今、循環型社会の形成に向け「ストック型社会」という概念が注目されている。ここでいうストックとは、社会に蓄積している社会資本や耐久財などのことであり、ストック型社会とは、使用価値や使用効率が高いストックを生産、長期間活用するとともに、使用価値や使用効率が低いストックを適切に再生利用、または処理していくような社会のことである。つまり、大量生産・大量廃棄の「フロー型社会」から転換し、限りある資源を効率的に活用する社会のことをいう。このような社会に向かうためには、社会に蓄積されている資源量(蓄積物質量)を把握するとともにその使用価値や使用効率を計測する指標が必要となる。その指標がない点に課題を感じた八柳さんは、以前から下水道、道路、鉄道などの指標を作成してきた。今回は対象を住宅へ広げ、住宅が持つ機能と蓄積物質量に着目し、住宅の蓄積物質使用効率を測定する指標を提案。住宅への蓄積物質量を定量化するとともに、蓄積物質使用効率が減少傾向にあることを示した。つまり、提案した指標に基づくと、ストック型社会から遠ざかっていることを示唆する結果を得た。その減少の要因は主に1人、2人暮らしの増加による住宅の共有状況の変化であるという結果を発表した八柳さんは、見事、日本LCA学会ポスター部門で優秀賞を獲得した。

昨年もLCA学会の口頭およびポスター発表にチャレンジしていた八柳さんの研究は、新分野ということで注目度も高かった。しかし、聴衆の心に届く発表ができずに悔しい結果に終わった。「質疑応答でも質問がほとんど出ないほど、会場が静まりかえってしまって…。一番大事なのは簡潔かつ的確な説明力。さまざまな分野の人たちに研究内容を理解してもらう難しさを改めて感じ、自分の未熟さを痛感しました」

「伝えたいメッセージがあるから発表する。でも昨年と同じ結果にしたくない」という思いで、今回はポスター発表にエントリーにした八柳さん。前回の発表での苦い経験を生かして、どうしたら興味を持ってもらえるか、理解してもらえるかを再検討した。「まずは目にとまりやすいように家型のポスターにしました。そして聞き手との“間のコミュニケーション”を大事にして説明したんです。今回の受賞ポイントはそのような工夫が評価されたのかなと思います」と照れ笑いしながらその成功を振り返った。

チームワークのよい研究室の仲間から得た、
新たな気づきを参考に

一進一退の研究で、時にはくじけそうになったときもあったが、同じ研究室の仲間との意見交換は大きな糧になったという。「研究は一人でもできるものですが、一人だとシステム的思考を見失うときがあります。違う視点からの仲間の意見を柔軟に吸収すると、部分的な改善策だけでなく全体がうまくいく解決策に気づくこともあります」。違う視点からの意見を聞くことは、研究の問題点や自身に不足している知識を再確認できるという。また、さまざまな分野の方と交わす質疑応答時の参考になり、想定問答の準備にも繋がるのだろう。「私の研究はまだトライアルな感じです。これからさらに発展させて、次は口頭発表でいろいろな分野の聴衆を魅了したいです」と今後の抱負を語ってくれた。

PROFILE

八柳有紗さん

北海道札幌北高等学校(北海道)卒業。高校時に実施されたごみ袋有料化をきっかけに環境問題に興味を持つ。現在は橋本征二教授の循環型社会研究室に所属。環境NGO(環境市民)へのインターンやノルウェーへ研究留学を経験。将来は建設コンサルタント業界で活躍し、社会の課題を解決したいと考える。

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