知事リレー講義
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   2010年 1月 7日   愛媛県 加戸 守行 知事

 

   「 えひめ発! 地域主権型社会づくりに向けて 」
 

 

【 はじめに 】

全国に47人いる知事のうち、77歳の石原東京都知事が一番高齢で、私は75歳で2番目に高齢な都道府県知事である。

 

始めに愛媛県について紹介すると、全国人口に占める愛媛県の割合は1.15%で、経済は約1%なので「1%経済」と呼ばれている。特産物としては、みかんが自慢できる。

東京事務所が、「愛媛県のイメージ」について、東京都在住の男女600人の成人にアンケートを行った結果、みかんを挙げた人は92%、道後温泉を挙げた人は53%、NHKのスペシャルドラマ『坂の上の雲』に登場する俳人・正岡子規を挙げた人は22%、主人公の秋山好古、真之兄弟を挙げた人は僅か8%であった。

この調査は、『坂の上の雲』が放映される前に行ったものであるが、3年間に渡る放映が終わった後には、秋山兄弟は、みかんの次に挙げられるくらいに印象が強くなると思う。


【 愛媛県の特色 】

愛媛県では、養殖漁業が盛んで、マダイやハマチなどの養殖を通じて、全国3番目の出荷量を誇る。愛媛産のマダイは、東京の築地市場で取引されているマダイの約半分である。

また、愛媛県民の通勤・通学にかかる平均所要時間は20分で、日本一短い。趣味や娯楽に使う時間も、愛媛が日本一長く、1日あたり約53分、非常にのんびりした生活が出来る。

 

温州みかんの生産量は、かつて35年間連続で日本一であったが、台風等の影響を受けて、和歌山に負けた。しかし、みかんの親戚であるデコポンなどの生産量を合わせれば日本一となるため、現在は「柑橘大国」といわれている。また、キウイフルーツの生産量も非常に多い。

さらに、真珠についても全国一位の生産量であるが、三重県や神戸市に出荷された後に加工されるため、余り知られていない。

 

愛媛県は、現在「愛ブランド」というブランドを立ち上げている。これは、愛媛県が定めた日本一厳しい農薬や化学肥料の使用基準をクリアした農作物に対してのみ認められるブランドである。

例えば、愛媛県の畜産研究センターで開発された「愛媛甘とろ豚」は、県内産のハダカ麦を餌に育てているため、非常に美味しく、悪玉コレステロールを排出するオレイン酸が、一般的な豚以上に含まれていることが科学的に証明されている。

 

また、愛媛県には、素晴らしい自然景観、人情風土・歴史がある。愛媛県の「しまなみ街道」は、今治市から広島県尾道市までを結ぶ高速道路であり、世界最大の斜張橋である多々良大橋がある。

かつては、東洋のエーゲ海と呼んでいたが、現在はそれ以上だと思う。

 

さらに、砥部市にある砥部動物園は人工保育で生まれた白熊の「ピース」が知られており、現在は、ライオン、トラ、ゾウ、レッサーパンダの子どもなどが続々と生まれている。



【 愛媛県の再建への取り組み 】


 

現在、愛媛県は生き残りをかけた取り組みをしている。

昨年の政権交代で政権の座に着いた民主党は、マニュフェストの中で、地域主権を提唱し、民主党議員はこれを政策上の一丁目一番地としている。

しかし、今のところ、中央官庁に対する事業仕分けなどが中心に行われており、事業仕分けの姿を見て国民は喝采しているが、地方にも大きな影響が出ている。

 

現在、我が国の経済情勢は最悪であり、一昨年前の世界同時不況以降、G20が協力して不況からの抜け出しを試みている。中国の公共投資の影響を一部で受けているものの、日本国内全体を見れば非常に厳しい経済情勢である。 

 

経済政策には即効性があるものは存在しないが、愛媛県は4つの分野に限定した取り組みを進めている。

 

まず、食品分野について、愛媛県経済において、第一次産業である農業・漁業・林業分野の出荷額は余り大きくないが、産業比率は大きいため、県内の地域間格差をもたらす要因となっている。  

