週末の立命館宇治高等学校(以下:宇治高)野球部のグランドで、選手と一緒に白球を追う大学院生の姿がある。学生コーチをしている金城さんだ。彼は、「将来高校教員になり選手と一緒に甲子園に出場したい」という夢に向かい、文学部で心理学を学んだ後、スポーツに関する専門的な知識を学べるスポーツ健康科学研究科(以下:スポ研)に進学した。

金城さんの文学部心理学専攻での卒業論文のテーマは「野球選手のピンチの捉え方とその対応策」。現在は、「バッテリー間での意思疎通」をテーマに研究を進め、週末には母校である宇治高で、練習や試合風景を撮影した動画を選手と一緒に見て「この場面ではどういう気持ちだったのか」など振り返りながらバッテリー間の心理について調査を行っている。このつながりが縁で、投手経験を生かしてバッテリーの指導なども実施、今年の4月から正式に学生コーチになった。

選手としては大成できなかったが、人一倍練習に取り組む姿勢

高校受験で、当時の金城さんには難易度の高かった宇治高への進学を希望したのは、甲子園を目指している野球部があるから。「宇治高以外の高校で野球をするのは自分にとって意味がないと考え、全力を尽くして勉強しました」。受験前の半年間は一日の大半を勉強に費やし、見事合格したときは、支えてくれていた母親と喜びを分かち合ったという。

高校入学後はメンバー入りできず悔しい思いばかりしていたが、練習を怠ることはなかったと振り返る。「毎日ひたすら走ったりボールを投げたりしていました。がむしゃらに取り組めば何か得られるのではないかと漠然と思っていましたね」と苦笑いしつつ、こう続ける。「くじけずに野球を続けられたのは、チームメイトがいたからはもちろん、『甲子園出場、そして勝利』というチームの明確な目標があり、自分もその中心として貢献したいと思ったからです」。そんな中、頑張っている姿が周りに認められたと思える瞬間もあったという。それは第82回選抜高等学校野球大会へ出場した際、メンバー入りはできなかったが、入場行進時にプラカードを持つ担当として選ばれたことだ。「練習が報われたというか、やってきたことは間違いではなかったのかもしれないと思いました」

社会人チームでの経験は人生の転機

大学入学後は、大阪府の社会人チームで野球を続けた。高校時は出場機会を勝ちとることができなかったため、少しでも実戦経験を積みたいと考え選んだ道だったが、この経験が彼を大きく成長させた。「チームメイトから何の為の練習か、チームや相手チームがどう考えているかなど、今までとは違う野球の戦術や取り組む姿勢を教えてもらいました。この4年間でたくさんの人と出会い、自らの野球観を大きく変えることができました」

そこでの経験を踏まえ、もっと専門的な勉強したい、また将来指導者を目指す自分のためになるのではと考えスポ研に進学。今は文学部とスポ研で学んだこと生かし「この練習にはこのような意味があるからそこを意識して取り組みなさい」と論理的に指導している。技術的な練習だけでなく、心理面、学食や食堂での食事の選び方などもアドバイスし、今までとは違う切り口からのサポートで選手ともよい関係が築けているという。

甲子園への挑戦

「スポ研で学んでいる知見をまだまだ指導現場で生かされていないのが現実です。大きく成長できる可能性を秘めた選手のために、科学的な知見を生かした合理的で効果的な指導を実践していきたい。その中で、全ての選手に何事も考えて取り組むことの重要性や、人との出会いや仲間の大切さも伝えていきたい」と話す金城さん。その瞳の先には、教員となり生徒たちと一緒に甲子園の地に立つ未来の彼の姿があった。

PROFILE

金城岳野さん

立命館宇治高等学校(京都府)卒業。小学校のときから野球を始め、中学では地元大阪のボーイズチームに所属。高校でピッチャーに転向し、大学の4年間は社会人チーム(泉州大阪野球団)でピッチャーとして活躍。 中学のときの教育実習生から刺激を受け、教員を目指す。スポ研では専門のコーチングや心理学だけでなく、生理学や体育学も学ぶ。
現在は岡本直輝教授の研究室に所属し「野球選手を対象とした試合映像を用いたミーティング法の検討」をテーマに研究を行っている。

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