日本には多くの外国人観光客が訪れ、また多くの外国人が住んでいる。大規模災害が発生した場合、こうした外国人の安全確保にはどうしたらいいのか、各地でいろいろな取り組みが始まっている。滋賀県草津市でも、防災に関する啓発活動や避難誘導、また避難場所での心のケアなどを目的とした、外国人被災者支援業務を担う外国人だけによる「機能別消防団」が、2015年9月に草津市役所のもと発足した。全国でも外国人対象の消防団は少なく、現在の団員は9名。このうちの多くが立命館大学の留学生で、鄭さんと劉さんも団員として訓練している真っ最中だ。

避難訓練の重要性が身に染みる

鄭さんは中国出身。幼少期から地震の経験がなく、避難訓練もあまり行ったことがなかった。「日本は地震が多い国だと知っていたので、来日当初は地震が起きたらどうしようという気持ちでいっぱいでした」と防災知識がないことを不安に感じていたそう。一方、劉さんは同じ中国出身でも2008年に四川大地震を経験している。「地震発生時、中学生だった私は、教室が揺れて何が起こったかわからなかった。大きな恐怖を感じ、途方に暮れたのを今でも覚えています」と当時を振り返る。地震を経験してからは避難訓練の重要さを実感したという。来日後、二人は通っていた日本語教室を通じて機能別消防団が立ち上げられることを知る。「自分の防災知識を高め、災害発生時に外国人の不安を少しでも和らげ、迅速かつ的確な行動ができるように支援したい」という思いで入団を希望したという。

災害発生時は安全確保と安否確認、団員としての使命感

今まで草津市南消防署で4回の訓練を実施し、救命処置である心臓マッサージや人工呼吸などの講習を受けた。最初は心臓マッサージも難しく、なかなか成功しなかったという。「心臓マッサージは1分間に100回以上のリズムで行う必要があります。そのリズムが難しかったのですが、ドラえもんのテーマに合わせてマッサージするコツを教えてもらうと、上手くマッサージすることができたんです」と訓練で得た知識を笑顔で教えてくれた。また、防災知識を身につけていくと同時に、命の大切さを改めて感じた二人。先日、日本で地震を経験した際は、「建物の中に何名いるのか、どこに誘導したらいいのか」などの考えが真っ先に思いつき、消防団員としての使命感が芽生えている自分に気づいたという。「指示を待つのではなく、まず自分のできることは何かを考えるという、今までになかった気持ちの変化にびっくりしました」国籍に関係なく周りの人を助けたいと思う意識が自然に強まったという。

二人はこれからも訓練を重ね、もっとレベルアップしたい思いと同時に、新たな団員を心待ちにしている。先輩団員として、一緒に訓練し、防災知識を増やしていきたいと意気込む。「日本で避難訓練の重要性を実感したので、中国でも広く呼びかけたい」という二人の言葉に、消防団員としての力強い意志を感じた。

PROFILE

鄭 暁彤さん

中国遼寧省出身。2014年に大連外国語大学飛び級プログラムで来日。日々、国際貿易について勉強中。将来は日本と中国の繋がりを深められる仕事に就きたいと考えている。

劉 鴿さん

中国陝西省出身。日本の文化を学びたいと2014年に大連外国語大学飛び級プログラムで来日。現在、産業組織論、企業の競争と協力などを学び、今後は博士課程後期課程に進み、大学教員を志している。

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