木村さんが学部4回生の頃から続けている研究「積層型コレステリック液晶エラストマーフィルムのひずみに伴う光学物性変化」が、「高分子学会広報委員会パブリシティ賞」を受賞した。この賞は、学術、技術、産業の発展に寄与し、対外的に発表するにふさわしいと認められたものに授与されるものだ。木村さんは、ソフトロボット開発プロジェクトにおいて、引っ張ったり、曲げたり、圧縮などの変形を色の変化として可視化できるゴムフィルムをセンサーの一部の材料として開発し、今回その成果が認められた。

新しい研究にチャレンジしたい

4回生の時、木村さんは指導教員である堤教授に何を研究したいか尋ねられた際、「新しいことにチャレンジし、身近に使われるような材料を作りたい」と訴えた。そして「研究を1年で終らせてしまうのはもったいない」と考え、大学院進学を念頭に、3年の研究計画をたてた。装置も一から勉強し、ゴムフィルムをつくるための装置、測定するための装置などを、自分の測定にあうように調整した。学内の装置だけで実験を行うのが難しい場合には、他大学のものを借りるため、何度も東京の大学へ足を運んだ。

手探りの中、ひたすら一人で研究に没頭する日々が続いた。研究を始めたばかりの頃は、新規のテーマであるため先輩や同期と研究に関する話が合わないこともあり、孤独を感じることもあったという。しかし、研究に行き詰まったとき、教授とのディスカッションや、研究室のメンバーからアドバイスをもらったことで、考えが整理でき解決策を見出すことができた。「周りに相談せず、一人で抱えていては研究を進めることはできなかった。感謝の気持ちをこれからも忘れずにいたい」と振り返る。

代え難い喜びを与えてくれる研究

開発への道のりは、常にトライ&エラーの繰り返しだ。なかなかうまくいかず、かなり追い込まれていた時期もあったという。それでもうまくいったときの感動、達成感は何ものにも代え難いものだった。「無色透明の原料をかけあわせ、カラフルなゴムフィルムができあがる様子は感動します。初めて合成に成功したときは、感動のあまり叫んでしまったほどです」と話すその笑顔から彼の喜びの大きさが伝わってきた。「改善を続けていくと、どんどんいいものになっていく。その過程が楽しかったです。ゴムフィルムと一緒に自分も成長していると感じていました」と話す。研究を重ねるうち、論文を読んでいても見えてくる視点が変わり、どういう発想で、なぜその研究に至ったのかも見えてくるように。「2年前に比べると、ほんの少しは化学者としての視点を養えたと思います」と話す。

現在は、ゴムフィルムをソフトロボットのひずみセンサーに応用することを目指し、研究を続けている。薄くて柔らかく、安全な素材であるため、人間工学への応用も考えられるという。「幅広く知識を得て、自身の研究にフィードバックできるような、柔軟な思考を持った研究者になりたいです」と目指す研究者像について語った木村さん。修了後は、メーカーの研究職に就く予定だ。

PROFILE

木村聖哉さん

滋賀県立東大津高等学校(滋賀県)卒業。 中学、高校時代は、陸上部で短距離走に打ち込み、高校では主将を務める。堤治教授の高分子材料化学研究室に所属。趣味は、読書と大学2回生の頃から始めた投資。時々、友人と自転車で琵琶湖を1周してリフレッシュしている。

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