「チーム力を感じた試合でした。一人がミスをしても仲間で支え合えたことが、優勝に繋がりました」と、女子弓道部主将の生田順子さんは笑顔をみせた。「チームが目指すものをきちんと指し示せば、周りはしっかりついてきてくれる」という思いで大切なことに向き合いながら、唯一の上級生としてチームの先頭に立ち「第67回全日本学生弓道選手権大会(以下、インカレ)」で果たした団体優勝。5年ぶりに「日本学生弓道女子王座決定戦(以下、王座)」への出場を決めた。

主将が背負う責任感

毎年1月に京都「蓮華王院 三十三間堂」で行われ、袴姿で弓を引く「通し矢」に憧れて高校生の頃に弓道を始めた生田さん。「弓道は、身体の使い方が一つ違うだけで一矢ごとに動きが生まれます。弓の力を矢にのせ、いかに“素直に引く”ことができるか、それをどこまでも追求できる魅力があります」と語ってくれた。大学4回生になり、女子部員は彼女と1、2回生の全員で8人。同級生と3回生には部員がいないため、団体戦は下級生とチームを組んだ。主将であり唯一の上級生として「後輩たちと壁を作らず、会話を大切にしよう」と、チーム力を上げるために自主練習から積極的に話しかけ、後輩たちの指導に力を入れる。円陣ではいつも仲間の調子を確認し合い、みなが同じ目標に進めるよう、彼女は「全国優勝」というチーム目標を共有し続けた。

※「蓮華王院本堂 三十三間堂」で毎年1月に行われる行事「大的大会」のこと。弓道初段以上でその年の新成人が参加できる。

挑戦者として挑み、全国優勝を飾る

大学での経験が浅い下級生と組むチームは、全員が不安を抱いた状態であった。8月に行われたインカレでは「挑戦者として、自分たちの力でいけるところまでいこう」という気持ちで出場。女子団体戦は2日間のうち1日目が台風の影響で中止になり、2日目に予選から決勝トーナメントまでを行った。予選から何度も延長戦を繰り返しながら、苦しい戦いを制して決勝戦まで勝ち進んだ。プレッシャーのかかる延長戦は精神をすり減らしていくが、「弓を引く本数」が増えることは、緊張感でこわばった彼女たちの身体を慣れさせていく。「練習では『試合でどんな弓を引きたいのか』を考え、試合では『練習でどんな弓を引いていたのか』を考えながら日々取り組むことが、どんな場面でも“いつもの矢”を射ることに繋がります」、そう力強く話す彼女を含め、全員が決勝戦には練習通りの感覚を取り戻していった。

「弓道は団体戦でありながら、弓を引くときは自分との戦いがチームの結果になる。そこで気持ちが負けてしまったら、勝負も決まってしまう」と、一人ひとりの悪い雰囲気は驚くほど連鎖する。一方で、弓に込められた力強い意志も仲間へ繋がっていくという。初戦ではみなが不安を抱いていたが、下級生たちは強気で頼もしかった。全員が練習通りに力を発揮することで生まれた“チーム力”によって掴んだ全国優勝。11月に行われる王座への切符を勝ち取った。

4年間の集大成を胸に王座へ

先輩たちが果たせなかったインカレ優勝に喜びを噛みしめながら、9月~10月にかけて行われたリーグ戦ではチームで成長を繰り返してきた。「王座に向けて今の力をさらに伸ばし、チームが一番調子の良い状態で挑むことで、練習以上の結果を出したい」と意気込む。「主将に任命され、今まで苦労続きでした。それでも、こうして結果が残せると楽しいし、やっぱり、続けてきて良かった」そう晴れやかな笑顔で、彼女は団体弓道最後の戦いへスパートをかける。

PROFILE

生田 順子さん

岐阜県立多治見高等学校卒業。世界最小の1000ピースのジグソーパズルを組み立てることや、ミュージカル女優になった友人の影響で観劇が趣味。最近は東京で開催された「ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812」を舞台エリアの席で観劇し、その迫力に感動した。20歳の頃に経験した通し矢は寒さで手が動かず、華やかな姿の裏にある過酷さを実感。リーグ戦の個人的中の成績上位10人が出られる「女子東西学生弓道選抜対抗試合」の出場が決定しており、大学弓道最後の試合に向けても全力を尽している。

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