さまざまなテナントが集まる複合商業施設は、目的をもった来訪者を目的外のテナントにも興味・関心を向けさせて立ち寄らせることで、施設全体の利益向上を狙っている。しかし目的外のテナントへ誘導させることは決して簡単ではなく、特に子ども連れの場合はゆっくり周遊することも難しい。それは大人と子どもとの間の興味・関心のズレや、大人が子どもへの対応が必要となるため時間的・精神的余裕がなくなってしまうからだ。つまり、目的外のテナントに誘導するためには、テナントに立ち寄ることで発生する時間や移動のコストに対し、テナントに対する興味が上回る必要があるという。このような問題の解決のため施設全体を盛り上げられる参加型イベントを開催できないかと、グランフロント大阪から企画提案の依頼をうけ、考案されたのがスマホを使用した「宝さがしゲーム」だ。

以前、小型電波発信器のBluetooth Low Energy発信機(以下:ビーコン)を用いた論文を発表していた若尾さん。最終的には、遠回りを誘導して歩数を増やすことで、健康について考えてもらうアプリ開発に成功している。「今回の企画では、テナントに隠れている宝物を探してもらうゲームを提案しました。周遊を促していろんなテナントに立ち寄るのにビーコンが活用できるのではないかと。3回生の時にビーコンを使用したアイデアを100個考え、1日10個ずつ発表したことがアイデア出しに活きたかもしれません。今思えばいい思い出です」


スマホとビーコンによる位置情報システムを利用して、宝箱に近づくと音とバイブレーションで通知する仕組みにし、「近くにあるなら見つけたい」という気持ちを喚起させた。また、宝箱にスマホをかざして宝物を獲得してもらい、宝物は得点によって金・銀・銅のメダルとしてスマホに表示させた。まだ見つけていない宝物は宝箱として表示されており、宝箱をタッチするとヒントが出るが、ヒントを見ると得点が下がりメダルの色が変化する仕組みとなっている。全メダルを獲得したいという達成感と得点の高い景品を目指したいという欲求心を利用し、“多くの宝箱へ誘導させる=目的外のテナントへ足を運んでもらう”ことを最終目標とした。

3回の実証実験の結果、子どもが楽しみながらゲームを進めていく過程で、同行した大人たちを目的外のテナントに多く誘導できたという。子どもと大人との気持ちのズレもなく、施設に長時間滞在する結果となり、来訪者からは子どもがイライラせずに買い物に付き合ってくれて楽しく買い物ができたという声も聞けた。

「もともと、情報系はあまり得意ではないんです」と人の気持ちに重点を置いた研究が好きな若尾さん。アンケート結果からは、夫婦や恋人間でも買い物に対する気持ちのズレが生じていることもわかり、さらに面白みを感じたという。今後も、来訪者にどんな状況でどのような気持ちの変化があるか、同伴者との気持ちの違いがあるかなどのデータを蓄積していく予定だ。さまざまな切り口から自ら課題を見つけ、解決していきたいという若尾さん。「来訪者のスマホから滞在時間やショッピングの経路などを取得し、その時のグループの様子を推定することで、次の行動を提案するようなアプローチも考えています。そして実際にショッピング時に使用できるサービスの提案に繋げていけたらいいなと考えています」

PROFILE

若尾あすかさん

富山県立富山高等学校(富山県)卒業。学部4回生まで体育会ボート部のマネージャーを務めた。
Media Experience Design研究室では仲間と積極的に話し合いコミュニケーションを大切にすることを心がけ研究している。

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