知事リレー講義
ライン
   2009年 12月 10日   地方自治研究機構会長

 

   「 国土縮図型都市 ”浜松” の未来と課題 」
 

 

【 はじめに 】


浜松市は、12市町村が合併し平成19年4月に政令指定都市となった。面積は、岐阜県高山市につづいて全国2番目の大きさ、ある東大の先生からは国土縮図型の地方自治体と言われている。

 

全国の政令指定都市は、京都市を始めとして、大阪市、神戸市、名古屋市などが挙げられる。しかし、浜松市は先述したような都会を中心とした都市とは異なり、4つの過疎地域と86の限界集落を抱えている。これは、新しい形の政令指定都市である。

 

今回の講義では、事業仕分け、マニフェストなど浜松市の話にこだわらず、これからの行政のあり方全般について話をしたい。




【 政治への志と松下政経塾 】

私は、もともと両親が教員で政治には無縁な世界で生まれ育った、そんな私が政治の道を志すきっかけとなったのは松下政経塾である。

創設者は、松下電器産業の松下幸之助氏。私達の子どもの頃は、知っている人がほぼ100%であり、世界的に有名な経営者であった。

1980年初頭、日本は世界一の経済大国であった。ハーバード大のエズラ・ヴォ―ゲル教授の著書「ジャパンアズナンバーワン」が、有名になった時代である。

この時に、当時85歳であった松下幸之助氏がこのままだと日本がだめになると日本の将来を危惧し、設立したのが松下政経塾である。

私は、松下政経塾の第一期生である。ここ京都にも国土交通大臣の前原誠司氏(7期生)、外務副大臣の福山哲郎氏(11期生)、山井和則氏(6期生)などの仲間がいる。

彼らは全員民主党議員であり、私も以前民主党に所属し、2期5年衆議院議員を務めたが、前々回の郵政選挙で落選し、その後浜松市長選挙に出馬し、平成19年5月に市長に就任した。



【 地方自治体から見る国政 】


 

国会議員として国政を見てきたが、基礎自治体の首長として活動していると両方のことがよく解る。国会議員時代は、行政の現場のことは知らなかった。

国が中央集権で統制する時代は終わり、今は下からの積み上げの時代であるという理念は大変すばらしいが、民主党がやろうとしている政策が本当にその理念に適しているか、それを地方自治体の側から見る必要がある。

地方自治体の首長として行政運営をしながら国を見た場合、基礎自治体の業務の方が格段に進んでいると感じる。それは、地方自治体が市民に身近な存在であり、規模が適正であるためスピードがあるためである。

現在、やっと国が地方自治体の真似をしている。例えば、今回の選挙は、初めての本格的なマニフェスト選挙であった。ローカルマニフェスト運動は、元三重県知事の北川正恭氏が発端である。今の市長選挙や県知事選挙ではマニフェストが無ければ選挙戦を戦うことは非常に難しい。

マニフェストは、政権をとったら有権者にこれをやりますと約束をしている。昔から政権公約というものがあったが、「子どもの笑顔が輝く教育」など具体性にかけるものが殆どであった。

マニフェストは具体的に何をやるか、政策を実行するために必要な税源や工程などを示す必要があるため、浜松市では、工程表を作成した上で、色々な項目に予算をつけていく。また、進捗状況も市民に公開している。

昨年は、マニフェスト大賞において首長部門で第1位を取った。

このマニフェストは、既に地方選挙で行われていたものを国政選挙において行ったものであり、地方に遅れて国がやったものの1つであると言える。

また、事業仕分けについても既に地方自治体がやっている。浜松市においても、シンクタンク「構想日本」の加藤秀樹氏を呼んで1年半前に実施した。

「構想日本」の仕分け人と住民の代表を交えて事業仕分けを行い、2日間で約8,000万円を削減できた。浜松市にとって初めての事業仕分けであったが、市民に(行政が行う事業への)関心をもってもらうことができ、よかったと思う。今後は仕分け対象を、全事業へと拡大していきたい。

特に基礎自治体における事業仕分けはやりやすい、なぜなら地方自治体の歳出は関連団体への補助金、イベントや祭りへの補助金など、国の歳出とは異なり歳出の目的が明確であるからである。




 【 国会議員時代の経験 】

 

色々な委員会で特別会計の無駄や必要のない特殊法人について追求を行ったが、私が国会議員であった頃の民主党は野党であり、発言してもマスコミも書かなかった。

 だが、今回は先ず始めに与党が事業仕分けを実施したため、実現可能性が高い。実現性の担保がありメディアに対しても公開した。

事業仕分けには、①事業(の目的)自体意味がない、②事業の目的自体は良いがやり方が悪い、あるいは中身が悪い、③文句が言えないようなもの、以上の3つが存在する。

例えば、科学技術、教育、福祉などの事業に対しての事業仕分けに対しては、目的が良いので普通はひるむ。官僚も頭がいいから、きれいに目的を書いてくる。民主党参議院議員蓮舫氏はスパコンが世界一で無ければならないのかと言った。科学者たちは反発したが、私も蓮舫氏の意見に賛成だ。

