知事リレー講義
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   2009年 10月 29日   青森県 三村申吾 知事

 

   「 持続可能な社会を目指して 」
 

 
 【はじめに】


 地球温暖化を原因とする気候変動は、今や日本だけの問題ではなく、世界全体に影響を及ぼす問題である。米国では1970年代に石油使用量のピークを迎えているものの、中国やインドでは2010年代にピークを迎えるとの見込みがあり、今後、水・食料・エネルギーの需要は右肩上がりに増加すると予測される。このような情勢の下で、水・食料・エネルギーを青森県内で如何に確保し、強みとしていくか、青森県の挑戦についてお話したい。



 【エネルギー産業振興戦略】


環境問題について、青森県は、公の立場で取り組みを行うことで、解決の手立てを1つの産業として売り出していきたいと考えている。それは、資源小国である日本が脱化石燃料、脱中東を目指し、さらに政府が打ち出している温室効果ガスを25%削減するという目標達成にも、非常に大きな効果を与えるものと考える。

 青森県は、県内のエネルギー産業振興政策の目標を設定し、エネルギー関連産業の振興と、エネルギー資源の有効活用による地域産業の活性化を強力に推進し、地域の産業クラスターを形成することを目的とした「エネルギー産業振興戦略」を実施している。平成17年以降は、東京大学との連携によって、教員や院生で構成された30名ほどのチームがエネルギー資源の実地調査を県下で行っている。

 日本国内のエネルギー供給においては、様々な取り組みが行われているが、青森県においては、エネルギー循環型社会の形成に向けて、化石燃料に頼らない新たな発展モデルの形成に力を入れている。人口1人あたりのエネルギー消費量(年間)138 GJと全国平均を上回っているが、大きな要因としては一戸あたりの自動車の保有台数が23台であること、雪が多いため融雪パイプを使っていることなどが挙げられる。

雪かきについては、青森市は人口30万人が住む中核市であるが、年間積雪量が9mにも達するため、道路に融雪パイプを敷設し、温水によって雪を溶かしているため、大量の灯油を使用しているが、雪かき作業は大変な重労働であり、特に高齢者への負担の軽減も必要であるため、雪かきへのエネルギーの利用は止むを得ないと考えている。

また、「Triple50」では、国内における2030年の一次エネルギー供給バランスを化石燃料50%、原子力25%、再生可能エネルギー25%にするという目標を掲げており、化石燃料消費の割合を低下させる一方で、電力や熱回収利用によるエネルギー消費の割合を増やす必要がある。

そのため、「青森県エネルギー産業振興戦略」を策定し、津軽エリアでは「アグリバイオ」事業や「省エネ・雪対策」の実施、県南と下北エリアでは「環境・エネルギー」事業など地域の特性にあった事業を展開し、全県レベルでは「森林バイオマス」事業を行って、青森県のエネルギーポテンシャルを活かす事業を展開している。


次に、具体的な方法を述べる。

青森県は、福島県いわき市と並んで日照時間が日本で一番が長いという地の利を生かして、太陽光発電の分野で先端的な取り組みをしている。八戸市では発電量が東京や仙台より多く、また、東北電力のメガソーラー発電施設を誘致している。

ただ、ソーラーパネルの製造には希少金属の確保が不可欠であるため、将来的には海外での需要増大によって確保が難しくなる可能性があることから、地中熱や温泉の廃熱を利用した冷暖房システムの技術等をパテント化する努力も行っている。

 さらに、年間を通して風力が確保できるため、県内各地には多くの風力発電施設が建設されているが、風力によって発電された電気は電圧が安定しないため、パソコンや電子機器に悪影響を与える恐れがあり、一般の発電所で発電された電気と混ぜることができない。

 そこで、青森県では日本ガイシ㈱と協力し、蓄電池を併設した風力発電機を六ヶ所村に設置し、蓄電池併設型ウインドファームを世界で初めて実用化した。しかし、日本のメディアはほとんど取り上げず、逆に中東のアブダビ王国が興味を示し、5万人規模の町を新たに開発する際のエネルギー供給のシステムとして導入したいとの申し出もあった。

申し出はお断りしたが、青森県内でも旧国鉄用地を利用した100戸規模の住宅地を造成する予定であり、このシステムで全戸の電力をまかなうことを目標にしている。

将来的には、低炭素社会に向けて、電気自動車を地域社会で利用することを目指しており、新日本石油㈱や三菱自動車工業㈱などの企業は青森県内で車両やシステムの耐寒試験などを行っている最中であるが、車両自体が発電システムの蓄電設備となる電気自動車には大変期待している。




 【攻めの農林水産業】


 
 食料は最大級の戦略物資であり、砂漠化などの影響により食料を生産できる場所自体が減少しているため、今後ますます価値が高まる可能性が高い。

 青森県は良好な気象条件や土壌、豊かな漁場に恵まれており、生産者の高い技術力も相まって全国有数の食糧供給県として知られている。

国内の農業は米作りに注力する地域が多いが、青森県の太平洋側はやませの影響を受けるため、肉牛や競走馬の生産には適しているが米作りには適していないため、米から他の商品作物への転換が行われ、バランスの取れた農作物の生産が可能となった。

