「『素晴らしい人生とは、生きる理由を持っていることだ』ムヒカさんの言葉に、私の人生観が大きく変わりました」そう話すのは、“世界で最も貧しい大統領”と言われたウルグアイのホセ・ムヒカ元大統領(※1)との対談経験を語る岩本心さん。元大統領から受け取った言葉の数々を日本の人々へ伝えるため、2020年10月、立命館大学国際平和ミュージアムでミニ企画展示「世界一貧しい元大統領から学ぶ“本当の豊かさ”」を開催した。人生を変えた元大統領との出会いと、この企画に込めた思い、そして、彼女が目指す大きな夢を語ってくれた。

(※1) 2010~15年の間、南米ウルグアイで第40代大統領に就任。貧困層の根絶を目指した政治政策や、収入のほとんどを寄付し質素な生活を続けたことなどから、敬意を込めて「世界で最も貧しい大統領」と呼ばれている。

ムヒカ元大統領を訪ねたウルグアイの旅

2018年8月、彼女がメキシコで語学留学をしていたときのこと。「友人との会話でムヒカさんの存在を知り、2012年に行われたリオ+20(※2)での代表的なスピーチ動画をみました。消費至上主義による環境破壊を訴えた彼の言葉が胸に響いたのを覚えています」と目を輝かせる。ムヒカ元大統領に一瞬にして心を奪われた彼女は、以来、彼の活動や価値観、その人生に夢中になっていったという。「ムヒカさんに会いたい」という強い思いが彼女を突き動かし、2019年7月にはウルグアイを訪れたのだった。
「簡単に会えるわけがないと半ば諦めていましたが、現地でバス停の近くにいた女性に尋ねてみると『ぺぺ(※3)の家に行きたいのね!』と快く対応してくれ、周囲にいた見ず知らずの人たちまで協力してくれたのです。ムヒカさんがいかに国民と親しい関係を築き、愛されてきたのかを知り、驚きを隠せませんでした」と、当時の心境を語る。

突然、日本からやって来た彼女をムヒカ元大統領は温かく家に迎え入れ、夢にまで見た対談が実現。大統領の頃の目標や日本人に対する考えなど、温めていた思いを一つひとつ質問していった。当時、彼女の周りは4回生となり就職活動をしていた時期というのもあり、彼女自身も就職に関して不安や疑問を抱いていたという。「そんな私に、彼は『学校は就職するために行く場所ではない。“生きる理由”を見つける場所だよ。自分が本当にやりたいこと、進みたい道を決めるのが大学なんじゃないかな』と言いました」。将来の不安に囚われるのではなく「自分の進むべき道を、限られた大学生活のなかで精一杯模索すべきだ」と、決意を固めた瞬間だった。

(※2)2012年、ブラジルのリオデジャネイロで行われた「国連持続可能な開発会議」の通称
(※3)南米で「ホセ」という苗字を持つ人に付けられる愛称

人生を見つめ直すきっかけを。思いを詰め込んだ企画展示

「立命館大学国際平和ミュージアムでの企画展示では、私の体験談やムヒカさんの生き方、考えに触れてもらえるように工夫しました。絵本『世界一貧しい大統領のスピーチ』の著者・中川学さんからお借りした原画を展示したり、日本の新聞記事や書物のなかから彼の言葉を抜粋したりしました」と企画展示の様子を話す。準備にあたって、ムヒカ元大統領と関わりを持つテレビ監督やさまざまな人物を訪ねて回り、協力を得られたことで、本や絵本の原画、写真、サインなど貴重な資料で溢れた企画展示が実現した。
「ここでは『あなたの幸せや豊かさの価値観を変えてほしい』とは思っていません。十分すぎるほど物に恵まれ便利な日本社会ですが、これまで日本が築いてきた“豊かさ”の価値観を今一度見直し、今までの人生を顧みるきっかけにほしいのです」と思いを語った。

「私にとっての生きる理由は、“夢を追いかける”こと」

企画展示をきっかけに、地域の中学校や高校から「生徒たちが国際理解や生きる理由について考える場を作ってほしい」と、講演を依頼されるようになった。さらに12月には和歌山県でエシカルマルシェを現地の人たちと共催し、2021年1月には東京のブックハウスカフェでの企画を控えるなど、新たな活動の場が広がっている。

そんな彼女の大きな夢は、将来、国際協力や環境問題解決に貢献すること。卒業後は語学留学や大学院進学を視野に入れ、夢に向かって歩みを進める。「彼はいつも言います。『人生で一番大切なのは、成功することではなく、歩み続けること』だと。世界の国際・環境問題を自分事として捉え、彼が教えてくれた“本当の幸せ”のために歩んでいきたい」と晴々とした笑顔をみせる彼女は、これからも確かな夢に向かって前進する。

PROFILE

岩本 心さん

帝京第五高等学校(愛媛県)出身。8歳までメキシコで生まれ育つ。企画展示を開催した立命館大学国際平和ミュージアムはお気に入りの場所で、1回生の頃から通っていた。田中聡教授のゼミに所属。趣味は、写真撮影やドキュメンタリー映画の鑑賞、そして何よりも旅をすること。休学中はバックパック一つで世界中を旅し、国際理解を深めるため奴隷貿易で栄えた土地や貧困地域の国を巡った。

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