知事リレー講義
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   2009年 5月14日        新潟県 泉田裕彦知事


  
「 地方から変える日本の新しいかたち 」

 −概略−

 2009年度第6回全国知事リレー講義は、泉田裕彦新潟県知事をお招きし「地方から変える日本の新しいかたち」とのテーマのもと講演していただいた。泉田知事は、昭和623月に京都大学法学部を卒業後、通商産業省へ入省され、経済企画庁、国土交通省、岐阜県知事公室参与といった様々な経験を経た後に、平成164月に現職であられる新潟県知事に着任されている。本講義では、直轄事業負担金制度の問題点を中心に、今、地方に何が求められているのかを説明していただいた。

T 問題の背景


 まず、泉田知事は地方の課題を説明する前提として社会がどのように変わりつつあるのかについて説明された。現在、我々の社会は、子育てが難しい、あるいは、定職につくことができないといった問題を抱える「不安な社会」である。このような状況においては、地方政府が率先して問題解決にあたっていく必要がある一方で、そのような問題解決を困難にさせている諸条件がある。その問題とは端的にいえば国による規制の枠組みである。地方の柔軟な施策展開を困難にさせるこの規制があることによって、地方は地方の実情に適した施策を展開することができないことを泉田知事は指摘された。特にその際問題となるのは財務省による予算制約、具体的には直轄事業負担金制度である。

U 直轄事業負担金の何が問題か


 直轄事業負担金制度は様々な問題を生じさせる。たとえば、第1に様々な行政ニーズが存在する状況下で、法律で義務づけられることで、地方の優先順位に関わらず県の予算を組まざるを得なくなるという問題が発生する。第2に、都道府県への協議手続きが法定化されておらず、事業によっては都道府県への説明が不十分なまま施策が実施されるという問題が発生する。また、第3に本来地方が実施するべき事業まで国が担当するため、地方分権が一向に進まないという問題も発生する。さらに、第4に国の出先機関と地方の事務局の結びつきが強くなり、県組織がさらに縦割りになってしまうという問題も発生する。このように、直轄事業負担金制度は、様々な問題を発生させる原因であると泉田知事は指摘された。

 このような問題を解決するには、何より地方分権の観点から国と地方の役割分担を明確化したうえで国の守備範囲を縮小する必要があること、言い換えれば、直轄事業負担金制度を早急に廃止すべきであることを、泉田知事は主張された。ただし、この制度は簡単に廃止できるものではなく、廃止をするにはいくつかのハードルを越える必要がある点もあわせて述べられた。それは、地方交付税制度との兼ね合いという問題や、財務省と総務省の関係についての問題である。これらの問題を解決することなしに、直轄事業負担金制度だけを廃止することは難しい。言い換えれば、これらの問題についての検討とともに、直轄事業負担金の問題についての検討も行う必要があることを述べられた。

 

V 農業者の所得保障制度の創設について


 上記の問題を解決することは、何より地方の実情にあった施策展開を可能にする。ここでは、地方が行う農業政策を例に、どのような施策が展開できるのか、あるいは、展開すべきか、といった点について説明していただいた。

 泉田知事の問題意識として、日本の食糧自給率の低さがある。OECD諸国において食糧自給率が40%というのは日本だけであり、おおよそ60あるいは70%が平均であると泉田知事は指摘された。また、このような自給率の低さが、食にまつわる多くの問題を発生させる原因となり、ひるがえって「不安な社会」化を進展させる一因にもなっている点も指摘された。

 この食糧自給率の低さという問題が発生する主たる原因は、農業従事者が年々減っていっている点に求められる。さらに、なぜ農業従事者が減っているかについても明らかであり、その原因は農業だけでは満足に暮らしていくことができない点にあることを泉田知事は端的に指摘された。したがって、地方政府の課題は、農業従事者をいかに維持・確保するかということになる。

 農業従事者を維持・確保するためには、地方政府が農業従事者の所得保障をしっかりと行うこと、やや具体的にいえば、農業の「6次産業化(第1次+第2次+第3次)」を行うことが重要である。しかしながら、現在の規制枠組みの中ではこのような問題に対処できるような柔軟な施策展開を行うことができないために、農業従事者の維持・確保が困難を極めているという。

W まとめ


多くの地方が抱えているのと同様に、新潟県も国の規制の強さゆえの柔軟な施策展開の困難さという問題を抱えている。まとめとして泉田知事が仰ったことは、この規制枠組みからいかに脱却するかが大事ということであり、換言すれば、いかに今後さらなる地方分権を進めていくかということになる点を述べられた。

質疑応答とメッセージ

質問としては、@Uターン就職の現状について、Aなぜ泉田知事の支持率は高いのか、B所得保障政策の具体的な中身について、という3つの質問がよせられた。

 @については、新潟県はUターンが比較的少ないと述べられた。Uターン相談センターという窓口を設ける等の施策を講じてはいるものの効果はあがっていないと回答していただいた。

 Aについては、やはり顔を住民にきちんと向けていることが功を奏しているのではないかと回答していただいた。泉田知事は、故郷に対する危機感を有しており、それゆえに、顔を住民に向けることを第1に考えているという。そのような姿勢が、高評価されているのかもしれない。

 Bについては、市場の規模に合わせた価格支持政策からの脱却ということであるとの回答をいただいた。世界的な潮流としても、農業政策は所得保障にシフトしつつあり、その意味でも所得保障政策を実施していくべきであること述べられた。

 





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