そこで、現地で作った産品を、現地で加工し(2次産業)、全国へ流通させる(3次産業)ことを、1次産業×2次産業×3次産業の6次産業と称して推進している。

 

次に、低炭素化について。鳩山内閣は1990年比で25%のCO2排出量の削減を目指しているが、愛媛県においても極力、温室効果ガスの排出量を削減し、電気自動車の導入や石油を燃料としていた動力を電気モーターに変えるなどの取り組みを行っている。愛媛県の産業は非常に優れているが、財政面での補助などテコ入れが必要である。

 

さらに挙げるのは、健康・福祉ビジネスと観光ビジネスである。

現在、少子高齢化の影響を受け、社会保障費の増大が問題となっている。この高齢化によって生じる費用を軽減させるための健康・福祉ビジネスに、愛媛県は注目している。

また、何とか『坂の上の雲』ブームに乗って観光業を浮揚させたいと思っている。それと、四国には「四国八十八箇所」のお遍路参りがあるので、四国の4県がタイアップして世界文化遺産への登録を目指している。

さらに、四国全体では、徳島県を舞台にしたNHK連続テレビ小説「ウエルかめ」に加えて、松山市を舞台にしたNHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」、今年からは高知県を舞台にしたNHK大河ドラマ「龍馬伝」の放映も行われている。

同時に、松山市には日本最古である3000年の歴史を持つ道後温泉がある。道後温泉には、歴代の天皇陛下がお越しになっていた。昔、朝鮮半島に向かう船旅の途中に休息をとる場所が現在の松山であり、額田大王も万葉集に「熱田津(にぎたづ)に 船乗りせむと 月待てば 潮もかないぬ 今は漕ぎ出でな」と詠んでいる。

 

ところで、現在、愛媛県が抱える問題として就職問題があげられる。近年にないくらいの就職氷河期の到来を受け、特に若者向けの支援を充実させるために、若年者就職支援センターを立ち上げ、企業とのマッチングに力を入れている。

 

知事就任以来、県内の市町村合併に力を入れてきた。私が合併推進の旗振りをした理由は、5つの家族が5軒の家にそれぞれ住んでいれば、各家庭に風呂や台所などの設備が5軒分必要であるのと同じで、市町村も個々に様々な施設が必要である。しかし1軒に5つの家族が住めば設備面でのコストが削減できるのと同じ理由で、市町村の共同生活(合併)が進められる。

 

就任時に70あった市町村は、現在は20になった。首長・議会・各種行政機構などの削減及びスリム化、人件費・物件費等の削減などを行い、合わせて市町村が県の機能を分担するために1,128項目に渡る県の権限を市町村に移譲した。これは、国に先んじた取り組みであった。

 

また、「えひめ夢提案制度」という制度を導入し、日ごろの生活において不自由な部分に関して提案を受け付けた。例えば、農山漁村で民宿をやるときに存在する洗い場の設置に関することやパンの製造に関することなど、色々な法的制限を改善しようとしている。

 

さらに、6年前、みかんが台風によって大きなダメージを受けた際に、大量廃棄をするのはもったいないので、学校給食として利用できないか検討を行ったが、給食センター側から反対意見が出た。理由を聞くと、みかんは厚生労働省の通達によって5回洗う必要があるため、非常に手間とコストがかかるとのことであった。過去に発生したO-157事件の影響で、野菜と果物は3回の水洗い、中性洗剤での洗浄と塩素消毒が必要ということであった。「皮をむいて食べる果物にも関わらず、子ども達に5回も洗って渡す必要があるのか。」、厚生労働省と4年戦って、最終的には、県による安全の保証が有れば条件を緩和するとの通達に変更された。

 

