【講義要旨】
本講義は、政策の現場で活躍されている現職の知事の話などを、直接に聞くことが出来る貴重な機会であり、学生の皆さんは、講演の内容を聞き、質疑応答を通じて、是非、自らにとって、将来に役に立つものを見出してもらいたい。
特に、現職の知事をはじめ講義をしていただく方々は、時間的な状況からすると、講演をしてもらうことが誠に難しい環境の中で来て頂くものであり、このような知事リレー講義が開催されることはチャンスだと思って、積極的に取り組んで欲しい。
20年ほど前に、熊本県の財政課長として国から出向していたが、当時の熊本県の細川知事は、情報公開の推進を図った。
情報公開をすることで、世の中は大きく変わったと思う。
行政が行った事柄が外部に明らかになるのだから、まず行政は悪いことは出来ない、また住民の目に触れることで、住民からの色々な意見が出てくる。
情報公開については、国より地方公共団体が先んじた。このことは、大切なことであると、今振り返っても、そう思う。
ただ、国の場合は、安全保障や外交などの問題があるため、情報公開を拒む理由も見出しやすいのだが、地方公共団体にはそのような理由は少なかった。
地方自治は、情報公開が行われることによって、民主主義として、住民が、情報を踏まえて、政治や行政に参加し得ることとなり、より開かれたものとなった。
日本国憲法には、その第92条から第95条に、地方自治の条文がある。
地方自治は、団体自治と住民自治であるとされる。
団体自治とは、国とは別に、団体つまり地方公共団体において、自治が行われることであり、住民自治とは、住民によって、自治が担われることである。
また、地方自治は、地方公共団体で、住民に身近な問題を、住民自身が解決していくものである。
憲法で、地方公共団体には、長と議会が、設けられるが、長も議会の議員も、住民の選挙によるものとされている。
なお、地方の課題は、それぞれ地方ごとに必ずしも同一ではない。例えば、東京都と島根県をとってみると、自然環境、経済状況、住民の居住状態など異なっており、したがって、それぞれ地方の課題があり、全国一律に処理するのではなく、地方がそれぞれの実情に合わせて処理していくべきものがあるわけで、そこに地方自治の必要性がある。
ところで、住民の身近な問題といっても、問題解決のための政策の立案は、必ずしも容易なものではなく、政策立案のためには、専門的な知識や健全な良識が必要であり、地方公共団体の運営を担う長や議会の議員には、そのようなものが求められる。
国家的に統一して、画一的に、政策を立案し、実行していく必要性が高い時代には、中央集権となる。例えば、江戸から明治へと変わった時代や戦後の日本などが、挙げられる。
しかし、平成5年には、「地方分権推進に関する決議」が衆・参両院で議決された。この背景には、地方それぞれにおいて、地域の課題を解決していく必要性が高まったことと、中央主権に無理が出てきたということがある。例えば、地方の地域的な問題まで、霞ヶ関まで上げて画一的に処理する必要があるのかということや、他方、権限が中央に集中するため、腐敗が起き、収賄で逮捕されるといったことが出てきたことなどである。
このため、地方分権推進法が制定され、地方分権推進委員会から勧告がなされて、地方分権一括法が、小渕内閣の時に、制定された。そして、その中で、機関委任事務が廃止された。
機関委任事務は、中央集権の制度として、最も中央集権らしいものであり、知事や市町村長が、国の事務について、国の機関の下部機関として位置付けられ、上部機関である国の機関から、通達などにより、指揮、命令を受けて、事務を処理するものであった。
まさに、国の各省庁としては、そのような制度は、既得権であり、地方分権といってみても、廃止されるものとは思われなかったが、機関委任事務は廃止され、自治事務、または、法定受託事務として、地方公共団体の事務となった。
この結果、国と地方公共団体とは、機関委任事務があった当時は、まことに上下の関係であったものが、一応は対等の立場に変化したのである。
なお、機関委任事務については、都道府県の事務のうちでは7割ほど、市町村の事務のうちでは4割ほどであったとされている。
<5. 市町村合併、三位一体の改革、地方分権改革推進法>
