知事リレー講義
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   2009年 11月 12日   立命館大学 公務研究科教授 今仲 康之


 
 【はじめに】


 今回は、地方自治・財政の制度と地方分権改革推進委員会の勧告について説明する。

「身近さ」と「広がり」という図を見てもらうと、住民の一番身近なところにコミュニティや地域自治区があり、市町村、都道府県、管区(道州)、国と広がっていく。

また、このような広がりを見ると、市民は同時に国民であることが分かる。

今回の説明では、このような広がりや市民・国民の関係を意識しながら聴いて欲しい。



 【 
市の特例、市町村の事務の共同処理、市町村合併 】


市町村合併によって市町村の人口や面積は大きくなってきている。

市については、特例市は人口20万人以上、中核市は人口30万人以上、政令指定都市は人口50万人以上、ただし現実には人口約70万人以上で、これらの市では、都道府県の事務の一部を市が行うものとなっている。

また、市町村の拡大に伴い、市町村の中に地域自治区を設けることができることとされ、一定の意見の取りまとめを行うことができるようになっている。 

さらに、市町村レベルでは、一部事務組合や広域連合によって、市町村の枠を超えた行政上の問題に対して共同で事務を処理することができるようにされており、都道府県レベルでも、同様であるが、広域連合を設けると、国の事務の委譲を受けることができるようになっている。

明治21年の時点で、全国の町村数は71,314であった。
 明治22年、市制町村制の施行によって、市町村の仕事は教育・徴税・土木・救済・戸籍などで、そのうち最も大きな仕事が小学校の事務であり、「明治の大合併」として、約16,000に集約された。
 その後、時間の経過とともに町村数は徐々に減少し市が増加した。

戦後においては、新制中学校を創設することとなったため、新制中学校の管理・運営が出来る程度に市町村の合併が行われ、「昭和の大合併」となった。

町村合併促進法が施行され、昭和319月には市町村数が3,975となり、それ以後、市町村数は3,200程度で推移した。 
 平成11年には、地方分権一括法が制定されたが、併せて市町村の合併の特例に関する法律の一部改正も行われて、平成の市町村合併が始まった。

その時点で3,200程度であった市町村数は、平成223月には1,742となる予定である。
 このように市町村合併が進められた要因として、地方分権の推進が上げられる。個性ある多様な行政施策を展開するためには、市町村に一定の規模・能力が求められ、独自で必要な財源や人材の確保が可能となる規模の大きさが必要となった。   




 【 地方分権改革推進を取り巻く環境 】


 

地方分権改革推進委員会の勧告は、基礎自治体への権限委譲を推進することとし、また、自治行政権、自治立法権、自治財政権を確立して、それぞれの地域で自分達の判断と自分達の責任で自治を行うことを目的としている。
 地方自治体は、今まで、国の作った基準や枠組みによって、行政を行わなければならなかったが、これからは、各地方それぞれの状況に対応して、自治立法権を行使することにより、課題に対応していくことができるようにするということである。 

さて、現在は、グローバル化、情報化、地球環境保全、省エネ・省資源・新エネ化などにより、明治維新や第二次世界大戦後の日本国憲法施行に並ぶ、大転換期である。 

また、日本は、人口減少、少子・高齢化の時代に入ってきている。
人口が増加するのと減少するのとでは、国や地方の計画の枠組みは大きく変わってくる。例えば、人口が増加する場合には、施設の増設が必要となるが、人口が減少する場合には、逆に余る施設が出てくるなど、対応が変化する。 

日本国全体で見てみると、今のままで行くと2050年には、高齢化率は40%と推計されている。現時点で、地方の限界集落では、高齢化率が50%を超えて、社会の維持にも困難をきたしているが、このままでは、今後の日本は大変厳しい状況になる。 

多様化・高質化というのは、経済が成長し、生活水準が上がってくると、均質化した標準的な選好から、人々の選好が多様化し、また、求めるものの質が高くなってくることである。このようなものの考え方は、経済における商品の選択だけではなく、社会的な要求にも現れてくる。 

フロントランナー化とは、日本が、世界の中で、先頭に立って走っているということであり、キャッチアップ時代のような、先進国があり、そこへ効率的に追いつけという時代ではなく、したがって、自ら創意工夫し、危険負担を担って、行動していかなければならなくなったということである。 

キャッチアップ時代には、全国を通じて、均質的に、行政水準を引き上げていくことが重要であり、中央集権に適した環境であったが、フロントランナーとなった現在では、それぞれの地域で、いわば最先端の課題に、自ら知恵を絞り、試行錯誤して、課題解決を図っていかなくてはならなくなってきており、地方分権が大切となっている。 

