「 分権時代の地方税制改革
-目指すべき方向と現実のはざまでー 」
私は滋賀県副知事に就任して約4ヶ月となる。副知事は、議会の承認を得て知事が任命する特別職の公務員で、各道府県に1~3人、東京都は4人置いており、任期は4年。他の公務員に比べて給与が高いが、滋賀県の場合は財政難によって、給与は条令に規定している額より15%カットとなっている。
副知事の職務は、知事を補佐することとなっており、知事の決断に対する助言や情報収集だけに限らず、土日も式典に知事の代理で出席するなど、非常に忙しい仕事ではあるがとても面白い仕事であるといえる。
私は、総務省で5年間地方税に関する部署に在籍していたことから、今回の講義では地方税に関する話を中心に進め、皆さんに地方税の理解者になってもらいたいと考えている。
地方税は、非常に縁遠い存在に思われがちだが、皆さんにとっては非常に身近な存在であり、最近では11月9日に出た地方分権改革推進会議の第4次勧告においても取り上げられている。
地方分権に関する議論は難しいところもあるが、地域が自分達のことを自分達で決める際に障害となる国の権限などは、廃止・修正することである。
平成11年に国の機関委任事務制度が廃止された、この制度は地方自治体を国の手足として使うことを規定していたものだ。
国と地方の関係においては、事務の分権化が先行していたが、仕事をやる上で必要なのは投入する資源である税財政であり、地方分権改革推進委員会でも、予算に関することに重点が置かれている。
地方の歳入の内訳は、地方税、交付税や譲与税など使途を限定しない歳入と、補助金など使途制限がある歳入との2つに大別できる。
皆さんに置き換えて話をすると、地方税は自分自身が稼いだアルバイト代であり、自分自身で使えるお金を増やしたいという希望があると思う。
三位一体の改革は、地方税と補助金と地方交付税を取り扱った。
平成15年の時点では、国と地方の財政再建をやっていたため、地方税として振り替えた3兆円に対して、補助金を3兆円以上削減し、地方交付税も一部削減した。
これまで、地方税における改革は三位一体の改革のみであり、今まで誰にも出来なかったことをやったという点では、三位一体の改革をある程度評価しているが、地方税制改革自体はまだ実現していない。
その後、地方分権改革推進委員会を立ち上げ、委員会からの勧告が出れば、国が地方分権計画を提示する必要がある。
第1次勧告では、自治財政権の確立をいい、第2次勧告では、自治行政権と自治立法権について勧告を行ったため、地方自治体はかなりの期待を抱いた。
11月に出た、第4次勧告の内容は抽象的に書いてあり、具体的に実施するための内容が記されていないが、地方税制改革は、国税と地方税を一緒に改革しなければならない。
経過のまとめとしては、地方税の改革は地方自治体の多くが望んでいるが、大変難しい分野であるということである。
地方分権改革推進委員会の勧告においても、地方税を増やすように述べている。
税収は国6、地方が4の割合であるが、事務の割合は国が4、地方が6の割合である。
また、租税総額と国民へのサービス還元との間に50兆円ほどの差があるため、歳出の3分の1は借金で賄われている。
そのギャップを埋めるのは、支出を減らすか歳入を増やすかしか選択肢が無い。
国債残高は約550兆円、地方債残高は約200兆円存在し、景気対策への支出の増加と税収減によって、GDP比1.5倍の債務額を負う可能性がある。
次に、地方の歳入のことについて眺めてもらいたい、地方税収を増やすことに反対する学者や政治家は殆どいない。
地方税については、自分たちの仕事を自分たちでやるという民主主義の考え方を貫徹すること、使うお金を自分たちで考えれば行政の無駄が省けるということである。
これは、他人から貰ったお金はすぐに使うが、自分が稼いだお金は吟味して使うことに似ている。
今、事業仕分けにおいて何をやっているのか、これは国の歳出の中で、無駄なものを削減することを目的としている。
滋賀県でも3年前に事業仕分けを行っており、国が行った事業仕分けの仕分け人の中に前滋賀県高島市長がいる。
国で事業仕分けをやる場合は、パフォーマンス的になっているが、高島市で行った事業仕分は直接住民と接しているため、非常に大きな意味をもっていた。
アメリカでは、特定の事業をやるために税金を上げることを説明する。
カリフォルニア州の知事であるアーノルド・シュワルツェネッガー氏が税収の落ち込みに対応して、公務員の削減と役所の窓口閉鎖という選択肢か、それとも州の事業を削減するかの判断を、州議会にもとめたが、いまだに結論は出ていない。
