怪我をした経験が厳しい練習の原動力になっている。「今、この乗艇を無駄にしたら、あの時の自分になんと言えばいいのか」と、1乗艇、1乗艇を大事にしているという。怪我から復帰後、翌年のインカレでは、優勝を勝ち取った。

インカレでの優勝も日本代表選出も、人一倍の努力がもたらした結果だ。瀬田川で行っている部の練習は、週6日。朝、夕の2回練習をすることもある。部の練習以外にも、空いた時間には、練習したり、1日1時間以上の有酸素運動も欠かさない。日本では、ヨーロッパに比べ、技術や練習法などの情報が不足しているため、「自分で情報をみつけていかないと強くはなれない」と考え、海外の論文をネットで探して読んでは、自分で試しているという。

世界大会で見えたさらなる課題

U-23日本代表として挑んだ7月の「アジアパシフィックスプリント大会」では優勝を果たしたが、8月に出場した「U-23世界カヌースプリント選手権」では、棚田さんの強みでもあるラストの粘りで競ったものの、コンマ2秒差で決勝進出を逃し、準決勝7位。悔しさもあったが、一方で手ごたえも感じたという。「今回の大会で、タイムはかなり伸びました。この成長を止めずに頑張っていきたいです。ただ、世界に比べて、技術、体力、精神力全部がまだ足りていないので、その差をどう埋めていくか、これから考えていきたいです」と話す。

さまざまな大会を経験し、悔しい思いをするほど、「ひとつでも上の順位をとりたい」という思いが募っていくという棚田さん。どんなに練習がきつくても、世界を見据えて「まだまだこんなもんじゃない」と自分を鼓舞する。彼が目指すのは、オリンピックでのメダル獲得と世界選手権での優勝だ。ひたむきにカヌーに取り組み、努力を惜しまない彼の今後のさらなる活躍に期待したい。

PROFILE

棚田大志さん

奈良県立奈良情報商業高等学校(奈良県)卒業。立命館大学体育会カヌー部所属。スプリント1000mベストタイムは3分38秒。小学・中学時代は、野球部に所属。趣味は釣りとサイクリング。藤田聡教授の研究室でサプリメントの筋肉に与える効果の研究に取り組む予定。


2018年の試合成績
3月 海外派遣選手選考会 K-1 1000m 優勝
             K-1 500m 6位
5月 アジアパシフィックスプリント大会 K-1 1000m 優勝
6月 京都府カヌースプリント選手権 K-1 1000m 優勝
7月 U-23世界カヌースプリント選手権 準決勝7位
8月 世界大学カヌースプリント選手権 K-1 1000m 9位

最近の記事