日本では何でもかんでも国が決める、霞ヶ関の官僚の判断で決める。この動きが日本の経済発展を制限している。もちろん大きな基準は必要である、例えば、老人施設・学校などの災害に関連する建物の建築基準などは必要であろう。しかし、現在愛媛県は老人介護の現場でボランティア3人が居れば正規職員2名に代えることが出来るという基準に変更しようとしているが、ボランティアは法的な拘束が出来ないとの理由から、厚生労働省から認められていない。しかし、必ず要求を通すことが出来ると信じている。




【 地方財政と地方消費税 】

本日配布している資料は、地方分権・地方財政についてまとめたアウトラインである。

まず、国の借金が増える理由について述べると、本来は予算の範囲内で行うべきものの中で、公共施設や橋、道路の整備などを目的とする場合のみ例外として、建設国債のみ発行が認められるが、財政法に特例法を作って、財政赤字の補填を目的とした赤字国債を起債している。

 

しかし、その一方で、地方は赤字地方債の起債が認められていないため、財政的に非常に厳しい。平成16年の三位一体改革に伴い、3年間で53千億円の地方向け予算が削減された。地方自治体にとって、地方交付税は、国からの仕送りのようなものであるが、仕送りを減らす三位一体改革の結果、全国の自治体は投資的経費(道路、橋、学校の建設目的の予算)を半分に減らした。また、愛媛県は3分の1以下まで減らしている。その一方で、社会保障費がどんどん増加している。

 

必死に予算のやりくりをしている全国の地方自治体は、平成23年には基金がゼロとなり、財政破綻する地方自治体が続出すると考えられている。

地方自治体は、平成11年に323万人いた職員の数を、平成20年は289万人まで削減した。その一方で国は、僅か2%しかカットしていない。このままでは、地方自治体のサービス水準を低下させるしかない。

学校の職員数を削減し、40人学級から60人学級に変更すれば2兆円削減、全国の交番の数の削減や乳幼児医療の無償化予算の削減などを合算しても5兆2千億円であり、まだ79千億円分の予算が足りないうえ、社会保障費は増える一方である。

 

高齢者や障害者などへの社会保障費は年間1兆円ずつ増加しているが、自民党は毎年2,200億円をカットした。しかし、この対応が結果的に自民党の選挙の敗因の一つとなったといわれている。

 

これらの財源の手当てとして考えられているのが、地方消費税である。地方消費税は、景気の変動を受けても殆ど横ばいであるが、法人2税や住民税は景気変動を受けて税収額にアップダウンがある。また、法人税は東京都と沖縄県との差が6.6倍の差があるが、地方消費税は、生活で必要なものは購入するため、東京都と沖縄県の間の格差は1.8倍である。現在、消費税5%のうち、2.82%が国の歳入となり、地方への歳入は2.18%となっている。

政府には基礎年金を消費税で賄おうとする動きがあるが、この場合地方の歳入分は一体どうなるのか。

 

国の社会保障は年間1兆円ずつ増加している中で、地方の社会保障費も年間7千億円ずつ増加している。抜本的な歳入増加策が不可避であるが、来年度の国家予算は92兆円といわれる。

 

まもなく国会の論戦が始まる。歳入のうち国税が37兆円、国債発行額は44兆円、残りは埋蔵金11兆円から捻出するとされている。埋蔵金とは、外国為替特別会計と財政投融資特別会計の予備金として置かれていた資金で、急激な為替変動等に対応することを目的としている。毎年、歳出後に残った予算を使って、国債の一部を償還していたが、毎年の利払いのみで21兆円の予算が必要であるため、来年度の予算編成は注目が必要だ。特に「こども手当」の支給については、初年度13千円/1人、翌年度2万6千円/1人を予定しており、再来年度は58兆円の分の国債の発行が必要となる。

今の高齢者のための借金を、孫達に支払わせる財政運営は果たして妥当であろうか。

 

愛媛県は給与カットの影響で松山市役所の給料の方が高くなっており、愛媛県庁の職員採用試験の受験者が松山市役所へと流れている。

皆さんには、現在の地方自治体の状況を知ってほしい。このままでは国も、地方も成り立たない。

 

