知事リレー講義
ライン
   2009年 10月 22日   広島市 秋葉忠利 市長

 

 「 21世紀を都市の時代に
              -市民の力が世界を変えるー 」
 

 
 【はじめに】


政令指定都市は、よく都道府県と同列とされる。しかし、これは都道府県側の勝手な意見であり、政令指定都市は、学校の管理やゴミ収集、生活保護などの業務を行う基礎的自治体であり、市民の生活と生命を守ることが業務である。

なお、21世紀は都市の時代であり、政策の実現には市民の力が必要である。

広島市は、面積が905.13㎢、人口は約117万人、広島お好み焼きや広島カープなどで知られており、市内に多くの川が流れていて水の都である。世界最大の旅行ガイドブック出版社であるロンリー・プラネット社が発表した「世界で最も魅力的な都市ベスト200」の中で、日本からは3都市が選ばれているが、東京は近代都市として、京都は伝統的な都市として、そして、広島市は新旧の合わさった都市として紹介されている。

広島市が誇れることは、刑法犯の認知件数が減少し、少なくなったことである。昔は『仁義なき戦い』や暴走族など、治安の悪さが目立っていたが、平成20年には13,983件まで減少し、平成14年の29,071件に比べてほぼ半減している。これは、住民パトロールなどによる成果であり、交通事故件数も、平成20年には9,182件、死者36人まで減少している。

ビジネス誌の『週刊ダイヤモンド』では、「老後・病気」、「教育」、「生命・財産」、「経済」の項目で「ベストシティ」を厳選したが、広島市は、政令指定都市の中で第1位となった、また、NPO法人エガテリエ大手前が分析・評価した次世代育成支援対策推進法の行動計画進捗のランキングにおいても、総合ランキング第1位となった。さらに、総務省の行った情報通信技術(ICT)活用状況についても、広島市は、政令指定都市の中で第2位、全国市町村で第4位という結果となっている。



 【変革のための4原則】


 プリンストン大学のコーネル・ウエスト教授は、自身の著書の中で、アメリカ社会を変えていく上で必要だとする「変革のための4原則」について、次のように述べている。

1 変革のための力は私たちの中にある。歴史的な文脈も踏まえた上での私たちであり力である。

2 人類共通の生活・生命が大切――身近なところから始めて、多くの人と共鳴し、共に行動する。

3 こうした変革は子どもたちのためであるという大目的がある。

4 こうした変革を行う上で、勇気あるリーダー、“Better Angels of Our Nature”(私たちの中にある最善のもの)を引き出すことのできるリーダーが必要。

 これらは、米国のオバマ大統領の政策においても反映されており、これからの都市の政策においても必要になる。




 【広島市の財政と地方分権改革】


 

 広島市の財政は、広島でアジア競技大会が行われた1994年頃が最も深刻な状況であり、1998年までプライマリーバランスの赤字が続いていた。1999年に市長就任した後は市の借金返済に注力し、プライマリーバランスの改善に努めた。しかし、20037月に策定した中期財政見通しでは、2007年度には1,395億円の赤字となり、財政破綻が予測されていた。 

そこで、一般競争入札の導入、予定価格の事前公開、電子入札の拡大などの入札改革を行い、173億円の経費削減を行った。また、事務事業の見直しで249億円、投資的経費で753億円、人件費で139億円を縮減し、公債費の返済方法を変更することにより391億円を縮減して、さらに、市税の督促強化により29億円の税収の増額、施設利用等の受益者負担を増額し33億円を確保、その他未利用地の売却促進等で54億円を確保するなどの努力により、財政破綻の危機から脱することに成功した。 

しかし、広島県から一方的に県補助金をカットされたことは大きな問題となっている。広島県がカットした補助金は医療補助(乳幼児、一人親、重度心身障害者)に関するものであり、現時点では年間約5億円のカット、2010年度以降は約21億円の補助金カットとなることを通告された。広島県は、鞆の浦埋め立て工事などの大型公共事業に予算を配分する一方で、このような社会的立場の弱い人々に向けた補助金のカットを行おうとしている。

なお、他の市町村に対しては、全く補助金カットの話は出ておらず、広島市だけに対してカットを行おうとしているため、広島県とは社会的弱者の立場に立って交渉をしている。 

 三位一体の改革においては、広島市は、市税収入が74億円増えたが、補助金70億円と地方交付税204億円が減少したため、結果として年間2,000億円の収入のうち約200億円分について財政上の手当が必要となった。

国と地方の税収の割合は国6:地方4、支出に関しては国2:地方8であるが、税源を配分する力を持っているものが一番強い、これは銀行が預金者から集めたお金の力を背景に融資先を選択する力を持つことに似ている。 

