知事リレー講義
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2010年 9月 28日           立命館大学 公務研究科 教授  今仲 康之先生


   

 今回は講義担当者である今仲教授より、本講義の受講上の留意点、地方自治や地方財源のあり方など、現在の地方公共団体を取り巻く状況について説明があった。




1.地方公共団体を取り巻く状況と受講上の留意点

現在の潮流として、グローバル化、情報化が進展し、国内では高齢化、少子化が進み、人口は減少に転じている。また、地球環境の保全が必要となり、省資源、省エネルギー、資源リサイクル、新エネルギーの活用などが重要となっている。これらのことは皆さんも把握していると思う。

グローバル化については、地域から工場が外国へ出て行くという空洞化が、課題として上げられるが、そのような中でそれぞれの地域でどのように対応していくべきかということが、政策として考えられる。

つまり、世の中の変化によって、課題が出てくるわけで、その課題に対して、それぞれの地方公共団体が、それぞれの地域の現状を踏まえつつ、対応していくことになる。

それらの対応が、つまりは政策として、知事や市長の講演の中で語られる。これが全国知事リレー講義の最も重要なところである。

現在、どのようなことが地域において課題となっているのか、その原因は何なのか、それに対して、各地方公共団体がどのように対応しようとしているのかということを、しっかり聞いてほしい。

今は、国際的にも国内的にも大転換期であり、それに対してどのような政策をとっていこうとしているのかということを、説明していただけるわけなので、そこをよく聞いてもらいたい。

また、それぞれの地方公共団体では状況は異なるので、それぞれの最も重要と考える課題に、どのように対処していくのかということが、政策として出てくる。

このため、一回一回の講義がつながっていて体系的に理解できるのかというと、ある程度体系的にはなるが、それぞれの講義は独立していて、体系化されているものではない。

また、それぞれの講義の内容は、経済学や財政学、法律、政治学、行政学といったことに関係して、かなり水準の高いものになっている。分からないことやもう少しよく調べたいと思うことは、インターネットなどを使って調べてほしい。

就職のことを考えても、大学でいろいろと体系的な知識を学ぶことは大切だが、あわせて現状についてもよく分かっているようにしないといけない。現在の状況を把握し、これからどうすべきかということを、議論ができることが大切である。

この知事リレー講義は、皆さんにとって面白い話を聞ける興味深い講義だが、あわせて皆さんが、就職での面接を受けるとき、大学から卒業して実際に仕事をするときなどに、確実に役に立つと言って間違いない。

 

なお、本日の講義は、現在、地域主権戦略大綱が閣議決定されているので、それが出てくる背景や枠組みを、理解していただこうとするためのものである。





2.地方公共団体の事務と財政


(地方分権一括法による改正前の事務)

地方分権一括法による改正前と後で、地方公共団体の事務の位置付けは大きく変わってきた。

地方分権一括法による改正前には、機関委任事務というのがあった。

機関委任事務とは、地方公共団体の事務ではないが、地方公共団体の機関(知事や市町村長)に、国が事務をおろし、地方公共団体の機関が、国の下部機関として事務を行うというもので、かなりの数があった。国の機関が上部機関で、地方公共団体の機関は下部機関で、上命下達の上下関係となっていた。

また、地方公共団体の事務は三つに分かれており、団体委任事務、公共事務、行政事務とされていた。

団体委任事務とは、国の事務を地方公共団体という団体に委任するというもので、国の事務だが、団体として委任されているので、地方公共団体の事務となる。団体委任事務の中で典型的なものは警察の事務である。つまり、団体委任事務は基本的に国の制度として作られ、その制度の中で地方公共団体が執行していくという枠組である。それらは、現行法では自治事務になっている。自治事務となっても、どのような仕組みで行っていくかということは、国の法律の体系でもって基本的に規定されることになる。

公共事務とは、地方公共団体が独自で公共サービスを行う事務である。公共サービスには様々なものがあるが、地方道の整備や上水道の整備といったことなどが上げられる。

行政事務は、一般的に使われる行政という言葉とは異なり、ここでの行政とは、住民の権利を制限し、義務を課すという意味である。団体委任事務の中にも行政事務はあり、警察の事務はそういったものに当たるが、したがって、ここの行政事務は、地方公共団体が独自に条例で定めるものであった。

 

(地方分権一括法による改正後の事務)

