「オーガニック野菜のある生活を日常へ。そして、地域の人たちの憩いの場をつくりたい」そう話すのは、学生農業団体「ORGANiC」代表の内田修次さん。滋賀県内の有機栽培に取り組む農家のオーガニック野菜を中心に、手作りの豆腐や天然酵母のパンなど生産者こだわりの品々が並ぶ「くさつFarmers’ Market」を2019年4月から草津市の「de愛ひろば(草津川跡地公園区間5)」で開催。彼は海外で出会った日常の風景をきっかけに、草津市で地域の笑顔が集まる場所を育てている。

オーガニック野菜と“人の温もり”が集まるマーケットを

「僕たちの身体は、僕たちの食べるものでできている。日常的にオーガニック野菜が手に取れたら、少しでも病気をしない健康な身体でいられるんじゃないか」そう話す内田さん。オーガニック野菜は農薬や化学肥料を加えない、より自然の姿に近いもの。しかし栽培に手間隙がかかるうえ安定した供給が難しく、効率化が求められる昨今の社会では普及が難しいという。そこで彼が農業団体ORGANiCで企画したのは、有機栽培農家が中心のファーマーズマーケット※。一軒ずつ滋賀県の有機栽培農家に連絡を取っては、出店者を集めていった。クラウドファンディングで資金を募り誕生したくさつFarmers’ Marketは毎月の開催が決定。ここでは生産者から野菜が直接買えるだけではなく、生産者と地域の人たちの交流が生まれる“憩いの場”となること目指している。子ども向けのイベントや毎回新たな特別企画も行われ、回数を重ねるごとにたくさんの優しい笑顔で賑わっていく。

※地域の農家が集まり、それぞれ自分の農場で育てた農作物を消費者に直接対面で販売する市場のこと

海外の日常から見つけた地域社会のあるべき姿

くさつFarmers’ Marketのきっかけは、ニュージーランドとアメリカ留学で出会った「日常の風景」だった。内田さんは2回生が終わる頃、自分の器を広げるために海外へ飛び出した。自然豊かなニュージーランドでは、先住民族マオリ族の暮らしと出会う。自然の中で自給自足する彼らには「心の豊かさ」があり、そこで学んだ有機栽培農業がきっかけで、農薬や化学肥料を使用しない環境にも人にも優しい農業に可能性を感じたという。さらに留学先の各都市では毎週末ファーマーズマーケットが行われていた。そこには生産者と地元の人たちの会話が行き交い、“人の温もり”があふれていた。ここへ来るのを毎週末の楽しみにしながらも、「有機栽培農業」を軸に、この日常風景を日本にもつくりたいという思いがどんどんと膨らんでいったという。「日本に帰国する頃には頭がパンクしそうでした!」と無邪気に笑う彼は、帰国後に集まった仲間と農業団体ORGANiCを立ち上げ、人々の暮らしを豊かにする場所づくりに動き出した。

日常の中に、一人ひとりの大切な居場所をつくる

くさつFarmers’ Marketは、来年からは毎週末の開催を目指したいと話す内田さん。「月に一回の『イベント』ではだめなんです。マーケットは日常の中にあって、みんなが当たり前のように訪れる場所。オーガニック野菜がある生活と、この温かさを日常にしたい」ゆっくりと、地域に愛される場所へと育てていきたいと語ってくれた。「WHO憲章では、『健康』とは病気をしない身体だけではなく、精神的、社会的にも満たされることを言います。存在が社会的にも認められ、自分の居場所があるという気持ちの余裕が、心の『健康』にも繋がっていくと思う」と、彼はくさつFarmers’ Marketを生産者や地域の人たちにとって、暮らしにあることで気持ちが豊かになるような、大切な居場所にしていきたいと話してくれた。温かい日常が地域に根をはって、そこから人々の豊かな暮らしが広がっていきますように。「一人ひとりが自分らしく健康に生きられる社会っていいな。そんな社会で、僕は生きたい」そう目を細める内田さんは、草津市から確かな一歩を踏みしめる。

PROFILE

内田修次さん

立命館宇治高等学校(京都府)卒業。ニュージーランドではマオリ族の農場でファームステイ、アメリカではマネジメントやヒューマンリレーションを学び約2年間の留学を経験。趣味としてバックパッカーで海外を旅し、現在は21カ国を巡った。くさつFarmers’ Marketでは、出店する農家へ訪れて、生産者の思いやこだわりを記事にして発信する「出店者訪問」にも熱心に取り組む。農家や地域と温かい関係を築き、みんなで育てていくファーマーズマーケットを目指す。

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