皆さんは、今までの各知事や市長の講演について、世の中の変化に対応して動いているということを感じられただろうか。
 例えば、広島市長は、都市が、グローバルにつながり、国家を超えて、連帯することを話しておられた。また、青森県知事は、講演の中で、地域全体の環境問題やエネルギー問題に取り組んでいることを紹介しておられた。

 環境問題やエネルギー問題などにおいて、科学技術の分野で、日本は、フロントランナーとして、技術的な強さを持っている。
 かつて、日本は経済に関して、最先端を行くにはリスクがあり、創意工夫が必要となるので、1.5流の方が良いといった評論家がいたが、現在それでは、中国やインドなどの国々に簡単に追いつかれてしまう。このため、科学技術の最先端の分野に対して、投資し、研究し、開発していくことは、大切だといわざるを得ない。


地方制度調査会の道州制答申と地方分権改革推進委員会の国の出先機関の見直し

 

地方制度調査会の道州制答申では、市町村合併の進展、県を越える広域課題の増大があり、国から地方へという「新しい国のかたち」を構築するために、道州制の導入を適当としている。

まず、現在の都道府県の事務は大幅に市町村へ移譲し、また、国の出先機関の事務はできる限り道州に移譲する。

道州が担う事務のうち、社会資本整備関連では国道・一級河川・第二種空港の管理、産業・経済では中小企業対策、地域産業政策、観光振興政策、農業振興政策、交通・通信では自動車運送、内航海運業の許可、雇用・労働では職業紹介、職業訓練などの事務は、国から道州に移譲するものとしている。 

また、地方分権改革推進委員会の勧告では、国と地方の役割分担を見直し、住民の身近な行政は地方へ委譲し、二重行政の弊害については徹底排除して、国と地方を通じた行政の簡素化・効率化を図る。
このため、国の出先機関は府省を超えて総合的な統廃合を行うものとし、廃止されるものと存続するものに区分して、廃止されるものについては、地方振興局、地方工務局、その他のブロック機関に統合するものとしているところである。

 


 【 国と地方の法制上の関係 


日本国憲法第92条にいう地方自治の本旨とは、団体自治と住民自治のことである。つまり、国とは別に、地方公共団体において、その住民によって、自治が担われるべきことを定めている。

93条では、議事機関としての議会の設置、長や議会の議員については、直接選挙とされている。
94条では、自治行政権、自治立法権、自治財政権に関連して、地方公共団体の権限について定められ、法律の範囲内で条例を制定することができるものとされている。

国の法令と地方自治体の条例に関しては、徳島市公安条例事件の最高裁判決において、その趣旨・目的・内容・効果を比較して、国の法令に条例が適合しているか否かによって、条例の適法性を判定するものとされている。

このため、条例による、上乗せ、横出し、裾切りへの措置といった規制について、それが適法か否かは、そのような総合的な判断によって行われることとなる。

国の基準や枠組みが、一律の内容を義務付けている場合には、地方公共団体は、それに従わざるを得ない。

しかし、それぞれの地方公共団体が置かれた状況は必ずしも全く同じというわけではなく、それぞれの状況に応じて適切な対応を地方公共団体が取れるようにするためには、一律の義務付けを標準的な基準としたり、条例によって、それぞれの地方公共団体が、それぞれの状況に応じた対応が取れるように、制度を変更すべきである。

地方分権改革推進委員会では、自治事務につき、国の義務付け、枠付けについて、国の法令を「上書き」する範囲拡大を含む条例制定権の拡充を、制度ごとに具体的に勧告している。
 


 【 地方自治法の体系 


補完性の原理や近接性の原理からすると、まず最も身近な市町村で課題を処理することとし、市町村の範囲では処理が難しい課題は、都道府県といった広域の地方公共団体が処理し、それでも処理できないものを、国が処理をするわけで、地方自治法(以下「法」という。)第1条第2項においては、国として処理すべきものが例示され、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体に委ねることを基本とするものとされている。