地方分権一括法による改正前は前述のような事務のあり方となっていたが、現行法では大きく変わった。機関委任事務はなくなり、地方公共団体の長が国の下部機関として位置付けられるのではなくなった。機関委任事務は、団体委任事務とほぼ同じように地方公共団体の事務ということになった。

また、機関委任事務の中で、地方事務官が行っていた事務は国の事務となり、国が直接行うことになった。典型的なものとして、以前社会保険庁という組織があったが、その事務は、元々、地方事務官が行う事務であった。地方事務官は地方の機関で仕事をしていたが、身分は国家公務員であったため、組織のガバナンスが曖昧になっていた。その地方事務官制度は廃止された。

現在は、地方公共団体の事務は、自治事務と法定受託事務となっている。

このうち、法定受託事務は、国が本来果たすべき役割のもので、国としてその適正な処理を特に確保する必要があることから、法律や政令に基づき詳細にその実施に関することが仕組まれるものである。そして、自治事務は、地方公共団体の事務で、法定受託事務以外のものである。

このようになるに至ったいきさつを振り返ると、戦前において、都道府県は、主として国の行政機関であって、府県会があり、地方公共団体としての側面も持っていた。戦後、日本国憲法により、都道府県は地方公共団体となったが、戦前からずっと国の機関として仕事をしていたため、国の事務が残らざるを得ず、その部分が機関委任事務となったものである。また、市町村は、元々、地方公共団体として理解されていて、合わせて機関委任事務を行うものと捉えられていた。

このようなため、戦後も機関委任事務は残り続け、それがやっと整理されて、法定受託事務と自治事務に区分されたものである。まさに、地方分権一括法を作るとき、機関委任事務をどうするかということが大問題であった。

 

(憲法における地方自治の規定)

憲法第92条には、「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定める。」と書かれている。地方自治の本旨とは、団体自治と住民自治であるとされる。団体自治とは、国という団体とは別に、地方公共団体という団体が、自治を行うということを意味する。住民自治とは、住民が民主主義でもって、自治を行うということで、「地方自治は民主主義の学校だ」という言葉もある。団体自治と住民自治を併せて地方自治の本旨だとされている。

機関委任事務は国の事務で、地方自治とは関係がないにもかかわらず、地方公共団体の機関が、国の事務を処理していたのだから、非常に奇妙な位置付けであったということが分かるのではないか。

憲法第93条第1項では、「地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。」とされており、議会は、地方公共団体の団体としての重要な意思を決定する機関である。第2項では、「地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。」とされている。なお、現在のところ、法律の定めるその他の吏員というのは、存在しておらず、直接選挙すべきものは、長と議会の議員だけである。

憲法第94条では、「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。」とされている。

地方自治には、自治行政権、自治財政権、自治立法権の三つがある。自治行政権とは、自治でもって行政をしていくという意味で、自治財政権とは、自治でもって財政を行うという意味で、自治立法権は条例を制定していく権限を意味する。

憲法第95条は、地方自治特別法に関する条文で、「一の地方公共団体のみに適用される特別法は、法律の定めるところにより、その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ、国会は、これを制定することができない。」とされている。

なお、東京都制に関して、大阪府も都制を敷きたいと橋下知事が言っているのを、マスコミを通じて知っていると思うが、都政は地方自治法に定められていて、地方自治法は地方自治特別法とはなっていないので、都制は東京都以外でも執行され得る制度である。

 

(地方自治法における規定)

地方自治法第1条の2では、地方公共団体の役割と国の役割との関係について、原則を定めている。

第1項では「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。」とされている。

しかし、地方公共団体が自主的に行うとなっていても、国の枠組みの中で制度が決められていて、身動きできないという課題が出ている。そのために、地方分権改革推進委員会ができ、第13項とも関係して、勧告がなされ、そして、地域主権戦略大綱の中で、国の法令による義務付けや枠付けについて、地方自治としてゆだねるべきものは外していこうとしているところである。

また、国の法令による義務付けや枠付けを外したときに、その部分をどうするかということになるが、憲法の枠組み、団体自治や住民自治ということから、どうすれば良いのかを考えてほしい。地方公共団体の議事機関としての議会と長、条例というのがあったが、条例制定権の拡大ということで、条例を制定して、どういう基準や枠組みにするかを決めるようにしていくことが、地方自治ということになる。

