知事リレー講義
ライン
   2009年 5月 28日           浅野 史郎 氏

 

 「 地方から変わる政治 」
 

 

 2009年度第8回全国知事リレー講義は、浅野史郎前宮城県知事をお招きし「地方から変わる政治」との題目のもと、受講生の様々な質問に答えるかたちで講演していただいた。浅野前知事は、昭和453月に東京大学法学部を卒業後同年4月に厚生省へ入省、平成511月に厚生省生活衛生局企画課長を退職後、宮城県知事選へ出馬され見事当選し、平成1711月まで宮城県知事を勤められた。現在は、慶応義塾大学総合政策学部教授をなさっている(平成184月より)。本講義は、上述のとおり受講生の質問に回答するかたちで進められたので、以下での記述もどのような質問に対してどのように回答なされたのを中心に進めていく。


 

T 政策に関する質問



 受講生より、何らかの政策に関して浅野前知事はどのような考えをお持ちなのかといった質問が9件ほどよせられ、まずはこれらの質問に答えるかたちで講義が進められた。具体的には、「今の日本政治について」「都道府県の財政改革について」「公共施設の過剰な建設について」「地方とメディアの関係について」どう思うかといった質問が寄せられた。

 これらの質問に対しては、以下のような回答をしていただいた。まず、今の日本政治については、憲法の規定の議論にも触れながら(7条および69)、衆議院の解散をめぐる動きと、国民の意識とに乖離がみられること、そして、自民党総裁選が事実上の「準決勝」であることを例に説明していただいた。次に、財政に関しては、今はどこの地方も限界にきているため大変であり、それゆえに総体的なシステム改革論(道州制論)が浮上するが、問題はそれほど単純ではなく、システムの改革にもいくらかの問題がある点を指摘された。くわえて、財政格差が近年クローズアップされがちではあるが、差ではなく「違い」あるいは「Special」と認識する必要もあることを指摘された。次に公共施設の建設については、赤字がでるから悪いという話ではなく、どのように施設が使われるかが重要であると指摘された(たとえば、県立の図書館は儲かることのない施設であるが、かといってそれが無駄であるということにはならない)。最後に、メディアとの関係については、中央よりの報道が一般的であるために何らかのバイアスがかかってしまう恐れがあること、ゆえに我々が情報を適切に取捨選択する能力を持つ必要があるということを述べられた(メディアリテラシーの問題)。





U 財政について



 第Tの質問とやや重複するが、ここでの焦点は全般的な財政問題への考えではなく、宮城県の財政についてであった。したがって、質問も、宮城県財政が困窮している状態を打開するにはどのようにすればよいのか、というものであった。

 浅野前知事の財政改革等に関する基本的な考えは上述したとおりであるが、その背景として、たしかに自身が知事になる前とやめる時を比べると借金の総額が増えているが、それは宮城に限ったことではなく、全道府県においてみられる現象であることを説明された。併せて、当時は、中央政府からの圧力で借金をすることがむしろ推奨されていた時代であり、すべての道府県が借金をしていたこと、また、その点に鑑みながら宮城県の借金の増額を検討するなら、決して多いというわけではないことなども説明していただいた。

 


V 地方制度に関する質問




 地方制度に関する質問もTでの質問とやや重複するが、「道州制に関する前知事のスタンスや問題・課題等についての認識について」「公務員制度改革の現状について」といった質問がよせられた。

 前者に関しては、上述のとおりであるが、やや具体的な話として、誰が出す道州制案なのかが重要である点を詳しく説明していただいた。道州制の議論は百花繚乱であり、具体的な中身についてのコンセンサスが確立されているとは言いがたいが、そのような現状においては、地方分権に繋がるかどうか疑問視せざるをえないような案も出てくるという。特に、中央政府の出す案はその危険性が高いことを、三位一体の改革の「トラウマ」等を理由として指摘された。もっとも、ここで重要なのは誰がという点というよりも、どのような案かを吟味する必要があるということなので、中央政府が発案した道州制構想がすべからく間違っていることを意味するわけではない点に注意されたい。

 後者の質問に関しては、天下りの問題と関連付けながら、説明していただいた。浅野前知事によれば、天下りは実は中央省庁の縦割り構造と連結している部分が多いという。たとえば、それぞれの省庁に所属する官僚は、「省益」を確保するために行動するがゆえに、縦割りとなり、また、天下るための団体の設立ないし法の制定を行う。このようなメカニズムを認識すれば、天下りというのは、単に別個の独立した問題ではなく、そのほかの多くの問題と複雑に絡み合う性質の問題であることを理解することができる。



W 知事本人への質問



知事本人に関する質問も7件ほど寄せられたが、その中でも特に「知事を務めていたときの信念について」という質問に対して、詳細な回答をいただいた。知事は、行政庁の長であると同時に、当然、選挙で選ばれる政治家でもある。したがって、選挙の時にどのように自身をアピールするかが、知事の信念を示すうえで重要となる。浅野前知事は、選挙の際「政治と金」あるいは「汚職」といった問題を一切起こさないことを信念として表明したことを述べられた。


 質疑応答

 
 

質問としては@三位一体改革の「たこつぼ」とは何かA地域活性化の際の「よそ者」「変わり者」「女性」とは何かといったものが寄せられた。

 @の質問に関しては、「ある補助金の廃止を地方として要請するにしても、すべての地方がそれを望んでいるわけでもなく、補助金を必要とする地方は必ず存在する。このような補助金に雁字搦めの構造を『たこつぼ』と呼んでいる」と回答していただいた。

 Aの質問に関しては、「地域活性化を行う際、地域の魅力等を感じ取る人が必要となる。よそ者は、その地域の魅力を認識する(違いに気づく)人として重要である。変わり者も、その違いあるいは魅力に気づくという意味で重要である。女性は、そのような活性化の担い手であるという意味で重要であるが、それは女性に限るという話ではなく、様々なアクターの参加が重要であるという意味で用いている」と回答していただいた。

 


 

 












 


Copyright(c) Ritsumeikan Univ. All Right reserved.
このページに関するお問い合わせは、立命館大学 共通教育推進機構(事務局:共通教育課) まで
TEL(075)465-8472