「相撲の魅力は、小さな選手が大きな選手に勝てること」と、体重65kgの小柄な体格の大久保 賢一さんは、笑顔で胸を張った。時には自分より倍以上の体重がある相手とも戦い、何度負けても諦めず、勝負を制しては観客を驚かせる。「僕を知らない人たちの『大きい選手が勝つ』という考えを覆せた瞬間が気持ち良い」と目を輝かせた。そんな彼にとって一年で唯一、体重別で戦える「第44回全国学生相撲個人体重別選手権大会」には特別な思いが込められていた。最も軽量の65kg未満級で悲願の全国優勝を果たした彼は、その喜びを語ってくれた。

身体が小さくても勝てる

大久保さんが相撲を始めたのは小学生の頃。相撲は身体の大きな選手が有利となるなか、当時から小柄であった彼は、大きな選手にはないスピードと相手の予想しない動きを生かし、人一倍“考える相撲”で戦ってきた。一般的に体重の軽い選手は、向かってくる相手をかわし、相手の力を利用する戦い方が多いが、彼は大きな相手にも“押し”でぶつかることにこだわった。小さな身体から発揮される力強いパワーは、相手の意表を突くという。「小学生の頃から、先生に『とにかく押せ!!』と言われ続けてきました。逃げずに立ち向かうことで“気持ちで負けない大切さ”を教えてもらいました」とほほえむ。立命館大学が所属する一部リーグでは、ほとんどの大会が無差別級で行われ、身体も大きく名の知れた強豪選手ばかりが相手となった。そうしたなか、昨年の「全国学生相撲選手権大会(以下、インカレ)」では150kg以上の相手に足取りを決め、ベスト32位までに入るなど結果を残してきた。「無差別級の試合に僕みたいな選手が出たら、観客たちから同情される。でも、そこで実力で勝って『やるな』と思わせたい」と力強く話す彼は、攻める相撲で戦い続けている。

※相撲の決まり手の一つ。両腕で相手の足を抱え、体重をかけて仰向けに倒すか土俵外へ運び出す技。

“僕は負けても腐らない”粘り強く立ち向かい掴んだ優勝

無差別級で戦う彼にとって、体重別の大会で同じ階級の選手と戦い、全国優勝することが高校生からの目標になっていた。「大きい選手より楽に勝てる」と周囲の期待とは裏腹に、軽量級の世界は甘くはない。他大学の軽量級の選手は、数少ない体重別の大会に懸け、同じ階級の選手同士で日々稽古を重ねている。片手で相手を止めたり、相手の下に潜り込んだりするなど、軽量級同士の選手に通用する技の引き出しが多いという。常に大きな選手と戦ってきた彼にとって「自分の知っている相撲が通用しない」と経験不足で敗退しては悔やんできた。部内に同じ階級の対戦相手はおらず、部員に軽量級を想定した動き方をお願いして、想像で練習をするしかない。「何度負けても、ここ一番で勝つために悔しがっている暇はない。正面から戦う“自分の相撲”で勝負し続けよう」と、持ち前のパワーと強固な意志で「西日本学生相撲個人体重別選手権大会」に3位で入賞。東西ベスト8までが出場できる体重別の全国大会で念願の優勝を掴んだ瞬間は、皆の期待に応えられた安堵に包まれたという。

自分の信念を貫き戦い続ける

テレビ番組の収録で大相撲力士の貴景勝関と話す機会があったという。「貴景勝関も身体が大きくないのにとても強い力士。小さくても勝てる秘訣は何ですか?と聞いたら、貴景勝関が『身体が小さくても、前に出て攻めることが大切』と答えた瞬間、“僕の相撲は間違っていなかったんだ”と思いました」そう嬉しそうに話してくれた。11月に行われるインカレ団体戦は、4回生と共に戦う最後の試合になる。彼はチームで勝利を掴むため、自分を信じ、無差別級の戦いに力強くぶつかっていく。

PROFILE

大久保 賢一さん

京都市立日吉ヶ丘高校出身。今でも身体を大きくすることは諦めていないが、かなりの小食で、常に体重増量には苦労している。相撲を始めて人生が180度変わったこの経験を生かし、卒業後は小学校教師となって、相撲を一つのきっかけとして子どもたちに大切なものを教えていくことが目標。

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