第2項では、国は、@国際社会における国家としての存立にかかわる事務、例えば、外交、防衛、通貨、司法など、A全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは全国的な視点に立って行わなければならない施策及び事業の実施、例えば、労働基準、公正取引に関する事務、生活保護の制度など、B全国的な規模で若しくは全国的な視点に立って行わなければならない施策の実施及び事業の実施、例えば、骨格的・基盤的な交通体系に関する事業など、国が本来果たすべき役割を、重点的に担うとされている。

そして、住民に身近な行政は、できる限り地方公共団体にゆだねるものとされており、国と地方公共団体の間で適切に役割を分担するものとされている。

住民に身近な行政は出来る限り地方公共団体にゆだねるということを、「近接制の原理」と呼び、市町村でできないことを都道府県でやり、都道府県でできないことを国がやるというのを、「補完性の原理」と言っている。

第8項では、自治事務とは、法定受託事務以外のものをいうとし、第9項では、法定受託事務について、国の事務に関する第一号法定受託事務と、都道府県の事務に関する第二号法定受託事務とがあることを規定している。第一号法定受託事務については、市町村での戸籍、都道府県でのパスポートの事務が、分かりやすい法定受託事務の例である。

自治事務は、その中に、国が制度設定するものがあるが、地方自治の枠組みは働くものであり、第13項では、そのような自治事務について、国は、地方公共団体が地域の特性に応じて当該事務を処理することができるよう、特に配慮しなければならないとしている。

 

(地方財政について)

法定受託事務について、法定受託事務だから、国庫補助金が入るかというと、そうではない。例えば、戸籍事務は、法定受託事務だが、国庫補助金は入らず、基準財政需要額に算入され、地方交付税の体系の中で財源が確保される。

また、自治事務について、地方分権一括法による改正前の公共事務に当たるものは、国庫補助金が入らないのかというと、これもそうでもない。例えば、地方道の整備については、国庫補助金の制度がある。

そもそも、地方財政法第9条では、地方公共団体の事務を行うために要する経費は、当該地方公共団体が、全額負担するとされている。

しかし、実際、国からの受託事務があるにもかかわらず、どうして全額を地方財源をもって負担しないといけないのかと、不思議に思うのではないか。

そこで、第10条では、国と地方公共団体相互の利害に関係がある事務のうち、その円滑な運営を期するためには、国が進んで経費を負担する必要があるものは、国が、その経費の全部又は一部を負担するとされる。

また、第10条の2を見ると、地方公共団体が、国民経済に適合するように総合的に樹立された計画に従って実施しなければならない法律又は政令で定める土木その他の建設事業に要する経費は、国が、その経費の全部又は一部を負担するとされている。

 それに、第10条の3では、災害に関する経費で、地方税法又は地方交付税法でその財政需要に適合した財源を得ることが困難なものには、国が、その経費の一部を負担するとされている。

これらの国の負担は、国庫負担金と呼ばれるが、一般的には国庫補助金あるいは国庫支出金と言われている。

第10条については、例えば、生活保護に要する経費について、国はその4分の3を負担し、地方公共団体は4分の1を負担する。

第10条の2については、例えば、地方道に関して、補助率2分の1の場合など、国がその分を負担するものがある。

 また、第16条では、地方公共団体に、国は、奨励的補助金、それと、条件不利地域には財政援助的補助金を、交付することができるとされている。

ところで、現行法の枠組みでも、もとは地方分権一括法による改正前の機関委任事務や団体委任事務の性格であったものは、国の制度として決めるべきことは、決まっている。

それに対して、もともと地方公共団体の公共事務や行政事務に当たるものは、独自にやっていけるものである。ただ、そのように独自で行っていけるものであっても、地方財政の関係から、国庫補助金がある場合に、それをうまく活用して、財政的に有利に事務を進めようとすると、国庫補助制度の枠組みに、制約されることになる。

しかし、グローバル化や地球環境保全の問題、少子高齢化に関する取り組みなどは、国が何かをやっていない限り、まったく自由に出来る。つまり、そのようなものについては、地方自治として、まったく自由にできるのだが、ただし、その部分の財政はなかなかしんどいのが実情である。

