知事リレー講義
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   2009年 5月 7日           宮城県 村井嘉浩知事

 



 「国家のフルモデルチェンジを目指して
  〜地方が抱える課題から道州制を考える〜」 


 2009年度第5回全国知事リレー講義は、村井嘉浩宮城県知事をお招きし「国家のフルモデルチェンジを目指して〜地方が抱える課題から道州制を考える〜」とのテーマのもと講演していただいた。村井宮城県知事は、昭和59年3月に防衛大学を卒業後、同年4月に陸上自衛隊幹部候補生学校に入校、そして平成4年に宮城県議会議員選挙にて当選し宮城県議会議員に着任後、平成17年11月より宮城県知事に着任されている。






T 地方が抱える3つの課題



 まず、村井知事は、現在の地方制度には3つの問題があることを指摘された。第1には、自治立法権に対する制約であり、第2には自治財政権に対する制約、そして第3は自治行政権に対する制約である。以下では、これらの3つの課題について、特に第2の問題について、詳しく説明していただいた。

1 自治立法権に対する制約
 現在の制度下においては、条例を地方自治法といった「国」の法の範囲内においてしか制定することができず、それゆえに地方独自の条例を制定することが困難であったり、地方の実情に合わず無駄が生じたりするといった問題があることを説明していただいた。

2 自治財政権に対する制約
 立法制度のみならず、財政制度によっても地方はかなりの程度制約されている。具体的には、地方交付税(制度)による制約と国庫支出金(制度)による制約である。前者に関しては、地方の財政を「均衡化」するという意味では非常に有効な制度である一方、どれだけ地方が努力しても努力した分が財政収入に反映されない仕組みとなってしまうため、地方のやる気を削いでしまう問題があることを説明していただいた。また、後者に関しては、本来地方が優先してやるべきでない施策に誘導される危険があること、言い換えれば、国の方針に地方が左右されてしまう危険がある点などを説明していただいた。
 また、ここでは小泉内閣期に行われた三位一体の改革についても説明していただいた。村井知事によれば、税源移譲が行われた一方で、国庫補助金や地方交付税は移譲金額分以上に削減され、それゆえに地方の財政が危機的状態に陥っているという。この問題を解決するために、宮城県では人件費等の削減を行っているが、削る額には当然限界がある点、さらには施策自体も削ることができないものが多い点などを説明していただいた。

3 自治行政権に対する制約
さらに、土地利用規制の強さといった、自治行政権に対して大きな制約があることを説明していただいた。この制約の強さゆえに、たとえば土地利用の許認可等について、多大なコスト(時間)がかかるといった問題が発生することを指摘された。



U どうすればよいのか



 村井知事によれば、上述の問題を解決するために有効な策として「道州制への移行」があるという。道州制とは簡単にいえば、現在の都道府県を「道」という新たな単位に代え、権限ないし財源を大幅に移譲する制度をいう。道州制については、平成18年より第28次地方制度調査会にて議論[検討]が始まっている。村井知事は、現在の市町村−都道府県−国という三層制から道州制に制度を変革することで、たとえば国に対する陳情が大幅に減り時間的なコストが削減される、あるいは、国は国、地方は地方の分業がより確立されるといったメリットが発生することを説明された。より端的にいえば、スケールメリットを活かしたダイナミックな行政運営を行うことが可能になる。
 また、具体的な道州制プランについても提示していただき、どの組み合わせであればどのようなメリットがあるのか、また、それらは規模等の観点からどの国と似ているのかといった点についても詳しく説明していただいた。
 最後に、道州制を採用することで、上述した3つの課題をどのように解決していくかを説明していただいた。まず、自治立法権については、憲法改正の問題が生じるが、立法権を国から道州へ一部移管して行政執行権と立法権を同一主体に帰属させ、自分たちに必要な法律を自分たちで制定できるようにする必要性を述べられた。次に、自治財政権について、必要な財源は基本的には道州単位で確保する必要がある点を述べられた。もっとも、この点に関しては、併せてどのような財政調整制度を新たに作るかという議論が必要であることも述べられた。最後に、自主行政権について、スケールメリットを生かし無駄が排除される。道州制が導入されればダイナミックな行政運営ができるようになる点を述べられた。



V 今後の課題



 道州制は大きな魅力がある一方、それを実現するにはさまざまな課題が存在する。村井知事は、まとめに代えるかたちで、道州制を実現していくためにはどのようなハードルを越える必要があるかを述べられた。それは@参議院のあり方や立法権のあり方等、憲法改正の是非、A基礎自治体の充実、B税制の抜本的な改革、C国の省庁の道州への移管、D国民議論の喚起であり、何よりもDの国民議論の喚起をしていかなければならないと説明していただいた。







 質疑応答

 
 質問としては、@一極集中になるのではないか、A地域特性が薄れるのではないか、B都道府県の「歴史」をいかに考慮するのか、といったものがよせられた。

 @の質問については、経済的な集中化は避けられないかもしれないが、その代わり政治の中心地を別の地域に  するといった対策が可能である、言い換えれば、州 知事の「ガヴァナンス次第」であるとの回答をいただいた。
 Aの質問については、地域特性は容易にコントロールできないが、政府の単位が変わることで確かに特性も代  わる危険があることを述べられた。しかし、それは行政の運営次第では乗り越えることが可能な問題であり、今  後の課題であるとも述べられた。
 Bの質問については、現在の都道府県の歴史が完全に断ち切られるわけではないし、断ち切るわけでもないと  回答された。あわせて、この点についても今後の課題であるとも述べられた。

  




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