「五感で世界を読み解く展示」をコンセプトとし、滋賀県にある琵琶湖博物館がこの夏リニューアルする。そのリニューアルを機に披露する、館内にあるトンネル水槽における水中放送に関する技術研究・装置開発を実施したのが相澤さん、河合さん、上田さんの3人を中心とした理工学部無線信号処理研究室だ。彼らは、水中音に混入する雑音成分を除去する技術を開発し、リアルタイム動作が可能なPCプラットフォームを構築した。この装置を設置することで、水中の魚も聞いているリアルな水中音を再現し、来場者に水槽の外で視覚に加え、聴覚でも水中を体験してもらうことができるようになった。

研究室の主要テーマである水中音響通信のフィールド試験場所に、琵琶湖博物館の駐車場横の浅瀬が有効地ではないかと目をつけた相澤さんが、琵琶湖博物館にコンタクトしたのが共同研究の始まったきっかけだ。その後、河合さんが懸け橋となり研究テーマの検討、議論を重ねてきた。「人工的な合成音を流している館内のBGMをよりリアルな音にできないか」という学芸員さんの意見を聞き、この水中音響通信の技術を提案したという。

検討、議論を重ねる中、研究内容を伝え、理解してもらうことにいちばん苦戦したと振り返る3人。「私たちと博物館、ともに技術発展していきたいという気持ちを随時伝えました。今回の経験で交渉力、伝達力が身に付きました」という河合さん。一方上田さんは、雑音除去技術を実装するPCプラットフォームの構築に携わった。「できるかどうか不安はありましたが、綿密に事前計画を練ることで不安を払拭することができました」と成功の秘訣を語ってくれた。

よりリアルな水中の魅力を表現した彼ら。「来場者には、視覚だけでなく聴覚も研ぎ澄まして五感で水族館を楽しみ、新たな発見をしてもらえたら嬉しいです。またこの装置を他の水族館でも導入できたらもっと嬉しいですね」と口を揃えていう。今後も水中音の性質を調査し続け改善していくことにより、音質がよりクリアになるなど、この装置はさらに発展していく可能性を秘めている。

大学院に進学し、大きく成長

「このような貴重な体験ができたのは、協力してくださったみなさんのおかげだと思っています」と彼らは関係者に感謝の意を表する。相澤さんは「この研究室の環境、研究にとても魅力があり、ものづくりのプロセスを一貫して体験でき、学んだ知識や技術を形にすることができました」という。「学部で学んだことを礎に、大学院では幅広い視野と応用力・判断力を養うことができた」と今回の経験と大学院での成長について実感している3人。また、自分が携わってきた研究を誇りにも感じており、「長時間費やしてきた自分たちの研究を後輩に引き継ぎ、今後さらにブラッシュアップしてもらえることを期待しています」と笑顔で語ってくれた。

PROFILE

相澤 大さん

奈良県立平城高等学校(奈良県)卒業。 水中で音波を用いた無線通信を行う研究をしている。 サッカーが趣味で、現在も社会人サッカー部に所属し、DFで活躍中。

河合渉平さん

愛知県立高蔵寺高等学校(愛知県)卒業。 小学校から高校まではサッカー部に所属し、汗を流す。大学時代は生協学生委員会に所属。海外旅行が趣味で、今までに10カ国以上を旅している。

上田俊一さん

兵庫県立西宮高等学校(兵庫県)卒業。 中学、高校では吹奏楽部に所属し、サックスを担当。学部時代はロボット技術研究会に所属。プログラムを作成し、自分の思い通りに動くことにやりがいを感じている。

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