愛媛県はお金がかからない政策を行っている。一つは、サマー・ウインターボランティアキャンペーンである。夏と冬に場所と期間を記したボランティアハンドブックを作り、人手が足りない場所へのボランティアの要請を行っている。1年目1万7千人の参加者が、昨年には4万4千人に増加した。

参加者の方々は、行政が出来ない分野のボランティア活動に参加して下さった。例えば、県が管理している河川、海岸、道路の清掃をボランティア団体にお願いしている。

 

また、財政構造改革の下で色々なことを行っている、知事公舎や遊休地の売却、4年連続の給与カット、予算の「ゼロ予算化」。ゼロ予算化とは、県がこれをやりたいというアイディアを出してもらって、本来公共サービスとして行う事業をボランティアでやってもらっている。

現在のようにお金が無い時は、県民の力や気持ちで協力してもらう
お願いをしており、不要となった物でも老人施設や児童施設に持っていっている。

 

私は、日本の未来を作る先頭に立ちたいと思う。

昨年7月に地方消費税に関する問題を全国知事会としてとりまとめを行ったが、衆議院議員選挙の選挙妨害になる可能性があるため、選挙後まで公開を差し控えていた。

自民党は3年先に消費税問題を考えるといっていた、民主党は4年先に考えるといった。国会議員は選挙の票を取るため、落選の恐怖心によって消費税問題の議論をやらないが、全国知事会地方財政委員長として議論を強く望みたい。







 質疑応答




    税金が高い国は、高福祉、高負担であるというイメージがある。日本において仮に財源確保のために増税を行うのであれば、高負担、低福祉という形になるのでは。

 

スウェーデンでは、収入の約70%を税金と社会保険料として徴収されているが。国民には、老後に対する安心感がある。

西ヨーロッパの諸国は消費税が約20%程度である一方、日本の消費税はアメリカ並みに低い。また、米国では健康保険を個人が自ら保険会社を選択して加入するという形態であるため、医療サービスに関する問題が出ている。

日本の問題は、社会保障関連の歳出が増加しているため、地方自治体が財政面で困っているということが増税推進の背景に存在する。

ただ、地方の側からは、中福祉、中負担の体制を提唱する必要があると考える。

 

○  企業誘致に関する取り組みは。

 

昨年は、太陽電池関連の工場を2つ誘致した。これは他の四国の県より地の利があるためだと思う。また企業のコールセンター業務を誘致しているが、景気の浮揚がなければ企業誘致の拡大は難しい。

 

     「坂の上の雲ミュージアム」の展示には改善が必要ではないか。

 

坂の上の雲ミュージアムは、松山市の施設であり、中村市長の肝いりで建てられた。確かに、常設展示だけででは、観光客のリピーター化を図ることは難しいと思うが、「真之と子規」や「秋山好古」などのテーマ展示に非常に力を入れて努力している。

また、ミュージアムの北側には「晩翠荘」(久松家の旧迎賓館)があり、正岡子規と夏目漱石が一時期住んでいた愚陀仏庵と呼ばれる建物もある、松山市内には松山城や秋山兄弟の生誕地など様々な観光スポットがあり、点ではなく面で観光客を受け入れる方法を考える必要性がある。

 

     後期高齢者医療について、少子高齢化の中で医療費の負担が多くなるので、予防医療の導入が必要では。

 

救急病院の医師、産科・小児科、僻地医療が難しい。愛媛大学、香川大学と連携して奨学金による医師の育成をしている。自治医科大学では年間20名程度である。

介護の必要がない、元気な取り組み、体を動かしてもらう会の参加を促しているが、参加者がなかなか集まらない。また、ボランティアによる社会参加を求めていきたい。

 

     地方消費税の引き上げについて、低所得者への配慮は。

知事会では、食料費その他2段階の税率にする意見もある。しかし、税の徴収上統一すべきであると思う。

生活保護基準の調整や税額の補助を行い、むしろ税以外の手段で問題の処理を行うことが適当である。

消費税議論が本格化すれば、いろいろと議論が出て、調整は可能であろう。

 













 


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