知事リレー講義
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   2009年 10月 15日   大分県 広瀬勝貞 知事

 

 「 子供に夢を、暮らしに温もりを 
                  −大分県のビジョン 」
 




 
 はじめに ―大分県と立命館大学―


19世紀に大分県の日田郡に廣瀬淡窓という人物が、私塾「咸宜園」を創設した。咸宜園は、身分や学歴、性別を問わず実力のある者に対しては誰にでも入学認め、日田郡が幕府直轄の天領であったこともあり、全国から色々な人物が集まった。その咸宜園の3代目塾主であった広瀬青村を、立命館大学の前身である西園寺家の私塾「立命館」に招聘したことが、大分県と立命館大学との関係の始まりである。

その後、2000年に立命館アジア太平洋大学(APU)が設立されたことによって、両者のつながりはより強くなっている。アジア太平洋大学と大分県下の市町村が協力協定を結び、市町村側は学術研究に必要な援助・協力、APU側からは地域の子ども達への語学教室実施という形で、地域との連携を強くしている。




1.子育て満足度日本一】



 地方が抱える問題については、少子高齢化、核家族化、過疎化が挙げられる。

このうち高齢化については、地域での犯罪防止のための安全パトロール隊や独居老人への訪問活動、登下校の児童・生徒への見守り活動、児童への本の読み聞かせなど様々な場面で高齢者が活躍しているため、大きな問題とはならない。

しかし、少子化は大きな問題である。今、地方は昨年末からの世界不況で、経済面での回復はまだ出来ていない。このような経済状況の下では、子どもを生み、育てることは非常に難しい。そこで大分県では「子育て満足度日本一」を目指して政策を進めている。

 政策を立案するにあたって、子育てを行っている親へのアンケートを実施し、子育てを行う上での問題点として、@経済的な負担、A精神的な負担の2点を挙げる親が多かったため、それぞれの改善に向けた政策を立案、実施した。

経済的な負担の軽減については、保育料の公費負担の割合を2人目の子どもは50%負担、3人目以降は何人でも全額公費負担として政策を進めており、認可・無認可を問わず全ての保育所を対象としている。また、小学校入学までの子どもの医療費についても全額公費負担としている。  

なお、民主党政権が掲げる月額2万6千円の子ども手当てにも大いに期待している。

 次に問題となっているのは、精神的な負担の軽減である。子どもを持つ親は、子育てに対する色々な悩みを抱えているため、子育ての悩みを親達がお互いに話し合うことのできる子育て相談センターの創設を行った。また、子育てのために仕事を辞めざるを得ない状況にある親もいることから、育児のための短時間勤務の設定などを県下の企業に要請しているが、中小企業の比率も多いため、なかなか難しい。仕事と家事・子育て(ライフ・ワークバランス)の成立する、楽しい子育てができる県を目指している。




2.教育の再生】


  

 公教育の改革は子どもを育てる上で安心を与えるものであるが、昨年夏に、教員採用試験と校長・教頭への昇進試験において不正が発覚した。これは教育界の閉鎖性が生んだ問題であり、情報公開と複数担当者による採点チェックの導入、不正に加点された者への処分と不正に減点を受けた者の任用、人事交流の拡大などの改善を行い、再発防止と信頼回復への取り組みを進めた。大分県下の公立学校に行けば、自己実現のための基礎が作れるという公教育にしていきたい。


【3.環境問題への取り組み】


 

大分県は環境保全への取り組みが盛んである。九州電力の八丁原発電所では、地熱よって11万kwの電力を発電しており、森林から出た木材ゴミを燃やすウッドパワー発電にも取り組んでいる。「ごみ0作戦」として、3R(リデュース、リユース、リサイクル)に取り組んでいるが、今年6月からは、レジ袋の有料化を導入し、結果的にマイバックの持参率は86%、年間使用量の約3分の1(3億枚/年)を削減することが出来た。今後は、小水力発電や国内クレジットシステムを利用した排出権取引などを利用して、環境対策に取り組みたい。




【4.産業の底力発揮】


 

 大分県の産業構造は、戦後の高度成長期に新産業都市として重化学工業を中心に多くの企業の誘致を行い、その後も、機械、半導体、自動車などの誘致をしてきたため、製造業に従事している人々の数が他の都道府県と比較して多い(1次2%、2次30%、3次68%)。また、近年においても大企業に対する知事や県幹部のトップセールス、事務手続きのワンストップ化、工場設置後のフォローアップなどをしている。企業との信頼関係の確立、集積が集積を呼び、このため、平成20年度は18件、平成21年度は現時点で8件の新規企業誘致に成功した。地元の中小企業と大企業の連携強化によって新しいビジネスチャンスを見出すとともに、ベンチャー企業に対しても専門家による評価を導入したり、新規事業への支援を行っている。

 また、農林水産業は昔から農村や漁村などと言われるように、地域経済や地域社会において大きな意味を持っているが、市場の変化に対応できるように改革が必要だ。例えば、農業分野において、スーパーや外食産業の取扱いが増大しているが、そこに向けて野菜を供給する場合には、周年で大量の野菜を供給する必要があり、生産方針の改革が必要である。また、新規の顧客開拓に向けて、県がマーケットアドバイザーに依頼して、マーケティングの推進も併せて行っている。水産業分野については、海面漁業が主体であるが、養殖の分野においても、高付加価値を図り、国際競争の下で製品加工や品質管理など、海外からの海産物に負けないように取り組みを進めている。また、林業に関しては、「干ししいたけ」といえば大分県というように、盛んであるが、森林が県の72%を占めており、地球環境の保全のためにも、よく守って、継承していく。


【5.新政権と地方】

 民主党政権は、地方主権をマニュフェストに記しているが、子ども手当ての導入や、後期高齢者医療・障害者自立支援法の廃止など、今後注視すべき問題は多数ある。また、地方における社会資本整備についても、必要性を強調している地方に対して一方的な事業中止が続いているため、説明責任を果たしてもらいたい。

地方にとっては、現在非常に難しい時代となっているが、大分県に住みたいという人を増やすための政策を行っていきたい。



 質疑応答

 

○民主党が打ち出している子ども手当ての導入について、扶養控除を廃止して財源とする予定と聞いたが問題はないと考えるか。

子ども手当てが支給される年齢の子供がいる家庭にとっては問題がないが、高校生や大学生、高齢者のいる家族は扶養控除が廃止されると大きな経済負担となるため、きちんとした財源の整理が必要である。

 

○小学校の頃に大分県に住んでいたとき、家族が地域コミュニティに入りにくいと言っていたが、その点の改善はなされているのでしょうか。

 従来、大分県は閉鎖的と言われてきたが、ここ10年でも企業誘致が進み、県外からの転居者も多くなっているため、人の交流とインターネットによって推進された情報化などによって改善されているため、現在ではそのようなことはないと思う。

 













 


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