知事リレー講義
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   2009年 7月 2日   読売新聞 東京本社 編集委員 青山彰久 氏

 

 「 総選挙の論点 地方自治制度の考え方 」
 




 2009年度第13回全国知事リレー講義は、読売新聞東京本社編集委員であられる青山彰久氏をお招きし、「総選挙の論点 地方自治制度の考え方」との題目のもと、時事的な問題等を踏まえながら、現在の地方政府の課題等について講演していただいた。








 

 

T ニュースの言葉から考える



 青山氏は、はじめに、@東国原宮崎県知事の「私を総裁候補に」という発言、A橋本大阪府知事の「ぼったくりバーの請求書と同じだ」という発言、Bそして地方制度調査会の答申に記されていた「市町村合併運動は終結を」という記述の3つから、現在地方が抱える問題や課題等について述べられた。


@ 宮崎県知事の発言
 宮崎県知事の発言をとっぴな言葉とみる視覚もあろうが、その一方で、知事(地方)のいらだちが顕在化したという見方もできる。すなわち、過剰なほどの中央統制的な統治構造に対する地方の側の苛立ちと、宮崎県知事の発言を解釈することができる。
 分権改革は国の統治構造を根本的に変える制度改革である。それは、民主政治の基盤でもあり、きわめて重要な改革であったが、本来的に政治手動でしか進められない性質の改革でありながら、近年においては首相の指導力の低下から、うまく動かなくなってきていると、青山氏は述べる。その際注目されるのは、宮崎県知事や大阪府知事といった知事レベルの政治家である。というのも、分権改革以降、知事の役割は大きく変化し、いまや知事は改革の重要なプレイヤーだからである。その意味で、宮崎県知事の発言も、分権改革を進めていくうえで重要な位置を占めることとなる。
 もっとも、「知事人気」にあやかる熱狂型政治を、必ずしも是とすることはできない。青山氏はM.ウェーバーの『職業としての政治』の内容にふれつつ、政治とは「固い板に錐で穴を開ける作業」であり、着実ないし確実な進展がみられるような、改革が大事である点をあわせて指摘された。
 

A 大阪府知事の発言
 大阪府知事の直轄公共事業負担金制度に関する発言に関しても、地方の身勝手な要求とみるか、大規模な公共事業改革へ向けての発言とみるかが分かれる。そもそも、直轄公共事業負担金制度は国の事業であっても便益を受ける地方も相応の負担をすべきとの趣旨のもと始められた。しかし、その際、負担金の明細を開示しないなど、いくらかの問題もあった。此度の大阪府知事の発言はこの問題を直接的には指摘しているが、その背景には「土建国家日本」の歴史に対する批判がある。
 この批判の背景には、以下の2つの大きな潮流がある。第1は情報公開型行政への要求の高まりである。第2は国と地方を対等にすべきとの要求の高まりである。これらの背景から、大阪府知事も直轄事業負担金制度に対する問題があることを指摘したわけだが、上で述べたようにこの批判は日本の統治構造全体に遡及する指摘でもある。
 つまり、直轄公共事業負担金制度を廃止するということは、直轄事業は国土に必要なものに限定することを意味すると同時に、残りは地方に財源を含めて委譲すべきであることを意味している。換言すれば、この改革は「土建国家日本」を支える制度を変えるものになりうるのである。


B 地方制度調査会の答申
 この答申からは、市町村合併政策を封印するのか、小休止するだけなのかが一見定かではない。しかしながら、自民党も民主党も、市町村数を700〜1000程度にする構想をうちだしている。つまり、現在ある市町村の8割を再編する必要があるわけである。
 地方制度調査会の答申は、このような大規模な再編論に関するアンチテーゼ的な意味がこめられていることを青山氏は指摘する。その例としては、「住民自治の空洞化」がある。すなわち、「地方自治とは何か」という問いに改めてこたえる必要があるのである。市町村合併がひと段落し、次は道州制という議論になっているが、道州制構想は千差万別であり、冷静に捉える必要があることを青山氏は指摘された。




U 地方自治と地方制度



 青山氏は地方自治を「人々が暮らす地域を単位に、暮らしを支える公共サービスについて、地域に最もふさわしいかたちと方法を、住民自身が考えて選んで決めること」と定義し、地方制度を「都市でも農村でも、財政力が豊かな地域でも貧しい地域でも、豊かな自治の実現を国の統治構造として保障すること」と定義する。
 そのような地方制度を設計する際、集中−分散の軸と集権−分権の2つの軸から考える必要がある。今日本に求められているのは、集権−分散から分権−分散型の地方制度である。ともあれ、総括して言えば、税財源のさらなる委譲と安定した財政調整制度、規制の緩和等が求められていると青山氏は述べる。また、現在の地方分権改革は、「国の行革(財政改革)のために」と「豊かな自治のために」の目的が錯綜しているとも述べられた。

 

 


V 現場をみる力と考える力




 青山氏は「鳥の目と虫の目を持つ必要がある」ことを述べられた。つまり、現場の豊かな自治の価値を確かめる「虫の目」を見極めると同時に、統治構造全体にも目を向ける必要があることを指摘された。特に、現在盛んに提唱されている道州制構想に関しては、どのような構想なのか、どのような条件が必要なのかといった点から考えていく必要があり、真に分権的な制度改革なのかを、見極めていく必要があることを述べられた。
 また、現在の改革の重要なプレイヤーである知事の思想を知ることで、統治構造それ自身を深く知ることが可能となる。このようなプレイヤーの考え方を深く理解する必要がある点もあわせて指摘された。





 質疑応答

 
  今回は、講義時間の都合上質疑応答は行われなかった。
 












 


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