血液を固まりにくくし、抗凝固薬として古くから用いられてきた薬ワルファリン。そのワルファリンは、用量設定を誤ると出血を起こしてしまうため、細心の注意を払う必要があった。また、他の薬剤や食物との相互作用を起こしやすいのも難点とされていた。そこで開発されたのがワルファリンと作用メカニズムの違うアピキサバン。ワルファリンに比べ、すばやく安定した効果が期待できる。また、食事の影響を受けにくく、薬物相互作用の心配もそれほどない。したがって、ワルファリンのようにこまめに血液凝固能を検査する必要がない。このようなメリットから、抗凝固療法における新たな選択肢として期待されている。しかし、ワルファリンにくらべ使いやすい薬剤とはいえ、薬効や出血症状を反映する指標の確立が切望されているという。そこに着目したのが冨塚さんたちだ。

アピキサバンを内服している患者を対象として研究を進め、アピキサバンの血中濃度と日常診療で測定された血液凝固検査項目や第Xa因子(アピキサバンの作用メカニズムに関係する血液凝固因子)の活性との関係について数理モデルを用いて解析。その結果、アピキサバンを服用する患者では、アピキサバン濃度と第Xa因子活性の関係を示すプロファイルが日常診療で測定された血液凝固検査値とは異なり、大きな個体差が認められ、この要因について今後詳細に解明していく必要があることが分かった。

先日行われた「日本薬学会 医療薬学フォーラム2016/第24回クリニカルファーマシーシンポジウム」でこの研究内容を発表。一般演題(ポスター発表)267演題中、優秀ポスター賞審査に177演題がエントリーし、うち5演題に与えられる優秀ポスター賞を受賞した。

受賞発表当日は薬剤師国家試験の模擬試験と重なり参加できなかったが、スタッフとしてその場に居合わせた後輩が受賞の連絡をくれたという。「連絡をもらったときはあまり実感がなかったですが、薬学部のHPでも掲載していただき、後からどんどん実感が沸いてきました」と目を輝かせながら受賞の喜びを話してくれた。

初の学会での初受賞は大きな励みに

先輩から引き継いだ研究で、冨塚さんが携わり3年が経過。発表に必要なデータも収集でき、先生から学会参加を薦められ準備してきたが、冨塚さんにとって初めての学会発表ということもあり、不安でいっぱいだったと振り返る。「もともと私は話すのが苦手だったので、進行速度や説明内容・手順について研究室のみんなに聞いてもらい、発表の伝達度を上げることに尽力しました」。またこの研究は、日々数字とのにらみ合いで、時には嫌気がさすこともあるが、そんな時は、研究室のみんなからパワーとやる気をもらい乗り切ったという。「周りのみんなの頑張りをみて、『自分も頑張らないと』と感化され、大学に入ってから前向きな性格になりました。大学での生活は、学びの可能性もひろがり、研究と向き合える環境があり、私を大きく成長させてくれました」。周囲のサポートを自分の力に変え、大きく成長した冨塚さん。患者さんに寄り添う薬剤師を目指し、春からは関東で活躍する予定だ。

PROFILE

冨塚知歩さん

愛知県立一宮興道高等学校(愛知県)卒業。
中学時は柔道、高校時は弓道を極め、集中力、精神力を養う。薬学、栄養士、臨床心理師などに興味があり、薬学部へ進学。桂 敏也先生の医療薬剤学研究室に所属。研究と国家試験勉強の両立で充実した学生生活を送る。

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