広島市の予算編成においては、1995年度よりシーリングを導入していた。2003年度からは、外部の有識者からチェックを受けることにし、10億円以上の大規模プロジェクトについて753億円の予算削減に成功し、補助金についても4億円を見直した。また、2006年度からは、重要政策をシーリング対象外としたが、いくら重要政策といっても毎年対象外とすることには問題があるので、2008年度は地球温暖化・エネルギー対策、2009年度は雇用・消費者保護の分野を重要政策とするなど、年度ごとに重要政策を変えている。 

さらに、大阪府の橋下知事が問題視している国直轄事業負担金については、広島市では2004年度以降、広島市が負担する金額を53億円程度とすると申し入れを行い、国との間で合意がとれている。また、国直轄事業に対して、広島市側から政策の優先順位をつけ、尊重してもらうことにしているところである。 

なお、広島市では、厳しい財政状況ではあるものの、市民にとって必要なものは、重点的に取り組み、マツダスタジアム新築工事(総工費90億円)、市民病院増改築工事(総工費240億円)、広島市リハビリテーションセンター新築工事(総工費104億円)などの施設を建設することが出来た。

 




 【21世紀の主人公は「都市」である】

 

今の世界には、パラダイム転換の時代が来ている。これは「天動説」から「地動説」に転換した時と同じくらいの大きな転換である。

「報復」から「和解」へ、「国家」から「都市」へ、「専門家任せ」から「市民が主体」へ、「イデオロギー主導」から「人間中心」へ、「少数派意識」から「多数派としての自信」へ、である。 

例えば、アメリカ政府は地球温暖化防止のための京都議定書に署名していないが、シアトル市長グレッグ・ニケルズ氏は米国市長気候変動保護協定を提言し、現在969都市が署名している。各市が温暖化防止への取り組みを行うことによって、全米をカバーし、アメリカ政府全体で温暖化防止に取り組んでいる事と同じ効果をもたらすようになった。

広島市においては「カーボンマイナス70」という地球温暖化防止計画を策定し、2030年までに温室効果ガスを50%(1990年比)、2050年までに温室効果ガスを70%(1990年比)削減することとしている。

核兵器廃絶については、広島市と長崎市が主宰し、世界134カ国・地域と3,100を越える都市が加盟する「平和市長会議」において、2020年までに核兵器の廃絶を目指す「核兵器廃絶へ緊急行動(2020ビジョン)」に取り組み、「ヒロシマ・ナガサキ議定書」(20084月)によって、核兵器の取得や配備の即時停止、2015年までに核兵器の取得や配備を禁止する条約の締結、2020年までに全ての核兵器を廃絶することを目指している。

また、米国のオバマ大統領が2009年プラハで行った「核なき世界」の演説を受けて、オバマ大統領と共に核兵器廃絶のための多数派(マジョリティー)を形勢する「オバマジョリティー」キャンペーンを展開している。このキャンペーンでは、国や市民の声を核廃絶活動のエネルギーとして集めており、キャンペーンによる広報の強化と国際的PRを行っている。

さらに、核兵器の廃絶を願い、2020年にオリンピックを招致する計画を立て、今年長崎市で開催された第7回平和市長会議において、2010年を「ヒロシマ・ナガサキ議定書」採択の年とし、また、第62回国連広報局NGO年次会議に出席し、平和市長会議の取り組みへの理解と協力を求め、潘基文国連事務総長と会談し、核兵器廃絶に向けたメッセージを発信した。

イスラエルの元外務次官ウリ・ザビール氏は自分自身の経験から、市民参加の外交の重要性を示しており、米国の元外交官ポール・ウオンキ氏は、核兵器廃絶には政治的な意思の必要性を述べている。これらについては、オバマ大統領の誕生、市民の外交参加、都市や市民の力の発揮、そして今まで少数派だと考えていた平和を求める人々が多数派であったということに気付き、若い世代も参加することによって、現実的に可能となってくる。

核戦争によって世界が荒廃した姿を描いた映画『渚にて』(1958年)では、There is still time, Brother.というセリフが用いられていたが、現在の「核の臨戦態勢」を解決する時間は、まだ残されている。

 




 質疑応答

 

○オリンピック招致における、財政問題や交通問題など課題の解決については。

JOCIOCからは、これから色々な条件が出される可能性がある。財政面では、国家的な財政的な支援が必要である。また、世界中からの寄付を集めるのも一つの手段であるが、先ずは日本の代表として国内選考で勝ち残る必要がある。

○都市が大事にすべき政策は教育や経済か。

都市の役割は、市民のLife(生命、生活)を守ることである。しかし、日本の問題点は都市への財源付与が少ないことや、独自の教育・福祉政策にも国の許可が必要となる点である。

















 


Copyright(c) Ritsumeikan Univ. All Right reserved.
このページに関するお問い合わせは、立命館大学 共通教育推進機構(事務局:共通教育課) まで
TEL(075)465-8472