防潮堤建設の「閉じられた政策形成過程」を問題視

2016年6月、三浦なつきさんは、東日本大震災後の5年間の復興・創世期(2016年~2020年)に、各地域が取り組むべき課題などを調査や研究結果から導き出すことを目的とした「第1回現場で役立つ復興論文大賞」で特別賞「地域創造基金さなぶり賞」を受賞した。三浦さんの研究テーマは、東日本大震災後の防潮堤建設の政策形成過程の分析。原子力発電所の爆発事故の処理対応などを例に公共事業策定における中央政府の「閉じられた政策形成過程」を問題視し、地域住民の暮らしのために「開かれた政策形成過程」があるべきだと訴えている。一方で民間のアイデアが取り入れられた事例(「緑の防潮堤」など)も明らかとなり、論文では「どのように民間のアイデアが政策にとりいれられたのか」「なぜそれが実現したのか」について述べている。

宮城県気仙沼市で生まれ育った三浦さんは高校生の時に東日本大震災を経験し、大学1回生のときから東日本大震災をテーマに研究したいと考えていた。そしてある年、帰省した気仙沼で防潮堤建設の合意形成について紛糾している記事を目にしたことがきっかけとなり、それを研究のテーマに据えた。研究はどんな問題意識がもたれているかを整理したうえで、主に会議録、関連書物などの文献を調査した。また「緑の防潮堤」の元のアイデアである「森の防潮堤構想」を提案した公益財団法人「瓦礫を活かす森の長城プロジェクト」への聞き取りも行い、約10カ月を費やして2015年12月に論文を完成させた。

調査開始当初は、「閉じられた政策形成過程」に対抗するスタイルを提示しようとしていたが、防潮堤建設関する議論では意見が二分されていて、どちらかの意見に偏ってしまうと、単なる批判で終わってしまうと考えた三浦さん。研究を進めるうえで自分が学生ではあるが「研究者」として取り組みたいという思いがあったことや、また指導教員である上久保教授から「研究には私情を挟まないこと」といったアドバイスをうけ、中立的な立場で「今後どうすれば建設的な議論ができるのか」という方向性ですすめることで次につながるような論文にしようと考えた。

みんなが納得する結果を生み出すには決定の場に参画することが大事

研究のなかでみんなが納得する結果を生み出すには決定の場に参画することが大事であると強く思うようになった三浦さんは、民間のファシリテーター講座を受けて地域住民と行政をつなぐ取組みをする方から理論や方法を学んでいった。そして組織の大小に関わらず、みんなが決定に対して納得感を得るためには「意見を一方的に否定しない」「お互いの話を聴く」「多様性を認める」といった根本的な要素が必要であると気づく。所属している政策科学会学生委員会でも会議を進めるうえでその要素を意識し、会議進行の持ち方を変えていった。「過去には自分の価値観を押しつけていたこともあったと思います。委員長が決定権を行使する形ではなくみんなが発言して進めていく形にしたいという思いがあり一人ひとりの意見を引き出すようにしました」

執筆中には「これを調べたところで、誰にも伝わらなかったら、意味がないのかな」と無力感もあったという三浦さん。今回の受賞で自身の調査内容が被災地に届くこととなり、「自分は被災地で具体的な課題や問題に直接取り組んだわけではないですが、研究結果が有効と評価され、この論文が生かされる場所に少しでも届けることができるのかなと思っています」と喜びをかみしめた。今後も政策形成過程をテーマに地方行政にも目を向け、研究を続けていくそうだ。「被災地に限らず、地域住民が納得する形で公共事業が実施されていくような社会になってほしいです」

PROFILE

三浦 なつきさん

宮城県立気仙沼高等学校(宮城県)卒業。
1回生から学内外の研究発表会に参加するなど、研究活動に力を入れてきた。3回生から上久保誠人教授ゼミに所属し、政策過程論について学んでいる。 2013年2月~政策科学会学生委員会に所属(2015年度は委員長を務める)。3回生時には、自主ゼミ団体「ブレステーション」を立ち上げ、学部生の研究活動の活性化をめざして活動した。

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