「剣道は、相手に対し敬意を払い、感謝を持って臨む競技。そこに剣道の美しさや魅力を感じます」そう語るのは、体育会剣道部の安藤千真さん。2021年3月14日に行われた「第68回全日本剣道選手権大会」で、剣道部の現役男子部員で初の個人戦出場を果たし、全国屈指の実力者を相手にベスト8という結果を残した。コロナ禍でも毎日の自主練習を欠かさず、己の剣道を追求した安藤さんに、これまでの歩みを聞いた。

「とにかく強い相手に勝ちたくて練習に励みました」。父親の影響で4歳から剣道をはじめ、小学校時代は、父親と公園で朝練をすることが日課。「中学校時代は人生で一番努力しましたが、怪我の影響で思うような結果が出ず、苦しい時期でした。しかし、今振り返ると内面的に未熟な部分があったと思います」と語る。中学卒業後は地元を離れ、九州の強豪校で寮生活を送った。「高校では、“とにかく考えて練習に取り組むこと”、“周囲の人へ感謝すること”を深く学びました」。寮生活を通して周囲に対する感謝を意識するなかで、剣道との向き合い方にも変化が生じてきたという。時間さえあれば剣道のことを考えるようになり、具体的な目標を設定し、練習に打ち込む毎日を送った。

大学に進学すると、高校時代の実績から1回生で大会に出場するメンバーに選ばれたものの、周囲の期待に応えようと自分を追い込んだことで、力が発揮できない状況に陥ってしまった。転機が訪れたのは、当時の4回生の最後の試合だった。最終試合で敗れた後、主将が号泣しながら歩み寄り「輝かせてあげられずごめん。期待しているから頑張ってくれ」と言葉をかけてくれた。「その言葉で迷いが吹っ切れました。やらなきゃいけない、そう思いました」それからは、誰よりも早く道場に行き、誰よりも多く竹刀を振ることを心掛け、練習に打ち込んだ。

コロナ禍で

そうしたなか、感染症拡大防止による活動の自粛、大会の中止が決まった。落ち込んだこともあったが、自主練習を欠かすことはなかった。「『常に芯をもって練習をしなさい』という父の教えから『強くなりたい』という思いを胸に、自主練習に打ち込みました」。その一方で、一人で練習することの限界も感じた。「一緒に練習をする相手がいてくれるからこそ、自分の欠点がわかり、新たな学びがあります。当たり前ですが、周囲の人がいて、自分が成り立っているのだと改めて気づくことができました」と自粛期間を振り返る。

活動自粛が明けて全体練習が再開されたが、体のキレを失うことなく自粛期間を過ごせたことで、自分のプレースタイルに磨きをかけ、長所であるスピードを生かしつつ、緩急をつけて戦うスタイルを確立していった。年が明け、1月に行われた「第68回全日本剣道選手権大会愛知予選会」では、1日7試合を戦うという過酷なスケジュールのなか、持ち味を生かして勝ち進んだ。全日本への出場権を賭けた大一番の試合では、同じ道場の憧れの先輩に勝利し、見事に切符を勝ち取った。

初の大舞台で

迎えた「第68回全日本剣道選手権大会」。試合前日から続く緊張のなか、冷静に相手の技を見極めながら、得意技を的確に出すことでリズムを掴み、初戦を突破した。その後厳しい戦いが続いたが、緊張がほぐれたことで余裕ができ、得意技を積極的に繰り出した。順調に勝ち進み、結果はベスト8。「途中で負けたことは悔しいですが、トップレベルの選手と戦えたことは貴重な経験になり、自信につながりました」と笑顔で振り返った。

一戦一戦にこだわって

現在は、4月下旬に行われる大会に向け、日々練習に打ち込んでいる。「大会に臨むときは、常に初戦を大事にしています。一つ一つの試合にこだわり、目の前の相手を倒すことで、その先にある全国優勝を目指していきます」と力強く語った。さらなる高みに向け、剣道の技術だけではなく、自らの人間性も高めていく。そんな安藤さんの今後の活躍に目が離せない。

PROFILE

安藤千真さん

龍谷高等学校(佐賀県)卒業。4歳から剣道を始め、小学生時に全国大会優勝、都道府県大会愛知県代表に選出される。高校では国体4位、九州大会個人優勝などの成績を収める。2021年、現役男子部員初の全日本剣道選手権大会出場を勝ち取り、ベスト8・優秀選手賞に輝く。岡田桂ゼミに所属し、武道とスポーツの競技性における国際的な差異に関して研究を進める予定。稽古の合間のリフレッシュは、カラオケと筋トレ。

最近の記事