柵で仕切られた状態でプレイヤーはステージに立つ。試合の動きに一喜一憂するように、観客たちの歓声やどよめきが会場に溢れ返る。「装着されたヘッドホンからは大音量でゲームのBGMが流れているのに、それが歓声でかき消され、身体中に伝わってくるのがとても楽しかった」と、世界の舞台に立った末藤拓朗さんは、その時の感動を語ってくれた。彼は6月に行われた株式会社ポケモン(The Pokémon Company)が主催の「ポケモンジャパンチャンピオンシップス2019(以下、PJCS2019)」のゲーム部門で、考え抜いた戦術、分析し尽したパーティ構成に徹し、見事に世界大会「ポケモンワールドチャンピオンシップス2019(以下、PWCS2019)」進出を決めた。

趣味から踏み込んだeスポーツの世界

近年、市場規模が拡大し、大きな大会では賞金総額が100億円を超えるなど世界中で関心が高まっているeスポーツ※1。末藤さんは「試合の観戦は、プレーの様子しか見えないオンライン上と会場の雰囲気とでは全く違う。会場ではプレイヤー同士の緊張感が観客席まで伝わってくるうえ、一つのプレーで会場が歓声でいっぱいになる」と、その魅力を話した。彼にとって小さな頃からの趣味であったポケモンゲーム。それが“競技”として彼の心を突き動かしたのは、2014年のPWCSで優勝を飾った韓国のパク・セジュン選手の戦いだった。パク選手は戦闘には不向きと考えられるポケモンを使い、圧倒的な戦術とパーティ※2構成で優勝を勝ち取り、世界を驚かした。この瞬間を動画配信でみていた彼は、この姿に憧れを抱かずにはいられなかったという。これをきっかけに大学入学後、趣味であったゲームを“競技”として本格的に取り組み始めた。

※1「エレクトロニック・スポーツ」のことで、電子機器を用いてデジタルゲームを対象に競技を行うこと
※2キャラクターによるグループのこと

“準備が結果に繋がる”強豪相手に掴んだ世界への切符

PJCS2019の出場権を獲得するため行われた3度の予選大会では、延べ参加人数16万4千人のうち、各カテゴリ合計100人が本選へ進む。ゲーム部門は約800体のポケモンから6体を選び、ダブルスで行う対戦だ。1体につき使用できる4つの技を設定し、決まった数値のなかから攻撃力や防御力などの能力値を振り分け、オリジナルのパーティを組む。的確な能力値設定、相性の良いパーティ構成が勝ちきるための重要な鍵となる。「プレイヤーたちが頻繁に使うポケモンを分析し、有利なパーティ構成に徹しました。それでも対決で動かし方を工夫しなければ勝てません。流行を分析し、戦術を練ること、それに尽きます」と、勝つためには日々時間をかけた事前準備と深い考察が必要であると語る。彼は学生と社会人によるマスターカテゴリで、世界大会経験者などの強豪相手にベスト32まで勝ち残り、アメリカで開催される世界大会進出を決めた。「レベルの高い相手を前に、自分の動きが読まれている前提でさらに考察し、戦略的に進めた。日々積み重ねてきた力を出し切れたことが結果に繋がった」と笑顔をみせた。

世界一を目指して戦い続ける

8月に初出場を果たした世界大会は、レベルの高い相手を前に1日目で敗退という悔しい結果に終わった。まだまだ分析が浅く、力不足であったと振り返る。一方で、日本では開催されない世界大会の「感覚」を知る貴重な経験ができたと話す。「これから一戦一戦、高い集中力を維持し、対戦の質を上げていきたい」と意気込みをみせる。「同じ負け方はしない。この悔しさを忘れず、来年ロンドンで開催される世界大会では、世界一を目指し予選から戦っていく」と力強く宣言する彼の、世界への挑戦は始まったばかりだ。

PROFILE

末藤拓朗さん

北桑田高等学校(京都府)卒業。兄の影響で4歳からポケモンを始める。立命館大学ポケモンサークル「PTP」に所属し、大学外でも積極的に対戦会に参加し、同じ思いを持った人たちとの交流も楽しんでいる。立体的な絵をつくるハンドクラフト「シャドーボックス」の製作にも熱心で、デュエルマスターズグランプリでは作品を展示している。社会人になってもPJCSに出場し、世界一になることを目標にしている。

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