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市町村合併は、合併により、一定の規模が確保され、財政面や人事面で、効率的な事務処理や事務処理能力の向上が図られるため、地方分権の観点からも、大切なところがある。
つまり、地方自治は、身近な地域の問題は、地域において問題の解決をしていくべきであり、地方分権を推進する場合にも、まずは、市町村に、権限を委ねていくべきものであるからだ。
三位一体の改革は、補助金、地方税、地方交付税について、一体的に改革を行うこととされ、まず、補助金は4兆円削減し、税源は3兆円国から地方に委譲し、地方交付税は見直すこととされたが、地方財政計画が、行財政改革の中で、厳しく縮減され、結果としては、大きな削減となった。このため、今でも、地方公共団体からは、三位一体の改革によって、財政的に、厳しい結果となり、それが続いているという声が強い。
現在、地方分権改革推進法が制定され、地方分権改革推進委員会が、第1次、第2次の勧告を出しているが、地方分権改革推進に当たっては、国と地方公共団体の事務が、2:3なのに対して、税源は、3:2となっていることをも踏まえ、税財源改革を行い、地方の税財政基盤の確立が必要とされている。
なお、財政運営については、地方公共団体において、首長や議会の手腕が問われているものであり、また、監査委員による監査や、住民による行政に対する評価などが、重要な役割を担うものになっている。
@地方分権によって福祉施設などの設置はどのようになるのか。
例として、保育所を上げると、保育所については、国の一律の基準があり、設置のためには、その基準を満たさなければならない。現在、保育所の待機児童数が相当の数に上っているが、都市部などでは、地価も高く、スペースを地方と一律に取るとなると、その設立には、難しいところがある。
地方それぞれ、状況が異なることからすれば、それぞれの地方に応じた適切な方法で設置していけることが、求められている。そこで、地方分権改革推進委員会の第1次勧告では、全国一律の要件を見直すように勧告がなされており、第2次勧告においては、国の義務付け・枠付けを見直し、条例制定権を拡充することが、求められている。
これらの勧告のとおりになると、地方公共団体では、国の一律の基準ではなく、条例により、適切な基準が作られ、それにしたがって設置されていくので、今までより、設置が、円滑に進むと考えられる。
A地方分権で地方自治体間の格差は広がるのではないか。
地方財政については、地方公共団体において、必要となる標準的な財政需要を、基準財政需要額として計算し、税について標準税率で算定される標準税収入額の75%を、基準財政収入額として算定して、基準財政需要額から基準財政収入額を差し引いて、その間の差分を、地方交付税として、補填することとなっている。
したがって、基準財政需要額ベースでは、全ての地方公共団体でその水準が確保されるが、標準税率で算定される標準税収入額の25%分は、留保財源として、それぞれの地方公共団体の独自の施策のための財源とされており、留保財源分については、地方公共団体の税収入の大きさにより差が生じるものとなっている。また、いわゆる不交付団体は、基準財政収入額が、基準財政需要額を上回っており、その上回った分を、独自の施策に充てることができる。
このため、税収の状況により、今でも地方公共団体については、財政の格差があるわけであるが、地方分権により、実施すべき事務が拡大することになれば、税財源の調整を行わないと、格差拡大のおそれなしとはいえない。
地方公共団体の財政が、自主財源によって、まかなわれるべきことからすると、税収において、地方公共団体間の格差が小さい、地方消費税、個人住民税、固定資産税などの税収を中心として確保し、それでも生じる、税源の格差による調整を、国からの交付金によって補填していくことなどが必要と思われるが、地方分権改革推進委員会においても、地方分権改革推進にあたって、地方税財源のあり方を改革し、地方の税財政基盤の確立が必要とされており、今後、勧告がなされるものと考えられる。
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