それは、地方公共団体の財政が、次のような制度として、構築されているからである。

 まず、地方財政は、標準的な歳出に関する一般財源は、地方交付税制度において、保障されている。

すなわち、標準的な歳出に関する一般財源は、基準財政需要額として積算され、他方、基準財政収入額、これは、地方税収を標準税率で算定した標準税収入の4分の3、それと地方譲与税などを合算したものであるが、基準財政需要額に基準財政収入額が不足する場合、その差額を、地方交付税によって補てんするものである。そして、基準財政収入額が、基準財政需要額を上回る場合には、不交付団体ということになる。

 しかし、標準的な歳出については、そのように保障されているが、それを超えて、地方公共団体が、それぞれ地方の実情に合った独自の政策を行おうとすると、そこには、いわゆる留保財源、つまり、標準税収入の4分の1があることになる。

 だが、留保財源は、標準税収入の4分の1であることから、そもそも標準税収入が少なければ、すなわち、基準財政収入額を基準財政需要額で割ったものを、財政力指数というが、財政力指数が低い、逆に見ると、地方交付税への依存が高いところは、留保財源が少なく、したがって、独自の政策を行う財源が少ないものである。

 このため、独自の政策のために、財源が必要であれば、標準税率を超えて、超過課税を行うか、法定外税を設けるか、その他特別の財源を探す必要がある。

 ただ、超過課税をするためには、議会において、超過税率を議決する必要があり、住民の目が厳しいところから、個人所得に超過課税をしているところはまずなく、法人に超過課税をしているところがあるというのが、現実である。

 このことに関連して、地方公共団体には、課税の自主権がなく、地方税法でがんじがらめになっているという意見もあるが、世界を見ても、ある程度税収が確保できる税目は限られており、所得、消費、資産について、地方税で大きな税収を確保できる税目は、すべての地方公共団体の税源として、地方税法で規定されている。

また、法定外税については、それを設けるにあたって、国と地方公共団体で協議をしないといけないが、国と課税標準を同一にする場合や、国内関税にあたる場合、国の経済政策に対して適切でないものでなければ、総務大臣は同意しなければならないことになっている。このため、法定外税は設けにくいものとは言えないが、法定外税で税収の大きな税目を作るというのはなかなか難しいのが、実際のところである。

 

(地方公共団体間の税収格差)

 地方自治において、地方財政は、本来、地方の行政として必要なサービスを、住民に提供するものであり、したがって、その負担は、住民がよく理解して負担するという、受益と負担の関係が、明瞭であることが、ふさわしい。

 そういう意味で、地方財政にとって、地方税収は、最も大切な財源である。

 ところで、現在、地方公共団体間の税収には、かなり大きな格差がある。

人口一人当たりの税収額の指数では、地方税全体では、約3倍の開きとなっている。また、法人事業税と法人住民税、いわゆる法人二税では、格差が6.6倍となっている。個人住民税では3.0倍、地方消費税では1.8倍、固定資産税では2.2倍となっている。

これらを見てみると、これからの地方税はどういう体系であるべきかということが、見えてくるのではないか。

法人関係の税収は減らし、消費に関する税収を増やすというあり方に、地方税の体系をもっていくことで、法人の所得という景気に左右されやすい税体系から、消費という安定した税源で税収を確保するとともに、地方公共団体の税源の均等化を図ることによって、留保財源の格差が大きく開かないようにすることが必要である。

地域主権戦略大綱でも、偏在性の少ない地方消費税などの税源に重点を置くべきだとしている。また、全国知事会も、地方消費税を増税すべきだと主張している。

今日、社会保障関係費が伸び続けているという枠組みの中で、広く全体に課税していく

消費税は、その意味で重要な税源であるが、地方公共団体にとっては、社会保障財源を確保するとともに、地方公共団体間の税収格差を縮めるという観点からも、重要なものであることが分かる。

 なお、地方財政計画に、不交付団体水準超経費というのがある。水準超経費とは、基準財政収入額が基準財政需要額を超える場合、それを超えて歳入する税収に対応した経費ということで、金額では、平成21年度で1兆2800億円、平成22年度で6500億円とかなりの額となっている。特に景気が良くなると、法人関係税で東京都などが税収を伸ばすことから、多額の水準超経費が出てくる。

これについては、地方特別法人税というのを作り、法人事業税の一部を国税に変え、その変えた部分を地方譲与税という形で地方に配分するとこととしたが、本来、消費税の見直しを行って、法人事業税での調整をするというのは、止めるべきものであると思われる。










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