 現在、地方公共団体が行う事務は、自治事務と法定受託事務の2種類である。

しかし、地方分権一括法による改正までは、知事や市町村長が大臣の下部機関として位置づけられ、通達によって拘束される機関委任事務が存在していた。

この機関委任事務の廃止によって、各地方公共団体が自ら事務を行う範囲が広がり、国と地方公共団体の関係が、上下の関係から対等の関係へと変わってきたのである。 

法第12条では、住民による条例の制定改廃請求権が定められているが、地方税や分担金・使用料・手数料に関するものは除く旨、条文中の括弧書きで記している。

これは、住民から、税金や手数料の引き下げを求められれば、自治が立ち行かないという観点から記されているが、そもそも受益と負担の関係から言えば、行政サービスに対して住民がその負担をするものであり、条文中の括弧書きは、住民自治の観点からして、廃止すべき時期に来ている。

 法第100条は、議会の調査権に関する規定であるが、議会は、関係人の出頭や証言、記録の提出を求めることができる。議会と長の二元代表制からして、議会には、このように、調査のための重要な強い権限が与えられている。

 法第180条の5は、執行機関としての委員会及び委員についての規定である。

このうち、監査委員は、地方財政の健全性を保つ上で非常に大きな役割を担うべきものである。また、法第252条の27では、外部監査も可能となっている。

さらに、法第242条では、住民監査請求ができ、その結果に不服があれば、法第242条の2により、住民訴訟を提起することもできる。

 これらの監査関係の仕組は、地方財政の健全性を保つために、執行機関などとの牽制において必要なことから措置されている。 

また、執行機関のうち、教育委員会と農業委員会については、地方分権改革推進委員会において、住民に対してうまく責任が取れているといえるのか、必置規制を見直して、長の所管とするかどうかを、地域の実情に応じて、地方公共団体の自主的判断にすべきとの勧告がなされているところである。



 【 地方自治体の財政と税制 


地方公共団体の昭和60年度~平成19年度の決算状況について、見てみる。

 歳入を見ると、地方税収は、平成3年度までは増加を続けたが、その後、減少し、また増加し、また減少する中で、比較的なだらかな状況であったが、平成1819年度には増加した。地方交付税は、平成12年度までは、なだらかに上昇し、13年度からは、少し急勾配に減少している。国庫支出金は、なだらかに上昇し、平成11年度をピークとして、少し急勾配に減少している。

地方債は、平成7年度にピークがあり、そこまでは急勾配に上昇し、そこから減少していったが、その後は、また増加し、平成15年度を次のピークとして、少し急勾配に減少している。このように、平成7年度がピークで、平成16年度から減少しているのは、地方のインフラ整備が、ある程度出来上がってきたことによるものと考えられる。 

このことは、地方財政の借入金残高の状況を見ても、平成1617年度が201兆円でピークとなっており、平成181920年度と199兆円、197兆円、197兆円と減少していることからも分かる。 

歳出について見ると、教育費については、平成8年度がピークであるが、なだらかにそこまで上昇し、また少しずつなだらかに減少している。それに対して、土木費は、平成7年度がピークで、そこまで概ねかなり急勾配に上昇し、その後、少し減少して、平成11年度からは急勾配に減少している。民生費については、平成11年度と12年度で、制度の変更に伴う一旦の減少があるが、全体の期間を通じて、急勾配に一貫して上昇している。公債費については、民生費と同様にかなり急勾配に上昇してきたが、平成17年度でピークを打ち、その後減少してきている。

  これから言えることは、教育費は、横ばい傾向で推移しているが、少し減少気味である。土木費は、公共事業の拡大により、急激な増加を見せたが、その後は行政改革から、かなりの減少を来たしている。民生費については、高齢化の影響により、扶助費などが増大しており、一貫して急ピッチに増加している。公債費については、公共施設の整備、公共事業の拡大により、地方債の増発が行われたが、その後減少傾向となっており、地方債借入残高が、ピークを打ったことに伴い、減少傾向にあるということである。 

 次に、これからの地方自治を考える上で、また、国と地方公共団体との関係を考える上でも、税というものをどうするのかは、大きな焦点である。

地方税については、所得に対して課税する都道府県民税、市町村民税、資産に対して課税する固定資産税、消費に対して課税する地方消費税などが存在するが、国税と併せて、所得、消費、資産に、バランスよく課税を行うことが重要とされるが、現状では、消費に対する課税はまだ比較的小さいものである。 

長期的に税制を考えれば、地方分権改革推進委員会が勧告で示しているように、地方の自己決定、・自己責任には、地方税の充実が最も重要であり、応益性を有し、薄く広く負担を分かち合うもので、地域的な偏在性が少なく、税収が安定した税目が望ましい。
 税において、このような性格を有しているのは、消費税であり、したがって、地方消費税による地方税収の確保が望ましいということである。
 この点は、長野県知事が講演の中で強調されていたとおりである。

 
















 


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