知事リレー講義
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   2009年 10月 15日   命館大学 公務研究科教授 今仲 康之氏

 

 「 政権交代で地方が変わ 」
 




  <上田恭規氏>

 京都市出身。立命館大法学部卒。1984年4月、読売新聞大阪本社に入社し、松山支局を経て90年3月、社会部へ。以来、東京本社社会部の2年3か月を挟んで今年5月まで19年余りにわたって社会部に在籍し、主に行政、選挙取材を担当。6月から
現職。

 

 
<1.民主党政権と地方分権>




はじめに、先の総選挙の争点となった地方分権について話をする。

自民党政権と民主党政権の大きな違いは、マニュフェストにある八ツ場ダムや川辺川ダム問題について、前原国交大臣は、マニュフェストに書いているとして中止すると言った。私は新聞記者の経験から驚いた、なぜなら既に予算総額の4分の3の費用を投下しており、反対を押し切って工事を始めたという経緯もある。

民主党は、時代に合わない国の直轄型公共事業を削減するとマニュフェストに記載したため、今回のダム建設の中止で公共事業中止のモデルを作ろうとしている。

行政は一度予算が付いた公共事業は止められない、高度成長期は良かったが、どんどん無駄な道路や空港などが建設された。高度成長が終わった後に転換できればよかったが、それが出来なかった。例えば、秋田県の大館能代空港の建設費は340億円、半分は国費で賄った。空港建設前の需要予測については、年間47万人の利用が見込まれていたが、現在は年間利用者数が12万人である。2007年度について言えば、収入6000万円に対して支出は3億7000万円、需要予測を作成したコンサル会社は、秋田県の県民所得の成長率を国内平均以上に大きく見積もった。現在、全国には97空港があり、今年6月に新設された静岡空港もJALの経営問題が出てきたため、路線を維持していくことは難しい。  

道路については、国土開発幹線自動車道建設会議の決定に基づき、麻生政権では補正予算で3,225億円を投下したが、金子前国交相、二階前経産相など有力な政治家の選挙区を通る高速道路の車線数を増やすための工事にも使われた。日本では、政治家と業界、官僚の3者で公共事業費の無駄遣いがされているが、民主党は、このトライアングルを壊すためにダム問題を取り上げている。

空港整備についても、空港整備特別会計の見直し、道路問題についても国幹会議の見直し等、民主党政権で公共事業を取り巻く環境は大幅に変わると考えられる。



<2.地域の実情と補助金・交付金の弊害>




今まで官僚は、補助金や交付金によって地方を政策実現の手足として使っていた。それは、全国一律の基準を作って行う国土の均衡開発、公共サービスの均一化という目的を達成する為には有効な手段であったが、補助金のフォームに従わないと予算が出ない為、地域の実情を反映した予算措置は難しい。例えば、和歌山県では補助金の支給基準に合わせて、通行量が1日約200台、橋の両岸に10軒ずつ家がある程度の山村に11億円の予算を投じて2車線歩道付の橋を建設したが、これは地域の実情に即していない。また、都市部においても、道路建設のための用地が上手く買収出来ず遊休地となっている場所を、大阪府が学習施設建設や駐車場として一時的に使おうとしたが、結果的に国から拒否されたケースなど、山間部と都市部の両方で補助金制度の弊害が出ている。

さらに、法令では自治体に対する義務付けや枠組みがある。例えば、公営住宅の入居は単身者には認めない、認可保育所は、園児1人あたりに対して一定の遊技場の確保が必要であるなど、国のコントロールを排除して地方の実情にあった行政を行うということを地方自治体はやりたいと思っている。

 

<3.地方分権への政治の流れ>


  

小渕内閣の時に、地方分権推進一括法が成立し「機関委託事務の廃止」により、国と地方は対等な立場になった。

その後、小泉内閣の下で進められた「三位一体の改革」により、地方への補助金と地方交付税が減額され、地方税には税源移譲が一部行われ、また2007年からは地方分権改革を行うための動きとして「地方分権改革推進委員会」が設置されている。

今まで、国から地方へ移譲すべきであると提言された1,030業務のうち、実際に移譲されたのは36業務であった。中央官庁は自分達の権限を離したくないため抵抗をしているが、国の出先機関を廃止することで、35千人の職員を削減出来る。

また、大阪府の橋下知事は、良い内容の地方分権政策をやっている党を評価するという方針を打ち出し、全国知事会も各党の取り組みを評価・検討している。

民主党は、国と地方の協議機関を法的に整備するとマニュフェストに記載しており連立政権内では合意しているため、全国知事会は地方の拒否権や合意権の明記を求めている。

これらの義務付けや枠組みの改革については、予算措置が伴わないため可能であると考える。さらに、補助金制度についても、特定事業の枠組みの中でしか使えない、「ひも付き補助金」を廃止し、地方が使いやすい補助金を設立することが必要である。

 

<4.地方分権に関する問題点>


 

いずれにしても、今まで自民党政権で出来なかったことが、民主党政権になれば出来るのかという疑問が出てくる。先に挙げた、地方出先機関の職員3万5千人の削減についても、自治労を支持基盤にしている民主党に改革が出来るのか。

また、一方で地方はどうなるのか、国の権限や財源を移譲すれば当然受け皿が必要となるが、今の市町村に耐えられるだけの力があるのか疑問がある。お金が欲しいと言ってばかりの地方自治体が多いのではないか。残念ながら、全国には補助金、国から提示された政策メニューに基づいた行政しか出来ない自治体が数多く存在しており、今後、地方の力量が問われる。例えば、補助金がひも付きから一括交付の形態に変われば、国からの公共事業が減った分を穴埋めするために使うことが想定される。



<5.問題点の解決に向けて>


 

現在、多くの地方自治体は、意識レベルが分権に耐えられるまで上がっていない。大切なのは、議会や市民であり、自治体の自立は市民の自立でもある。市民と行政が一緒に行政を作ってく準備を始めている地方もあるが、遅れている地方はどうするのか、市民もより自覚して、政治や行政に関わっていく必要がある。




 質疑応答

 
 

@今後、公共施設の維持費用についてはどうしたらよいか?

 

売却するなどの方法があるが、そのような施設が増えた原因としては、自治省の地方債と地方交付税の組合せでの誘導措置などがあったためである。しかし、現状では稼働率が悪い会館であっても、そのままにされている。

 

Aマスコミでは、地方自治のメリットばかりが言われているが、デメリットについて話を聞きたい。

 

分権の受け皿となるだけの能力が地方にあるのか、また首長が独裁的な力を行使する恐れがあり、それらは地方自治にとっての懸念材料である。

 

B地域主権について、受け皿としての地方にはどのような改革が必要か。

 

地域住民が、いかに行政に参画していくかが大切である。例えばNPONGO、市民団体など様々な分野で、政策の力量を蓄えた人々に参画してもらう。また、大阪府のように監査制度を充実させ、外部や市民の目を行政に入れていくことが必要である。

 













 


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