スイム(水泳)、バイク(自転車)、ラン(長距離走)、3種目を連続してこなす過酷な競技“トライアスロン”。「3種目もあるため、レースでは最後まで何が起こるか分かりません。トライアスロンは、私たち選手自身も、観戦している人も最後までわくわくできるスポーツです」と魅力を語るのは、白石怜佳さん。競技歴わずか2年で頭角を現し、今年開催される世界大会では日本代表として世界へ挑む。トライアスロンの楽しさと厳しさに直面しながらも、日々競技に磨きをかける彼女に迫った。

レースに挑む覚悟

「スイム・バイク・ランから一つの競技に絞れなくて、全部できたのがトライアスロンでした」。中学生の頃から水泳部に所属しながら、冬には駅伝に出場、さらに社会人のバイクチームで練習を重ね、3つの競技に魅力を見出してきた。そして高校3年生では、念願だったトライアスロンの大会に初出場。しかし、レース途中でバイクのチェーンが外れてしまい、思わず困惑したという。「自分で直すことができず、近くにいた審判に手伝ってもらったのです。トライアスロンでは、バイクのチェーン外れやタイヤのパンクに迅速に対応できる知識・技術を選手が身に付けているのが当たり前。スイムからバイクに変わる『トランジション※1』でもレースに大きな差が生まれます。私はまだトライアスロンのことを何も分かっておらず、レースに挑む覚悟や準備が足りていなかった。自分の情けなさを実感しました」。この経験が、「大学で真剣にトライアスロンと向き合いたい」という彼女の意思を固めた。

大学入学後はトライアスロン部に入部。厳しい練習と向き合いながらも、3種目を極めていく楽しさを噛み締めた。2回生で迎えた「ワールドトライアスロンシリーズ横浜大会・スタンダート種目」において女子2位を飾り、大舞台で初めての表彰台を勝ち獲るほどに成長を遂げた。

※1 スイムからバイク、バイクからランに移るときに、ウエアやシューズなどを換えること。「第4の種目」と言われるほど重要なパートでもある。

競技の厳しさを一つずつ乗り越えて

大舞台での活躍を振り返り、彼女が語ったのはレースに勝った喜びではなく、トライアスロン競技における自らの課題だった。「横浜大会での結果は、嬉しい気持ちもありましたが、以前から課題だったバイクレースでの弱さを改めて痛感した大会でした。この大会ではルール上、『ドラフティング※2』が禁止されており、それまでの学生大会で相手選手の後ろを走行しながらレース戦略を立てていた私には、一人で漕ぎ続ける走力が足りていませんでした」。競技2年目に励むなかで、自身の弱みが浮き彫りとなった。
その後のバイク練習では、男子の速い選手に食らいつき、速く長く漕ぎ続ける練習を重ねた。当初はすぐに離されていたものの、次第に付いていく距離を伸ばしていった。スイムやランで数多くの本数をこなす際も、大会記録のタイムを想定したハードルを自らに課し、地道な努力で着実に力を蓄えていった。

そして10月、インカレの近畿予選を1位通過した後、本大会ではレベルの高いレース展開にも粘りのレースで4位に入賞。立命館大学で女子最高記録を飾るとともに、「FISUワールドユニバーシティゲームズ(旧名称:ユニバーシアード競技大会)」の日本代表に選出された。さらに12月には「第18回日本デュアスロン選手権」で4位入賞を果たし、学生1位という結果でU23日本代表に内定。次々と世界への挑戦権を掴んだ。「日本デュアスロン選手権では、経験と技術が必要なカーブが多いコース展開で、トップ選手に付いていくのが精一杯でした。大きな大会に出るほど、長年の経験者が揃い、みんなトライアスロンのことをよく知っている。私は経験が浅いため、コースの位置取りや駆け引きの技術・知識が不足していることをレースに出る度に痛感します。まだまだこれからです」。トライアスロンを極めようとするほど、目の前に現れる高い壁に対峙してもなお、その先の頂を目指す強い決意をみせた。

※2 バイクレースで空気抵抗を抑えるため、前の競技者の後ろについて走行するテクニックの一つ。

世界への挑戦

今年6月にルーマニアで開催される「2022年ワールドトライアスロン選手権U23」、9月の「ユニバーシアード競技大会」では日本代表として出場する。「ユニバーシアードで自分の力を発揮することが今の大きな目標です。初めての海外レースを楽しみながら、世界のレベルを肌で感じ、次につながる意義のあるレースにしていきます」。世界大会に向けて意気込みを語った。「トライアスロンは、最終盤まで何が起こるか分からない。だからこそ、最後まで諦めなければ逆転できるチャンスがあります。ゴールするその瞬間まで、高い精神力を持って、全力を尽くしていきたい」。確かな経験と信念を積み重ね、次なる挑戦は世界へ。躍進を続ける彼女から目が離せない。

PROFILE

白石怜佳さん

中学生の頃は水泳部に所属し、冬には駅伝に参加。3年生から社会人のバイクチームで練習をスタート。高校では冬の駅伝の練習に加え、陸上部の朝練にも毎日参加していた。プールよりも海でのスイムが得意。何事もポジティブ思考。食べることが好きで、ロードバイクで飲食店巡りを楽しむ。部員と一緒に草津市から信楽や京都を巡ったことも。


<2021年度の主な競技成績>
5月 ワールドトライアスロンシリーズ横浜大会・スタンダード種目女子の部 2位
10月 近畿学生トライアスロン連合インカレ選考特別大会・女子個人の部 1位
10月 2021年日本学生トライアスロン選手権渡良瀬大会・女子個人の部 4位
12月 第18回日本デュアスロン選手権 4位

最近の記事