私は、科学技術をもっと振興させる必要があると考えるが、1千億円も費やすスパコンが必要かどうか検討する必要があると考える。スパコンで飯が食えるのか。

なぜなら、科学技術にも色々な分野があり、世界の最先端レベルから比較すれば科学分野ではすでに2流国となっているからである。

しかし、世界の最先端レベルに位置する環境技術は世界一にする必要がある、これが先に述べた中身の問題である。環境分野において日本の技術力は世界一であり、こういったところにお金を費やすべきだと考えるが、全体の中の位置づけについて、マスコミはまったく報道しない。

日本においては、特殊法人に予算を付けた後、間接的に研究機関や大学に予算を付けるという形が採られているので、1,000億円の予算に対して600億円程度しか研究機関や大学の手元には付与されない。これは、特殊法人が間を抜いているからだ。

私が経済産業委員会にいたとき、石油開発公団の大改革をやった。これが成功した背景には、元通産大臣で自民党衆議院議員の堀内光男氏が問題提起をしたからだ。

日本は天然資源が乏しく、石油のほぼ100%を輸入している。戦後の日本で繰り返し主張されていたのは「日の丸油田」を日本が持たなければならないということだった。

つまり、日本がリスクを負って石油開発をするという目的は非常に良いが、この大義名分の下にめちゃくちゃな経営をやった。

石油鉱区ごとに会社をつくり天下り役人を入れる、4~5年で2000万円/年の報酬と数千万円の退職金を支払った。

会社があれば利権が存在し、結果的に2兆円をロスした。官僚は、石油開発は1000分の3であると言う。

しかし、アメリカのオイルメジャーは過剰投資をする前に失敗したら引き下がるという経営方針であるが、日本は上からお金が降ってくるから失敗してもしなくても関係ない。

日本より後発の国策石油会社であるインド石油や中国石油は非常に良い成績を上げている中で、石油公団は失敗をし続けた。

今までの日本のような構造が許された理由は、国民に国の状況が見えてこなかったことが原因である。




【 浜松市の現状 】


スズキ㈱、ヤマハ㈱、㈱河合、これらは全て浜松で出来た会社。本田技研工業㈱も本社を東京に移したが元々は浜松に本社があった。現在は、浜松ホトニクス㈱という会社が有名になっている。

農業生産額も全国4位、非常に高品質な果物や農作物を作っている。

現在、全国には18の政令指定都市があるが、浜松の自慢は自分達の力で大きくなってきたことだ。他の政令指定都市は県庁所在地に位置しており、大都市の堺市や川崎市もベットタウンである。

浜松市は静岡県の最も西端に位置しているが、スズキ㈱、ヤマハ㈱、㈱河合などの企業が大きく成長してきたことで浜松市も成長してきたため、自立型の自治体といえる。

浜松市はどんな行政形態に変わっても問題はない、今までの道府県庁所在地は道府県が道州制の導入によって不利益を被るため、内実は地方分権に反対している。

浜松市は平成の大合併を環浜名湖で実施し、北端は長野県境へと伸びた。

都心部もあれば、農村部もある、豊かな漁場も存在し遠州灘で育ったふぐを下関に贈るなど漁業も盛んである、山の方へ行くと大きな森林がある。まさに国土縮図型の地方自治体といえる。

政令指定都市は、名古屋、京都、大阪といった大都市のイメージが有るが、これは国の詐欺だと考える。なぜなら、今まで100万人以上の人口がなければならないとされていた政令指定都市の要件が、総務省は、中心の都市だから将来的に100万都市になる可能性があるとして、人口80万人の浜松市や人口69万人の岡山市を政令指定都市とした。

これは、総務省が合併推進のために飴玉を与えたものである。少子高齢化の時代に、人口が増えるとは考えにくい。政令指定都市になれば、いきなり名古屋市などの大都市になるイメージを持つが物理的には何ら変わらない。

児童相談所の設置と国県道の管理、教職員の採用の権限が与えられる程度で、必要ない900キロもの国県道路の管理を任され、その対価として僅かな財源の委譲があっただけであった。

良い点といえば、企業誘致などの際に政令指定都市というブランドを手に入れたことが挙げられる。

しかし、政令指定都市には重みがない。国には地方6団体と呼ばれる、全国知事会、町村会、市長会、各議長会が存在するが、指定都市市長会はその中には含まれておらず、国と地方の協議の場にも入れてもらえない。