知事就任以来「攻めの農林水産業」を掲げて県庁内に総合販売戦略課を設置し、消費者に対しては「美味しさ」「安心」「安全」「誇りある仕事」をお届けすることを約束すると同時に、徹底して良い農作物を作ることを目指し、また、農作物を加工して販売することによって付加価値をつけ、新たな雇用創出に尽力している。

攻めの農林水産業に必要なものは、いのちの源である水づくり、農業を支える人づくり、そして農作物を育む土づくり、この3つの要素である。水づくりには50100年、土づくりには30年が必要になるが、これは未来につなぐ3つの大きな基盤であるため、真剣に取り組んでいる。

また、自給率の向上のために、大豆や飼料米等の生産力強化、ワイン用ブドウの生産など新たな農作物の生産に取り組む一方で、従来生産していた米においてはリーモートセンシングによる農地の評価を導入し、効率的な生産に向けてトヨタ自動車㈱のような「ムダとり」「カイゼン」に取り組んでいる。

さらに、農家は、地球温暖化などによる農作物への被害を未然に防ぐために、リンゴの新品種を2,000種類ストックしているほか、台風が到来する前に売り上げを確保するために白桃の生産に着手するなど様々な取り組みを自主的に行っている。

山・川・海をつなぐ水循環システムの再生・保全については、八甲田山や白神山地などの森林が雨や雪をたくわえ、その水が農作物や海産物を育てていることを考え、戦後伐採されたブナ林の再生や漁場の再生に注力し、農林水産業を支え地域の環境を守る「環境公共」への取り組みを行っている。

 



 【環境公共への取り組み】

 
環境公共では、地域コミュニティーを守り、生産基盤と生活環境を守ることに力を入れることが重要で、イギリスの旅行家イザベラ・バードが絶賛した日本の原風景を取り戻したい。

 森林の整備に関しては、従来は杉やヒノキなど家を造るために見栄えがよくて品質も良い木が選ばれていたが、木材価格の下落によって手入れが行き届かず、CO2の吸収率も下がっている森林が多数存在する。そのため、これらの森林を地球温暖化防止機能や災害防止機能の高い複層林や混交林へと変えていく取り組みを行っている。

 また、経済性と効率性を追求した結果コンクリート三面張りになってしまった用水路では、生物やプランクトンが全く住めなくなったため、生物が住みやすい水路ネットワークを自然石や自然材を使い地域住民の手を借りながら整備している。

 さらに、海においても、ホタテの貝殻を利用した漁礁の設置などを行っている。


 【おわりに】


21世紀は、環境保全がテーマとなる。その中で青森県は、健全な水循環システムを確保するために環境公共を推進している。

しかし、民主党政権は一律に公共事業というだけで切り捨てようとしており、このような動きには現場を見てほしいと言いたい。

青森県は、世界的トップレベルの技術力を持っている会社があり、ガンの診断機器を作ってハーバード大学と取引をしている会社や蓄電池を作っている会社など、一見して日本国内では目立っていない企業が、海外で貢献をしている。

県下で除虫菊を生産している住友化学㈱は、工場をアフリカに建設し、現地の人々をマラリアから守る蚊帳を生産しているが、これは同時に、現地に雇用を創出するということにもなっている。

日本は、技術力、素材製造の力が強いことから、自衛隊の海外貢献も重要だが、世界の人々に民生的な支援を行うことの方が大切であると考える。

「日本は何が出来るか」「自分は何ができるか」、昨年亡くなられた作家の岡部伊都子さんの担当編集者であった私は、平和を大切にされておられた岡部さんの思いを継ぎ、この思いを忘れずに仕事に取り組みたい。




 質疑応答

 

○青森県では、なぜユニーク企業や技術力の高い企業が多いのか。また、これからの公共事業についての見解を聞きたい。

  青森県民は生真面目でコツコツやるタイプが多い。また作家の太宰治などを輩出するなど芸術面に秀でた人物も多いため、発想やアイディアがよく出るためだと考える。また、公共事業は産業ネットワークの構築や医療、災害防止のための公共事業は必要だと考えるので、ぜひ民主党の議員にも現場を見てもらいたい。

○原発の問題点についてはどのようにお考えですか。

 CO2排出量のことを考えれば、それでも化石燃料を使わないほうが良いと考える。日本はエネルギー自給率がわずか4%であり関西地方での消費電力の50%は原発によって発電されている。民生用のエネルギー使用量の増加は抑えられないため、核燃料の再利用等を考える必要がある。


○再生エネルギー生活は実現可能か。

 講演でも述べたように、青森県では旧国鉄の跡地を利用した住宅地の造成に着手しているが、参加資本は足らないので、造成後の生活と住宅の維持に必要なコストを再検討し、参加企業を募りたいと考えている。
















 


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