地方税においては、税金と仕事を同じ次元で話をして、お金の入り口と出口について同じ舞台で議論することにより、無駄が省ける。
例えば、補助金については沢山の申請書類を書く必要があるが、事務の効率性を確保するためには、地方税の方がよい。
補助金は、関係書類の作成に多大な時間と人が投入されるだけでなく、意思決定が不透明である。そこで、補助金を地方税に変えれば、書類準備に要する時間と人が省けるだけでなく、誰の意思決定により事業が進んでいるのかはっきりする。
地方自治体においては、地方議会の自己決定権と税金の賦課徴収が必要だ。
慶應大学教授(前鳥取県知事)片山善博氏は、いつも賦課徴収に関する話をして、地方消費税は自ら汗をかいて徴収していないのでよくないと主張している。
道路特定財源の一般財源化によって、平成21年4月より自動車取得税と軽油引取税が一般財源化されている。
日本の場合では、国と地方の課税体系において重複している部分が多いが、固定資産税が唯一異なる存在である。
世界を見渡すと、イギリスの地方自治体はカウンシル・タックスと呼ばれている固定資産税をベースにした税金のみで、所得課税権限がないが、日本の地方自治体は、世界で一番仕事量が多く、特に沢山の予算が必要な福祉、教育分野のウエイトが大きい。
片山氏は、固定資産税を増やすべきだと言っていると思う。私は、総務省の固定資産税課長をしていた経験から、これ以上増やすのは難しいと思っている。
固定資産税は、土地、建物、償却資産に課税しており、10兆円程度。これは、所得と関係ない税金であるため非常に徴収しにくく、経済的な事情で課税は出来るが支払えない企業や個人もいる。
地方税は、もともと必要な費用を皆で分かち合うシステム(応益負担)である。
応益負担は、利益サービスを受けているものに対する税ということであり、一般的なものは1人あたり3,000円/年支払っている住民税の均等割り部分、固定資産を持っている人に、消防やゴミ処理のサービスを受けているという視点から課税をする固定資産税などである。
海外の例を挙げるとイギリスのサッチャー政権は、固定資産税から税の捕捉をしやすい人頭税に換えようとして、非難を受けた。
収入ベースで考えると、可処分所得や控除の問題が存在し、前述したように国の税と地方の税が同じものに乗っかっているものが多いため、なかなか単独で見直すことが出来ない。
地方税収の偏在性については、地方税は地方公共団体の経済力により影響を受ける。
東京都千代田区と田舎の山村を比較すれば、双方ともに住民票上の住民は少ないが、昼間人口で言えば千代田区は数百万人であり、経済力の強い千代田区には税金が集まる。
滋賀県は、来年度予算における税収については、4分の1が景気の悪化によって減少する見込みである。
地方自治体においては、景気変動の少ない地方消費税が一番望ましい、またこれによってどのような地域でも税収が確保できる。
第4次勧告では、地方税としては税率の自己決定、賦課徴収があることが良いというものの、どの地域にも税収があるというものは少ないので、現実的には地方消費税しかない。
現在の地方消費税は、地方自治体ごとに税率を決めることは出来ないが、地方自治体はこれから福祉の仕事が多くなり、毎年安定的な税源が必要で、皆で負担する必要がある。
○ 企業が少ない地方では税収の確保が難しいのか。
法人2税は、事務所がある地方自治体が課税しており、都道府県間の格差は6.6倍となっている。
一方、地方消費税では都道府県間の格差は1.8倍と、全国的に均衡の取れた課税が可能である。
消費税は、企業が地方消費税を加味した分を税務署に申告するが、都道府県間では最終的な清算 を行っているため、個人の消費活動の度合いによって税収が決まる。
○ スウェーデン等の税負担が大きい国に対する意見は。
スウェーデンは、所得税の税率も高く、また消費税は25%である。
選挙を行うと、所得税増税を訴える政党の方が選挙に強い。表の理由は政党、政府に対する信頼が高いということが言えるが、裏の理由としては所得税の課税対象となる人口が少なく、住民税の課税対象者も少ない。
つまり、スウェーデンでは、選挙民の多くの人は税負担額以上の公共サービスを受けたいと思っているということである。
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