知事リレー講義
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   2009年 4月23日        三重県 野呂昭彦知事


  
「文化力」による三重発世直しモデル

 −概略−

 2009年度全国知事リレー講義は、423日野呂昭彦三重県知事をお招きし「『文化力』による三重発世直しモデル」について2回目の知事講演をしていただいた。野呂三重県知事は、昭和44年に慶応義塾大学工学部、昭和47年に同大学院修士課程を修了されたのち、厚生大臣秘書、衆議院議員、松坂市長といった様々な政治家としての経験をへて、平成15年より三重県知事に着任されている。


T 文化力をベースにした県政運営


はじめに、野呂知事が着目する文化力について、説明していただいた。そこでは、「生活の質を高めるための人々の様々な活動およびその成果」を文化と捉え、「文化のもつ、人や地域を元気にし暮らしをよくしていく力及び人や地域が持っている人々をひきつけ魅了する力」のことを文化力と呼ぶことを説明された。また、文化力にはまわりの人を感化し、ともに向上する力である「人間力」、人を魅了する「地域力」、人間力および地域力の源泉となる「創造力」の3つの要素があることも説明していただいた。これらの要素から成る文化力を活かしながら、行政運営の質的な改善を行っていく必要があることを説明された。

 文化力を活かすということで、政策の目標はどのようなものになるのだろうか。野呂知事は、三重県の政策の目標としては以下の2点があることを述べられた。その第1は、生活の質や心の豊かさにくわえ、産業の元気作りが重要となることである。第2の目的は、中・長期的に社会の体質を改善し、健康な社会づくりを目指すことである。これら2つの政策目標を達成することを通じて、従来の日本の信頼関係や一体感といった強みを大切にする社会へと変革していく、換言すれば、文化力を活かした施策を講じていくことで、このような社会づくりを目指していくことを説明された。

U 文化に着目する時代背景


 このような文化力になぜ着目する必要があるのか。野呂知事は、様々な時代的な変化が重要であることを説明されたが、とりわけ以下の点が重要であることを強調された。それは、90年代以降行われた様々な新自由主義的改革の影響である。行き過ぎた小さな政府論や規制緩和、構造改革といった制度改革は、様々な「歪み」を生み出した。そして、これらの諸制度改革を背景に、格差の拡大やセーフティーネットの崩壊、地域格差問題といった様々な問題が生じたことを述べられた。つまり、このような問題が生じている時だからこそ、文化力を活かしていく必要があるのである。

 また、野呂知事は政治学者で、元京都大学教授である高坂正堯先生の説を引用しながら、文化力を推進していくことは、まさに政治家が決断することであることを述べられた。すなわち、体系には「力の体系」としての軍事力、「利益の体系」としての経済力、「価値の体系」としての文化力の3つがあるわけだが、これらのいずれを重視するかは、政治家の判断によって決められるのである。したがって、文化力を推進していくためには、まさに政治家としての決断が必要となる、ということであり、逆にいえば政治家のリーダーシップが重要となっていく。

 さらに、野呂知事は、コミュニティー・ニューディールの必要性が高まっているということも述べられた。ニューディール政策とは、世界恐慌を乗り切るためにルーズベルト大統領が行った一連の積極的経済政策のことであるが、上で述べたような時代の変化等の状況に鑑みた時、まさにそのような積極的な地域社会の世直し、あるいは、地域社会からの世直しが必要になる。したがって、三重県は文化力に着目し、それを生かした施策を講じていく必要があるのである。

V 文化力を生かした三重からの発信


 「文化力」を活かした三重県の施策とはどのようなものか。そのような施策は多くあるが、特にここでは以下の4つの施策について簡単に説明していただいた。第1は、職員の参加を重視した経営品質向上活動である。職員の積極的な意見を参考に、行政経営の改革を行っていることを述べられた。第2に、高度集約型産業構造への転換である。高度な先端産業への支援や多様な主体による研究交流活動を行っていることを説明された。第3は、こども局の設置や学校品質改善活動といった教育政策である。子どもに関する施策を一元化し、また、顧客志向の学校運営を目指すといった取り組みを行っていることを述べられた。最後に、中・長期的スパンのもとでの地域づくり活動である。この施策については、今年度(2009)から開始されているため、未だオープニング・セレモニーの段階であるが、2014年に大規模なイベントを開催することを目標に、様々な取り組みを行っていることを説明された。


質疑応答

 質問としては、@文化力をどのように測るのか、A三重県は関西よりか中部よりか、B産業振興と文化力の関係はどのようなものか、C自立と連帯の関係をどのように考えるか、といったものがよせられた。

 @については、非常に難しく県議会でもしばしば議論となるが、座談会の回数やどの程度  グループができたのかという点を暫定的な指標としていると述べられた。ただし、これは  十分なものではないので、さらに検討していく必要があることもあわせて述べられた。

 Aについては、両方大事であり、いずれかが大事という訳ではない旨を述べられた。特に  、東京一極集中の是正という問題を解決していくには、地域間の協力が不可欠であり、  そのためにも協力していく必要があることを述べられた。

 Bについては、具体的には、コミュニティビジネスの支援といった施策を講じていることを   述べられた。

 Cについては、政府あるいは自治体への依存心というものが問題であって、政府からの  自立は必ずしも家族や他者との連帯を断ち切るものではないことを述べられた。





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