市長会においても地方分権に対しては温度差がある。なぜなら人口350万人の横浜市と人口数万人程度の小さな市とでは比較は難しい。

私は、人口30万人以上の中核市、20万人以上の特例市と政令指定都市を合わせた会を作りたいと考えている。

都道府県は、道州制になればなくなる存在であり、基礎自治体への分権に重点を置いていただきたい。

政令指定都市は自立した都市ばかりであり、地方分権のモデルになる地方自治体であるといえる。
本当にやるべきは、自立した都市を多く作ることである。





【 浜松市の自立に向けて 】


三位一体改革については、小泉元首相は非常に上手いネーミングを考えたと思うが、地方へ税源移譲を行った3兆円に対して、地方交付税交付金と補助金のカットが合計10兆円、差し引き7兆円の地方向け予算を削減することに、財務省は成功したことになる。

 

今まで義務的に国が支払ってきた経費を一方的に国がカットされたので、浜松市では無駄を省いて選択と集中で行政運営を行おうとしているが、行政コストが上がるような問題が色々と出ている。

例えば、近隣の3つの自治体と旧浜松市の一部を一緒にした浜松市内のある区では、公共施設の整備をめぐって、旧の自治体単位でそれぞれが要望するなどの問題が出ている。

 

また、産業の空洞化も深刻である。世界企業となっているスズキ㈱などの工場が生産集約のために海外や他の都道府県に出て行く。

 

かつて中曽根内閣の時に行財政改革が行われ、元㈱東芝社長の土光敏夫氏が国鉄、電電公社、専売公社の民営化を行った。

浜松市でも同様に行財政改革推進審議会を立ち上げ、会長にスズキ㈱会長兼社長の鈴木修氏、会長代行にヤマハ㈱顧問の伊藤修二氏に就任して頂いて、浜松市の行政改革を助けてもらっている。

地方自治体の経営は大変である。選択と集中について国に指導してやりたいぐらいだ。

 

また、これからは広域でいろんなことを考えることが必要である。

「三遠南信」東三河、遠州、南信州、各県の端ばかりが集まって広域連携を図っている。3地域の合計人口は230万、工業出荷額13兆円、そのまま県になれば非常に良い規模である。

 

私は、かねてから市町村が形を変えている中で、なぜ都道府県はそのままなのかという点に疑問を持っている。静岡県は非常に変わっており、未だに東部・中部・西部と言っている。浜松市は、殆ど東部とは交流が無いが、愛知県の豊橋市とは仲が良いため、こちらで県を作った方がよい。

 

現在の都道府県の形を決めたのは大久保利通である。廃藩置県を行った当時の明治政府は強い国家を作ろうとしていたため、大久保利通が強制的に合併させた。

その結果、各県では分離運動が発生し、徳島県は高知県から明治13年に分離、福井県は明治14年に石川県から分離、鳥取県は島根県から分離、佐賀県は長崎県から、宮崎県は鹿児島県から、奈良県は大阪府から分離、明治21年に香川県が愛媛県から分離したことを最後に分離運動は沈静化した、これは中央集権国家が成立した時期とほぼ同じである。

 

鳥取県は人口60万人程度、島根県が70万人台、佐賀県は85万人であるから、浜松市の人口とほぼ同じ程度である。

 



 質疑応答

○地方分権を進めるためには、自立した市町村が必要だとのことだったが、浜松市は元々大企業が市内にあった。大企業がない市町村でも自立することはできるのか。

 

地方分権が必要となる環境になれば、必ず日本は頑張ることが出来ると思う。通貨制度や防衛・外交以外は全て地方自治体がやるとなれば、九州や北海道は非常に強くなると思う。

なぜなら、九州は中国や東南アジアとの経済的なつながりを強くすれば良いし、北海道の近くには資源に恵まれたロシアが存在するので、こちらも経済的なつながりを強化すれば、自立することが出来る。ある程度、地域間に格差が生じることは仕方が無いことであり地域間競争をもたらすことで、より良い首長が生まれる。

○松下政経塾の印象は。

 

松下政経塾は勉強する場所というより道場という表現が適当である。特に松下幸之助氏の先見性が凄かった、松下氏は1980年代から、国政の二大政党制、地方分権、無税国家(無駄を省く国家)の必要性を説いておられた。これらの想いを前原国土交通大臣や、原口総務大臣など松下政経塾出身者は共有している。

 

○浜松市における外国人政策の状況や外国人参政権への私見は。

 

基本的には多文化共生の都市を目指している。特に浜松市はブラジル人が多いが、この不景気の影響を受けているため緊急的には住居や生活の手当て、雇用対策などの取り組みを行っているが、国が明確な方針を出していないため現実的には非常に厳しい。

国は、末端の地方自治体で起きている問題であるから見て見ぬふりをしている。外国人を日本へ呼ぶのか、呼ばずに鎖国をするのか、方針を明確に出す必要性がある。政府は曖昧な縦割り行政で対応をするのではなく、外国人問題対策専門の省庁を作るべきである。

また、外国人参政権について、私は慎重な立場を採っている。外国人に対して参政権を付与するのではなく、外国人の帰化要件の緩和を検討すべきだと考える。

 















 


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